大判例

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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8667号 判決

主文

一1  第一事件被告は別紙第一事件原告別認容金額一覧表の原告名欄記載の同事件各原告に対し、同表の認容金額欄記載の各金員及び同表の遅延損害金欄記載の各内金につき各起算日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第二事件被告は同事件原告に対し、三〇四万三七九二円及びこれに対する昭和六一年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件原告ら及び第二事件原告のその余の各請求をいずれも棄却する。

三  第一事件に関する訴訟費用はこれを四分し、その一を同事件原告らの、その余を同事件被告の負担とし、第二事件に関する訴訟費用はこれを一〇分し、その一を同事件原告の、その余を同事件被告の負担とする。

四  この判決は、一1及び2に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

(第一事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は、別紙損害一覧表の原告名欄記載の各原告に対し、同表の損害総合計欄記載の各金員及び内同表の弁護士費用を除く損害合計欄記載の各金員に対する昭和五四年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 担保を条件とする仮執行免脱宣言

(第二事件について)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、三三二万八九四二円及びこれに対する昭和六一年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告ら

後記事故当時、第一事件原告やよい運送株式会社(以下「第一事件原告やよい運送」という。)、同隅田川運送株式会社(以下「第一事件原告隅田川運送」という。)、同峯岸運送有限会社(以下「第一事件原告峯岸運送」という。)、同日発運輸株式会社(以下「第一事件原告日発運輸」という。)、同有限会社小碇運輸(以下「第一事件原告小碇運輸」という。)、同五十嵐運輸株式会社(以下「第一事件原告五十嵐運輸」という。)、同有限会社富士中央運送(以下「第一事件原告富士中央運送」という。)、同浜北トランスポート株式会社(以下「第一事件原告浜北トランスポート」という。)、同幸伸運輸倉庫株式会社(以下「第一事件原告幸伸運輸倉庫」という。)、同協業組合浜松輸送センター(以下「第一事件原告浜松輸送センター」という。)、同日急株式会社(以下「第一事件原告日急」という。)、同豊田陸運株式会社(以下「第一事件原告豊田陸運」という。)、同東洋陸運株式会社(以下「第一事件原告東洋陸運」という。)、同東礪運輸株式会社(以下「第一事件原告東礪運輸」という。)、同愛知陸運株式会社(以下「第一事件原告愛知陸運」という。)、同株式会社ポッカライン(以下「第一事件原告ポッカライン」という。)、同株式会社柴田自動車(以下「第一事件原告柴田自動車」という。)、同刈谷通運株式会社(以下「第一事件原告刈谷通運」という。)、同中部運輸株式会社(以下「第一事件原告中部運輸」という。)、同南勢運輸有限会社(以下「第一事件原告南勢運輸」という。)、同北勢運送株式会社(以下「第一事件原告北勢運送」という。)、同日本運送株式会社(以下「第一事件原告日本運送」という。)、同有限会社山一運送(以下「第一事件原告山一運送」という。)、同丸水運輸株式会社(以下「第一事件原告丸水運輸」という。)、同今津陸運株式会社(以下「第一事件原告今津陸運」という。)、同大阪梅田運送株式会社(以下「第一事件原告大阪梅田運送」という。)、同山野運輸倉庫株式会社(以下「第一事件原告山野運輸倉庫」という。)、同丸松運送株式会社(以下「第一事件原告丸松運送」という。)、同山陽自動車運送株式会社(以下「第一事件原告山陽自動車運送」という。)、同曽爾運送株式会社(以下「第一事件原告曽爾運送」という。)、同松茂運輸株式会社(以下「第一事件原告松茂運輸」という。)、同宝海運株式会社(以下「第一事件原告宝海運」という。)、同大川陸運株式会社(以下「第一事件原告大川陸運」という。)、同高知通運株式会社(以下「第一事件原告高知通運」という。)、同和気運輸有限会社(以下「第一事件原告和気運輸」という。)及び同司運輸株式会社(以下「第一事件原告司運輸」という。なお、右の第一事件原告三六名を以下「第一事件原告ら」という。)は、いずれも道路運送法に基づき一般自動車運送事業の免許を受けて、貨物運送業を営む会社であり、第二事件原告山下金属株式会社(以下「第二事件原告」という。なお、第一事件原告ら及び第二事件原告をあわせて「原告ら」という。)は、金属材料の販売等を業とする会社であった。原告らは、後記事故により、それぞれ所有していた車両等を焼失した。

(二) 被告

被告は、日本道路公団法に基づいて設立され、その通行又は利用について料金を徴収することができる道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を行うこと等の業務を行う国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条一項所定の公共団体であり、右業務として後記事故当時東名高速道路及び同道路と一体をなしている日本坂トンネルを設置し管理していた。

2  事故の発生

昭和五四年七月一一日、東名高速道路下り線日本坂トンネル(以下「本件トンネル」という。)内において、大型貨物自動車四台及び普通乗用自動車二台が関係する追突事故(以下「本件追突事故」という。)が発生し、車両火災となって右の車両六台を焼失させた(以下「本件車両火災」という。)ほか、さらに、本件トンネル内に停車していた後続車両一六七台を焼失させた(以下「本件延焼火災」という。なお、本件追突事故、本件車両火災及び本件延焼火災を一体として「本件事故」といい、本件車両火災及び本件延焼火災を一体として「本件火災」という。)。

3  事故の状況

(一) 本件トンネルの状況

(1) 設置状況

東名高速道路は、東京都世田谷区を起点とし、神奈川県及び静岡県の両県を経て愛知県小牧市において名神高速道路と接続する全長三四六・七キロメートルの高速道路であり、昭和四三年四月二五日に部分的に供用が開始され、昭和四四年五月二六日に全線の供用が開始された。

日本坂トンネルは、東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間に昭和四四年に設置された上下線分離方式のトンネルであり、上り線用のトンネルは長さ二〇〇五メートル、本件トンネル(下り線用のトンネル)は長さ二〇四五メートルであった。本件トンネルは、静岡インターチェンジ側入口(以下「本件トンネル東坑口」という。)から進行するとしばらく上り勾配であり、途中から焼津インターチェンジ側出口(以下「本件トンネル西坑口」という。)まで二・五パーセントの下り勾配になっていた。また、東名高速道路以外の道路を通って同トンネルに到ることは容易ではない状況であった。なお、本件トンネル西坑口では地形上駿河湾から吹く強い西風が一年中まともに吹き付ける状態であった。

本件トンネル内の道路は、幅員各三・六メートルの走行車線及び追越車線の二車線並びに両側に設けられた幅員各〇・七五メートルの側帯から構成された幅員七・九五メートルの道路であり、その通行に関して危険物積載禁止等の通行規制はなかった。

(2) 防災設備

被告は、トンネル内における火災事故等に対応するため、左の防災設備を本件トンネルに設けていた。

ア 火災感知器

火災感知器は、発生した火災を自動的に検出し、その位置を被告の東京第一管理局静岡管理事務所(以下「静岡管理事務所」という。)コントロール室(以下「コントロール室」という。)に通報するためのものであり、本件トンネル内に一二メートル間隔で向い合わせに合計三四四個が設置されていた。火災感知器で感知された情報は、コントロール室の操作卓に表示され、ベルが鳴って知らされることになっていたが、操作卓に表示される感知位置は、上り線用トンネルか本件トンネルか、トンネル中央部より東坑口側か西坑口側かの区別のみであった。

イ 手動通報機

通報設備として手動通報機が設置されていた。

ウ 非常電話

非常電話は、事故当事者又は発見者が通報するためのものであり、走行車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で一二個設置されていた。非常電話の通話先は、神奈川県川崎市にある被告の東京第一管理局交通管制室(以下「管制室」という。)であった。通話している非常電話の位置は管制室のグラフィックパネルに表示されたが、その表示は本件トンネル全体を一区画として表示する仕様であったから、本件トンネル内のどの位置の非常電話を使用しているのかを表示自体から判別することはできなかった。

エ ITV

ITVは、トンネル内の状況を監視するためのテレビで、本件トンネル内の追越車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で設置された一〇台のカメラとコントロール室に設置された三台のモニターによって構成されていた。本件事故当時は常時監視体制ではなく、必要に応じてスイッチを入力して画像を写し出すことになっていた。本件トンネルのITVは、火災感知器等の通報設備とは連動していなかったため、手動で順次カメラを切り替えていくことによって事故発生地点を探していかなければならないものであった。

オ 消火栓

消火栓は、トンネル内で発生した火災を初期に消火し又は制圧するための設備で、追越車線側に四八メートル間隔で四二個設置されていた。その操作は事故当事者又は発見者に期待していた。格納箱に納められたホースを引出し、格納箱内右上方の赤塗りのレバーを手前に倒し、その上で、格納箱内上方奥にある起動釦を押さない限り水は出ないようになっていた。また、コントロール室において消火ポンプの鎖錠を解放しない限り水は出ないようになっていた。ホースの長さは三〇メートルであり、四八メートル間隔に設置されていたから、計算上は火災現場に最も近い消火栓を使用すればホースの届かないところはないはずであった。

カ 消火器

消火栓と同じ場所に二個ずつ合計八四個の消火器が設置されていた。

キ 給水栓

給水栓が東西両坑口に各一個設置されていた。

ク 水噴霧装置

水噴霧装置は、水を噴霧状に放射して火災を抑圧又は消火あるいは火熱からトンネル施設等を冷却保護し、火災の延焼を防止するための設備で、火災地点の一区画三六メートルが同時に一斉放水される仕組みになっていた。また、必要に応じてそれに隣接するもう一区画三六メートルも放水可能となっていたから、合計七二メートルの範囲で一斉放水できる仕様であった。放水される二区画は火災感知の順に連続した二区画であった。水を放水するスプレーヘッドは、両側壁面ボード部に四メートル間隔で一〇二四箇所設置され、一区画一八個で構成されていた。本件事故当時用意されていた主水槽の容量一七〇立方メートルの水で四〇分間の放水が可能であった。水噴霧装置は、機械的には火災感知器と連動して作動する仕様となっていて、火災感知器が感知すると同時に放水を開始する仕組みになっていたが、西日の太陽光線や自動車の前照灯の照明に対しても感知することがあったため、連動して作動する仕組みを改めて、本件事故当時はコントロール室で火災を確認してから水噴霧装置の鎖錠を解放しないと放水しないようになっていた。

ケ 水槽及び消火ポンプ

消火栓、給水栓及び水噴霧装置に送水するために東坑口に容量一七〇立方メートルの主水槽を設け、消火ポンプにより加圧して送水していた。

コ 可変標示板

非常警報設備として東名高速道路下り線小坂トンネルの東坑口から東京寄り二一〇メートルの地点の追越車線側に可変標示板(以下「本件可変標示板」という。)が設置されていた。非常警報設備は、トンネルにおける自動車火災事故等の発生を後続車又は対向車に報知、警報し、それに伴う二次的災害を軽減するために、運転者の視覚及び聴覚に警報を与える固定設備であり、その目的とするところは、〈1〉トンネル内への自動車の進入禁止及び〈2〉トンネル内の自動車を速やかにトンネル外へ退避させることであり、それによって延焼を免れることができるのであった。非常警報設備は、単に視覚による警報標示だけでは高速道路における運転者の心理から効果が薄いから、音信号発生装置による聴覚信号を併用することが望ましいとされていたため、本件事故当時設置されていた本件可変標示板にもスピーカーによるサイレン音の吹鳴による聴覚信号装置が併設されていたが、この音信号のサイレンは本件事故当時は吹鳴しないようになっていた。高速度での走行が許される高速道路上のトンネルでは、事故発生時に速やかに進入禁止を表示したとしても、それ以前に表示板を通過してしまった車両は順次トンネル内に進入してしまうから、トンネル内にも表示板を設ける必要があったが、本件事故当時の本件トンネルにはその設備はなかった。

サ 送風機

トンネル内の換気用として東西両換気塔に各六台の送風機が設置され、そのうち各三台が本件トンネル用であった。通常の場合には、この送風機によって外気を吸い込んでトンネル内の天井板に設けた送風穴から車道に送り出し、車道内の空気の清浄を図っていたが、火災発生の場合には、送風機を逆転させて車道内の煙をトンネル外に排出する仕組みになっていた。その排煙能力は送風能力の五五パーセントであった。

(3) 防災設備の管理・運用体制

事故に関する情報は、すべて管制室に集められて処理するような体制がとられていた。まず、非常電話からの通報は管制室が直接受信していた。火災感知器やITVによってコントロール室が得た情報は、専用電話によって管制室に通報されるようになっていた。そして、消防署、警察署への通報連絡は、すべて管制室から専用電話によって行われていた。また、被告が運行していた巡回車をはじめ被告内部の各部署への通報連絡も管制室を通じて行われていた。そのために指令電話と呼ばれる専用回線が架設されていたほか、移動無線と呼ばれる無線装置が用意されていた。このような通報体制をとっていたため、コントロール室から直接に消防署、警察署及び内部の各部署への通報連絡は予定されておらず、そのための特別な設備はなかった。コントロール室では、非常電話を除く本件トンネルの防災設備の管理・運用をしていた。本件可変標示板の「進入禁止」の表示、消火ポンプの起動、水噴霧装置の放水及び送風機の逆転等は、すべてコントロール室において係員がITVにより火災を確認してから操作していた。

(二) 本件事故の状況

(1) 本件追突事故の状況

昭和五四年七月一一日午後六時二五分ないし三九分、本件トンネル西坑口からトンネル内約四二〇メートルの地点において、追越車線を走行していた訴外梶浦豊治(以下「訴外梶浦」という。)運転の大型貨物自動車(以下「梶浦車」という。)が停止したところに訴外亡小谷光男運転の大型貨物自動車(以下「小谷車」という。)が追突し、さらに、訴外亡藤崎賢治運転の普通乗用自動車(以下「藤崎車」という。)、訴外亡栗原則夫運転の普通乗用自動車(以下「栗原車」という。)、訴外中村真道運転の大型貨物自動車(以下「中村車」という。)及び訴外亡橋本隆夫運転の大型貨物自動車(以下「橋本車」という。)が順次前車に追突した。

(2) 本件車両火災の状況

右追突事故により、藤崎車及び栗原車の燃料タンクに亀裂が生じてガソリンが流出し、これに追突の衝撃による火花が引火して栗原車の下部付近で火災が発生した。このため、後続車両の運転者である訴外澤入和雄(以下「訴外澤入」という。)は、中村車の横に停車して栗原車の乗員を救出しようとしたが、同車の窓ガラスを破ることができないうちに火炎が大きくなったため、救出作業を諦めて自車に戻り避難するため後退した。同じく後続車両の運転者である訴外大石峯夫(以下「訴外大石」という。)及び橋本車の助手席に同乗していた訴外新居一典(以下「訴外新居」という。)らは、消火栓からホースを引き出して消火活動を行おうとしたが、ホースが右火災の発生地点(以下「本件火点」という。)まで届かず、かつ、水がでなかったため、消火活動を諦めてそれぞれ避難した。その後、右火災は追突関係車両六台に順次引火していった。

(3) 本件延焼火災の状況

本件追突事故関係車両の後続車両は避難しようとして後退したため、後続車両の先頭車両と本件火点との間は約九〇メートルの距離があった。しかしながら、適切な初期消火活動がなされなかったため、右火災は、停滞していた後続車両にも引火し、順次東京寄りの後続車両に引火して行った。同日午後七時四一分ころ焼津市消防本部(以下「焼津消防」という。)の消防隊が本件火点付近に到着して放水を開始し、その後静岡市消防本部(以下「静岡消防」という。)の消防隊も加わって消火活動をしたが、右各消防隊の到着時には既に本件トンネル内部が高温となっており、また、消防用水を十分に確保することができなかったため容易に火勢を鎮圧することができず、結局同月一八日午前一〇時に鎮火するまで燃え続けた。その結果、七人が死亡し、追突事故関係車両六台及び後続車両一六七台が焼失した。原告らの車両は、いずれも焼失した後続車両に含まれていた。第一事件原告らの車両については、正確な位置関係は明らかではないが、後続車両の二台目から一六六台目までの間に含まれていたものであり、第二事件原告の車両は後続車両の三三台目であった。

(三) 被告の対応

(1) 管制室の対応

管制室は、同月一一日午後六時三九分ころにコントロール室から専用電話で火災発生の通報を受けた。また、同四〇分ころ本件トンネル西坑口からトンネル外に出た地点に設置されていた下り線非常電話一六九番を使用して、通行者から本件トンネル内で大型貨物自動車が乗用車と追突して燃えている旨の通報が管制室にあった。右二つの通報を受信したのは当時の管制室の勤務者であった小山宣助役(以下「小山助役」という。)であった。同四二分に管制室から静岡消防へ通報が行われたが、右通報は、小山助役の後ろ側で同助役が復誦しているのを聞いていた管制室係員梅田友久(以下「梅田係員」という。)がした。同四五分に静岡消防は管制室へ「火点の確認はできているか」と問合わせたが、この問合わせに対し管制室は「八番から入っているから日本坂トンネルの静岡側に近い地点で、現在スプリンクラーが作動している。テレビカメラでは火は立っていない」と回答した。静岡消防はその旨を出動中の消防隊に無線で一斉通報した。同日午後七時一二分、静岡消防は管制室に対して現場は焼津側であることを連絡し、インターチェンジの閉鎖と焼津消防への出動要請を依頼した。管制室は、同一八分、焼津消防に対して火災通報と出動要請を行った。

(2) コントロール室の対応

同日午後六時三九分ころ、コントロール室の警報ベルが鳴って火災感知器により火災発生の情報がもたらされたため、同室係員白石尚夫(以下「白石係員」という。)は管制室に専用電話でその旨の通報をした。同日午後七時ころには同室内で防災機器の故障を示すブザーが鳴り始めた。同室係員杉山洋太郎(以下「杉山係員」という。)は同一五分ころ西換気塔へ到着して火災受信盤を確認したところ、火災表示灯及び水噴霧の表示灯が異常であり、消火ポンプ運転灯の赤ランプが消えていて消火ポンプも停止していたという異常を発見した。同係員は、その場で手動操作に切替えて操作してみたが、異常は改善されなかったため、消火ポンプを手動で起動させるために東換気塔へ向かって出発した。同係員は、同四五分ころ東換気塔に到着して、消火ポンプが止まっているのを確認したため、手動に切替えて消火ポンプを起動させたが、同日午後八時五分ころ停止した。

(3) 東坑口付近での対応

被告の交通管理隊の巡回車静岡二号で本件事故現場に向かった森竹隊員及び永関隊員は、同日午後六時五三分に本件トンネル東坑口から約五三〇メートルトンネル内に進入し、停車車両の避難誘導をした後、同日午後七時一六分本件トンネル東坑口に戻ったが、そのときはまだ同坑口まで煙は出ていなかった。森竹隊員は車両を退避させるため同坑口から約一キロメートル東京寄りにある上下線の開口部(以下「静岡側開口部」という。)に永関隊員を向かわせ、同隊員が右開口部を開けて下り線の車両を順次上り線にUターンさせて退避させた。同坑口から右開口部までは歩いて約二〇分かかったから、森竹隊員が午後七時一六分に永関隊員に指示していたとしても、上り線への退避開始時間は早くとも午後七時三五分ないし四〇分であった。退避開始時間が本件追突事故の発生から約一時間後であるにもかかわらず、また、同坑口から東京側の車両は渋滞して停車していたにもかかわらず、本件トンネル内の約五三〇メートルの範囲を含め一五〇〇メートルないし一六〇〇メートルに及ぶ範囲の車両が退避して難を免れることができた。

4  国賠法二条一項の責任

(一) 設置・管理義務の内容

(1) 原則

ア 被告は、前記のとおり、その通行又は利用について料金を徴収することができる道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を行うこと等を業務としており(日本道路公団法一九条一項)、右業務として東名高速道路及び同道路と一体をなしている日本坂トンネルの設置・管理を行っていたものである。

ところで、道路の構造は、当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならず(道路法二九条)、右道路にはトンネル、橋等道路と一体となってその効用を全うする施設又は工作物が含まれる(同法二条)。したがって、被告は、本件トンネルの設置状況及び交通状況等を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるような設備を設置するだけでなく、設置後においても状況の変化に応じて改築、改善を行い、安全かつ円滑な交通を確保することができるように管理する義務がある。

イ 国賠法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、その判断は営造物の構造・用法・場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮してなされるものである。本件トンネルについていえば、設置状況、交通量、事故数及び過去に発生したトンネル火災事故等を考慮して、本件トンネルにおいてどのような危険を予見することができたかどうか、本件事故は右予見可能な危険といえるかどうか、右予見可能な危険に対応するためどのような防災設備を設置・運用すべきであったか、あるべき防災設備の設置・運用があれば本件延焼火災を防止することができたかどうかを検討すべきである。そして、後述するように、被告は本件トンネル内における火災の発生及び右火災が後続車両に延焼する危険があることを予見できたし、本件事故は右予見可能な危険が現実化したものであり、あるべき防災設備の設置・運用を怠り、そのために本件延焼火災を防止することができなかったのである。

ウ 右のとおり被告が設置・運用すべき防災設備の内容は発生することが予見できた危険との対応関係で決められるべきものであるが、設置当時の防災設備をもってすればその当時に発生することが予見できた危険に対応することができたとしても、その後、交通量の増大、事故発生数の増加、危険物積載車両の通行台数の増加等の状況の変化があれば、それに対応した設備の改築・改善をしなければならない。なお、設置基準について法令・行政上の規制がある場合には、それに適合する防災設備を設置する義務があるが、法令・行政上の規制は、その性質上必要最低限度の規制をするにとどまるから、その規制に適合していたとしても設置・管理に瑕疵がなかったということはできない。また、被告が法令・行政上の規制に対応して内部的な設置基準を制定した場合には、その設置基準に準拠した防災設備を設置することが要求され、その設置基準を下回る防災設備を設置・運用していた場合には設置・管理に瑕疵があるというべきである。そして、その設置基準が改訂された場合には可及的速やかに防災設備を更新すべき義務が生ずるというべきである。

(2) 予見可能性

以下のような状況があったので、被告は本件トンネル内で火災が発生すること及び火災が発生すれば後続車両に延焼することを予見することができたはずであり、本件事故は右予見できた危険が現実化したものということができるのである。

ア 交通量

(ア) 東名高速道路の道路総幅員は六車線三二・六メートルのところと四車線二五・五メートルのところとがあり、神奈川県厚木市と愛知県小牧市との間三一一・七キロメートルは四車線であった。四車線区間での交通容量は一日当たり四万八〇〇〇台とされていた。年間交通台数は、全線供用開始の翌年である昭和四四年で四一四八万七五二三台であったところ、本件事故が発生した昭和五四年では九四三〇万三〇一三台であり、二・二七倍強の通行量の増加を示していた。日本坂トンネルのある静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間に限ってみても、一日当たりの平均交通量は昭和四五年の三万一四一一台に対し昭和五四年には四万九一九五台と一・五六倍を超える増加を示し、右の当初予定の交通容量一日当たり四万八〇〇〇台を超過していた。

(イ) 車種別の交通量は、昭和四七年には全線平均で普通車が七七・二パーセント、大型車が二〇・二パーセント、特大車が二・六パーセントの割合であったものが、昭和五四年には普通車が七〇・五パーセント、大型車が二六・二パーセント、特大車が三・三パーセントと変わり、大型車の増加が顕著になっていた。この大型車の増加はそれだけ事故発生の危険を増大させていたのであった。

イ 事故件数

日本坂トンネルの防火設備の詳細設計時(昭和四三年二月)から現在に至るまで国内の道路上での自動車事故は年間六〇万件ないし七〇万件発生していた。

ウ トンネル火災事故

日本坂トンネルの設置までに、次のようなトンネル内における火災事故が発生していた。

(ア) ホランドトンネル事故

昭和二四年五月一三日、アメリカ合衆国のニューヨークとニュージャージー間のハドソン川の河底トンネルであるホランドトンネル南トンネル(延長二七八三メートル)で火災事故が発生した。この火災はトンネル火災の防火対策に大きな影響を与えた有名な火災である。

(イ) 鈴鹿トンネル事故

昭和四二年三月六日、国道一号線の滋賀県と三重県境に設けられた長さ二四五メートルの鈴鹿トンネルの三重県側坑口から三一メートル進入した地点で車両火災が発生し、右火災は対向車線に停車していた車両に引火してその後続車両に次々に燃え移り、出火原因車を含め合計一三台の貨物自動車が焼失した。この火災の出火原因は車両間の事故からではなくエンジン部からの出火であり、出火原因車の積荷は合成樹脂のアイスクリーム容器であった。出火原因車の運転者が他の車両の運転者から消火器を借りて消火しようとしたが、消火器の使用方法がわからず役立たなかった。出火から火勢が弱まるまで一七時間余りを要した。

この火災事故は、車両間の事故が関わらなくても、エンジン等の故障から出火することがあること、揮発性、即燃性の油脂類や爆発性の物質を積載していない場合でも、可燃性の物品を積載している場合には、初期消火に失敗してその積荷に燃え移ると、他の車両に延焼して大規模な火災に発展すること及び車両に備え付けてある消火器ですら、非常事態の下では使用方法がわからず何の役にも立たないことがあること等の事実を教えている。

(ウ) 関門トンネル事故

昭和四二年八月一一日、長さ三四六一メートルの関門国道トンネルの上り線門司側坑口から一五〇〇メートルの地点で衝突事故が発生し、燃料タンクが破損してガソリンが流出して発火する事故が発生した。直ちに運転者と現場にいた交通管理員が消火器によって消火作業を行った結果、右火災は六分後に鎮火し、事故関係車両の普通貨物自動車一台の半焼にとどまり、他の車両への延焼は免れた。この火災事故は、火災の際にはいかに初期消火が大事であり、初期消火活動が行われていれば、延焼被害の発生は防げることを教えている。

エ まとめ

自動車は必ずガソリン、軽油あるいは重油等の揮発性、可燃性の燃料を携えて走行しているから、車両事故によってこれらが洩出して引火し火災に至ること、ことに高速道路においては、自動車は時速八〇キロメートル以上の高速で走行しているから、その危険性の大きいことは予見できたはずである。火災事故は、トンネル内でも所を選ばずに起こるものであり、いったん発生したときには、その後方に車両が連なって停車し、迅速かつ的確な対応がなされなければ、この後続車両に次々に延焼し二次災害が拡大することも予見できたはずである。本件事故の一二年前に生じた前記鈴鹿トンネルと関門トンネルの火災事故は、それらの事実を現実に示していたところである。また、トンネルにおける非常用施設の設置基準に関する建設省道路局長等の通達及び被告自身が制定した設置基準におけるトンネル防災の最大の眼目は火災に対するものであった。したがって、被告は、本件トンネル内で火災事故が発生すれば、事故関係車両以外の車両に延焼して二次災害が発生することが予見できたことは明らかであり、本件事故は予見できた危険が現実化したものであるということができるのである。

(3) 設置基準

ア 法令・行政上の規制

(ア) 昭和三〇年代の名神高速道路の建設開始以来、陸上の長大トンネルが出現するところとなって、トンネル内の安全かつ円滑な交通の確保に必要な防火設備に関する調査、研究が行われるようになった。昭和四二年四月一四日に建設省道路局長は「道路トンネルにおける非常用施設の設置基準」と題する通達(建設省道企発第一四号、以下「昭和四二年四月一四日局長通達」という。)を出し、非常用施設の設置とその基準が具体化された。この通達は、前記の鈴鹿トンネル事故の経験を踏まえ、これを重視してトンネル内の安全かつ円滑な交通の確保に必要な非常用施設の設置義務を具体化したものである。同通達は、高速自動車国道あるいは自動車専用道路等規格の高い道路の場合には走行速度が高いことによる一般的な交通事故の危険性、高速走行による火災発生の可能性等が一般国道等よりもより高いことを予見し、万一火災が発生したときには、鈴鹿トンネル事故においてみられたように他の通行者に及ぼす危害の程度が極めて大きいので、道路管理者に交通の安全をはかるため、適当な非常用施設を設けるように指示していた。

(イ) 昭和四二年四月一八日に建設省道路局長は、「トンネル等における自動車の火災事故防止に関する具体的対策について」と題する通達(建設省道企発第一五号、以下「昭和四二年四月一八日局長通達」という。)を被告の総裁等に宛てて出し、トンネル内における消火・警報設備等の整理充実を図り、トンネル内における自動車火災事故防止の徹底を期されたいとした。

(ウ) 同年八月四日には建設省道路局企画課長から「道路トンネルにおける非常用施設の標準仕様について」と題する通達(建設省道企発第五四号、以下「昭和四二年八月四日課長通達」という。)を被告の担当部長に宛てて出し、警報標示装置については、坑口付近の見易い位置に設置するが、ただし、トンネルが著しく長く、交通量の多い等の場合にはトンネルの内部にも増置してよく、また、高速道路等走行速度の高い道路の場合にあっては坑口付近のほかこれより手前に予告的に増設することができるとした。

(エ) 昭和四五年一〇月には道路構造令が制定され、道路トンネルについては、トンネルにおける車両の火災その他の事故により交通の危険を及ぼすおそれがある場合においては、必要に応じて通報施設、警報施設、消火施設その他の非常用施設を設けるものとする(同令三四条三項)として、防火設備の設置義務が明文化された。

イ 被告の設置基準

(ア) 被告も右通達を受け、かつ、独自の調査及び研究の結果をふまえて、昭和四三年四月には「道路トンネル防災設備標準仕様」(以下「被告の標準仕様」という。)を定め、日本坂トンネルの防災設備の詳細設計はこれに基づいてなされた。同仕様は、設けるべき設備として、〈1〉事故発生等の情報を迅速かつ的確に把握しうること(通報設備)、〈2〉事故発生の際通行車に対する警報その他適切な指示を行ないうること(非常警報設備)、〈3〉事故の拡大を防ぎ、事態を速やかに収拾しうる用意のあること(消火設備、退避設備、排煙設備)を挙げていた。

(イ) 被告は、昭和四七年七月に「トンネル防災設備設置要領」(以下「被告の設置要領)という。)を制定し、昭和五四年六月八日には、昭和四五年一月制定の設計要領(以下「被告の設計要領」という。)「第三集第九編トンネル」に「(4)トンネル防災設備」を追加して制定(以下「被告の追加設計要領」という。)し同日実施したが、本件事故はその一か月後に発生したものである。

(4) 設置すべき防災設備の内容

以上の状況を考慮すると、本件トンネルに設置すべきであった防災設備としては、次のようなものであることが必要であったと考えられる。まず、通報設備については、事故発生等の情報を迅速かつ的確に把握し、速やかに事故現場に到着することができる消防署・警察署に対して正確な事故内容を通報連絡するために、コントロール室にもこの通報連絡用の設備を備え、かつ、コントロール室からも通報連絡するような体制をとることが必要であった。消火設備のうち、水噴霧装置については、コントロール室においても火災の状況に応じて放水区画を集中したり、反対に広げるなどの操作ができるような機能をもたせることが必要であった。また、事故覚知及び水噴霧装置の放水開始が速やかにできるように、ITVを火災感知器と連動させることも必要であった。消火栓については、操作方法を簡単にし、ホースの長さが五〇メートル程度のものを設置することが必要であったし、また、消火栓の扉を開けても消火器の扉が隠れないような格納箱にすること、トンネル内にも給水栓を設置すること、消火ポンプの再起動がコントロール室でもできるような機能をもたせること、十分な消火用水を備えること等も必要であった。非常警報設備については、可変標示板の設置を増設すること、音信号発生装置を併用すること、トンネル入口に信号機を設置すること、ラジオ強制加入放送設備を設けることが必要であった。排煙設備については十分な排煙能力を有する送風機を設置することが必要であった。

(5) 本件延焼火災の回避可能性

本件延焼火災の原因は、本件トンネルに設置されていた防災設備が右の設置すべき防災設備の水準に達していなかったこと、本件事故当時設置されていた防災設備の管理・運用に後述のような瑕疵があったためである。このことは、本件追突事故の発生と本件延焼火災の発生との間には少なくとも二〇分間以上の時間的間隔があり、また、本件延焼火災の拡大もそれほど急速なものではなかったことからも当然推定されるところである。後述のような瑕疵がなければ、本件延焼火災の発生そのものを阻止できたと考えられるし、仮に、その発生そのものを阻止することができなかったとしても、原告らの車両に延焼する前に鎮火させるか、原告らの車両を本件トンネル外に退避させることができたはずである。

(二) 設置・管理の瑕疵についての考え方

「設置又は管理」のうち、「設置」とは、一定の設備を客観的に備え置くことであって、それ以外の作為は含まれていない。ところが、「管理」とは、そのような静的観念ではなく、動的ないしは一定の作為を予定する概念である。また、設備の中でも、それに備わっている機能を発揮するために、人の行為を必要とするものと必要としないものとがある。したがって、その機能を発揮するために、人の行為を特に必要としない設備の瑕疵の有無が問題となる場合には、設備自体の客観的側面のみを対象に「通常備えるべき安全性」を備えていたかどうかを判断すれば足りるのである。これに対して、それに備わっている機能を発揮するために人の行為を必要とする設備の瑕疵の有無が問題となる場合には、その設備自体の客観的側面のみを対象に「通常備えるべき安全性」を備えていたかどうかを判断するだけでは足りず、設備とその機能を発揮させるための人の行為とを含めた組織、いわゆるシステムを一体として捉え、「通常備えるべき安全性」を備えていたかどうかを判断する必要がある。この場合、組織やシステムに組み込まれた人間の行為にミスがあって、該システムとしての機能を発揮できなかった場合には、仮に機械機器の客観的機能面では万全であっても管理の瑕疵としてとらえるべきである。国賠法上では二条の適用の場面であり、法文が単に「設置」の瑕疵とのみせずに「管理」の瑕疵とした点にその根拠を求めることができる。いうならば、営造物のもつ物理的性状とあいまって人間の一定の行為が予定されているものにあっては、それを一つのシステムとして把握し、そこに介在する人間の作為義務違反をも内容として瑕疵理論を構築しなければならないものである。これを本件トンネルの水噴霧装置についていうと、同装置は、火災感知器の感知と連動して感知箇所の一区画三六メートルの範囲及び隣接一区画の都合七二メートルの範囲で自動的に放水する機能を有していたが、本件事故当時は、火災感知器が火災を感知して予定通り信号を送っても、コントロール室係員が火災を確認し、消火ポンプを起動させ、鎖錠を解放しない限り放水には至らないシステムとして運用していたのであるから、同室係員が右各行為のいずれかを懈怠したときには、水噴霧装置の管理に瑕疵があるものと解すべきである。また、本件トンネルの通報設備についていえば、非常電話ないしコントロール室からの専用電話を受信した管制室係員に理解の誤り、判断の誤り等があり、そのため消防署への通報に内容の誤りや不備があって消火活動の開始を遅延ならしめた場合、あるいはコントロール室係員が火点を十分確認しないまま管制室に連絡したため管制室係員が消防署に対して不適切な通報をした場合には、各係員の行為を全体のシステムの一機能、一作用として理解し、その誤りや不完全さや不十分さは管理の瑕疵になると考えるべきである。

(三) 本件トンネルの瑕疵

(1) 通報に関する瑕疵

ア 道路トンネル内においては、火災その他の事故が発生した場合、いち早く事故の発生をトンネル管理所へ通報し、臨機応変な処置を行わなければ二次的災害が発生する危険が顕著であり、また、その情報を速やかに収集して、的確な指示、処置を行うことが必要である。被告は、消火については消防隊の消火活動とあいまって、安全性を確保する設備を設置していたと主張しているが、そうであるとすれば、なおさらのこととして消防署への火災通報を迅速かつ的確になすべきことが、消火に関する死命を制するほどの重大な事柄であり、火災時に課せられた最大の義務であるのである。しかるに、次に述べるように本件事故当時本件トンネルにおいてとられていた通報体制は合理的なものではなく、そのため、本件事故時に選ばれた通報先及びなされた通報内容は極めて不的確・不十分であり、本件延焼火災の重大な原因となった。

イ 被告における火災事故の覚知、通報システムは前記のとおりの設備と組織で行われていた。火災の情報は全て管制室に集中させ、管制室から的確かつ臨機応変な処置がとられることが期待されていた。情報の統一的運用が的確かつ臨機応変な対応に便利かつ適切と判断したからである、とされていた。しかしながら、前記のとおり、管制室では通報者が本件トンネル内のどの位置の非常電話を使用しているのかを判別することはできなかったし、直接本件トンネル内の状況を把握する設備がなかった。このため、管制室から消防署への通報にはその内容の正確性が担保されていなかった。この点、コントロール室ではITVにより本件トンネル内の状況を直接把握することができたのであるから、コントロール室から直接に消防や警察等に通報する体制の方が通報内容の正確性を担保できると考えられるが、本件事故当時は、コントロール室から直接に消防や警察及び内部の各部署への通報連絡は予定されておらず、そのための特別な設備はなかった。

ウ 静岡消防及び焼津消防の活動記録によれば、〈1〉同日午後六時四二分、管制室から焼津消防へ通報しているが火点は示しておらず、〈2〉同日午後六時四五分静岡消防からの問い合わせに管制室は静岡側に近い地点と誤った回答をし、〈3〉同日午後七時一二分同消防から管制室に再度現場は焼津側のようであると連絡して、焼津消防への通報を要請したにもかかわらず、管制室は、コントロール室に連絡するなどして火点の確認をすることもなく、かつ、焼津消防にも六分後の同日午後七時一八分まで通報しなかった。また、コントロール室から管制室への通報についてもコントロール室でのトンネル内の状況の把握は不十分であり、かつ、その後の確認や連絡もほとんどなされた形跡すら少なく、的確性、臨機応変さに欠けていた。本件トンネルの防災設備は消防署への迅速・的確な通報による消防隊の早期通報による消火活動とあいまって安全性を確保しようとするものであるとする被告の主張からすればこの通報内容の不的確・不十分さは致命的な通報内容の瑕疵であった。

エ 火災の通報は早期消火活動のために最も有効適切な消防署にまず行われるべきものである。ところで、管制室では、本件火点が焼津側であること、大型貨物車両が関わった事故が原因の火災であることが判ったほか、巡回車静岡二号から同日午後六時四八分に本件トンネルの東坑口の手前約二キロメートルから下り線が渋滞している旨の連絡を、同日午後六時五三分に本件トンネル東坑口から約五三〇メートル以西への進入は不可能である旨の連絡を受けていた。また、コントロール室の白石係員は、本件火災覚知直後にITVで大型貨物自動車の火災であること、本件車両火災事故現場から東坑口側は後続車両によって数珠つなぎの渋滞となっていて、後続車両は停車して全く進行できないでいたことを確認していた。コントロール室の白石係員にしても、管制室の梅田係員にしても、東名高速道路のトンネル部以外には路側帯が設けられていて渋滞時でも緊急自動車の進行は可能であったが、トンネル内には路側帯はなく、渋滞時に緊急自動車がトンネル内を進行することは不可能ないしは困難であったことは容易に判断のつくことであった。

また、前記のとおり本件トンネルは西坑口からの西風の影響をうけやすい地理的状況にあり、万一、本件トンネルの西坑口付近で火災が発生すれば西風にあおられて最悪の事態になると消防関係者がトンネル開通以来抱き続けてきた不安があったと指摘されていた。右のように、本件火災現場の位置及び関係車両の状況、本件トンネル内の渋滞状況からして現場までの消防車の通行の便宜、トンネル内という狭小な空間であり制約された場所であること等からすれば、静岡消防に通報することは勿論としても、本件火災の場合には焼津消防にも通報すべきであった。これがなされなかったのは本件火災現場の状況の把握に不十分さがあり、事態の的確な確認ができていなかっこととそれに必要な行動が全くとられなかったためである。

オ 本件火災のような大惨事に発展したのは、右に指摘した通報内容及び通報先の選択の瑕疵の結果から、消防隊による早期の消火活動の機会が失われたためである。しかも、右の瑕疵の根源は、単に担当職員の白石係員及び梅田係員あるいは小松助役のミスとしてすまされるものではなく、火災感知器及びITVによってより速く正確に火災地点を把握できるコントロール室から消防署に対して直接通報、出動要請をしないで、非常電話の通報によって火災地点を判断するしかない管制室から消防署に対して通報、出動要請をするという通報体制そのものに起因していたのであり、まさしく被告自身の「通報システムの未熟性」、「完全な訓練不足」と評価すべきものであって、管理体制の重大な欠陥、つまり重大な管理の瑕疵である。

(2) 消火に関する瑕疵

ア 水噴霧に関する瑕疵

(ア) 本件火災の際、水噴霧装置は作動しなかった。本件事故当時現場で消火・救助活動をした訴外澤入、同大石及び同新居は、水噴霧装置が作動していたとすれば、当然ずぶぬれになる時間帯にその現場に居合わせたが、いずれもその気配すら感じておらず、水は出なかったと言明していた。また、本件追突事故現場と本件トンネル西坑口との間を往復した訴外梶浦、本件トンネル東坑口まで歩いて出た訴外澤入、同大石、同新居及び訴外小園健次らはその途中においても放水にあっていなかった。つまり、本件火点の西側及び東側のいずれの場所にも水噴霧装置による放水はされなかったのである。

水噴霧装置は、消火、火勢の制圧あるいは延焼の防止のために設置されたものであった。これが予定どおり作動したとすれば、本件火災は早期に鎮火し、本件火点から約九〇メートルも後方に退避した原告らの車両に延焼することはなかったといえる。水噴霧装置が作動しなかった原因は、確かではないが、電気系統の故障あるいは何か機械操作上のミスによる故障との疑いがある。いずれにしろ、予定どおり作動しなかったことは重大な瑕疵にあたるものというべきである。

(イ) 水噴霧装置は、機械的には火災感知器と連動して作動する仕様となっていて、火災感知器が火災を感知すると同時に放水を開始する仕組みになっていたが、火災感知器が西日の太陽光や自動車のライトに感知することがあったため、本件事故当時はコントロール室係員がITVにより火災を確認してから操作卓の鎖錠を解放しないと放水しないように改められていた。ところが、前記のとおり、本件トンネルのITVについては、本件事故当時は常時監視体制ではなく、必要に応じてスイッチを入力して画像を写し出すことになっていただけでなく、火災感知器等の通報設備とは連動していなかったため、手動で順次カメラを切り替えていくことによって火点を探していかなければならないものであった。そのため、本件トンネルの水噴霧装置には、コントロール室係員がITVによって火災を確認するまでは作動しないという問題点があった。

(ウ) なお、本件トンネルの水噴霧装置の放水範囲は、前記のとおり火災感知器が火災を感知した順に連続した二区画に制限されていたから、火災の状況に応じて放水区画を集中したり、反対に広げるなど消火及び延焼防止の効果をより発揮できるような機能がないという問題点もあった。

イ 消火栓・消火器に関する瑕疵

(ア) 前記のとおり、本件トンネルの消火栓のホースの長さは三〇メートルであり、消火栓は四八メートル間隔で設置されていたから、計算上は火災現場に最も近い消火栓を使用すればホースの届かないところはないはずであった。しかしながら、事故の状況によっては火災に最も近い消火栓を使用することができないことが当然考えられるから、三〇メートルの長さでは短か過ぎたと考えられる。

(イ) 本件トンネルの消火栓の水圧は極めて低くチョロチョロ程度しか水が出なかったので、後続車両の運転者等が消火しようとしても水は本件火点まで届かず、早期消火の失敗の原因となった。

(ウ) 本件トンネルの消火栓は、前記のとおり格納箱内右上方の赤塗りのレバーを手前に倒し、その上で、格納箱内上方奥にある起動釦を押さない限り水は出ないようになっていた。また、格納箱内に設置してあった消火器は、消火栓と扉が別であったうえ、消火栓側の扉を開けると消火器側の扉が隠れてしまう構造であった。そのため、消火栓の使用方法及び消火器の設置場所は極めてわかりにくいものであった。そのため、緊急非常の場合でも通行者らによって、その設置目的が達せられるよう、その使用方法及び設置場所について充分に周知徹底させるための広報宣伝活動がなされていなければならなかったのに、運転者らに対する広報宣伝活動が不足していた。

ウ 制御ケーブルに関する瑕疵

本件トンネルの防災機器を制御するケーブルには耐熱性・耐火性がなかった。そのため、本件トンネルの防災設備は本件火災発生から約二〇分後には作動不能となってしまった。本件トンネルの防災設備は、電気系統をその命脈として存在していたことは諸設備の内容から明らかであり、トンネル防災、特に火災事故との関係では、直ちに制御ケーブルの耐熱性・耐火性が問題として認識されなければならなかった。日本坂トンネルの供用開始後本件事故までの間に耐熱性・耐火性を有する制御ケーブルの開発・実用化があったのであるから、それが実用化された段階で改善しておくべきであり、その改善には、経済性を無視するほどの費用はかからなかったはずである。

エ 消火ポンプに関する瑕疵

本件事故の際、消火ポンプは、同日午後七時ころ停止した後、同日午後七時四六分ころ東換気塔で手動起動により運転を再開した。この間約四六分間も消火活動は停止され、本件火災は燃えるに任されていた。消火ポンプの稼働は消火活動にとり何よりも重要であるから、何らかの事故で停止した場合でも速やかに再起動できるように、コントロール室にも再起動装置を設けておくべきであった。

オ 給水栓に関する瑕疵

本件トンネルには消防隊用の給水栓が東西両坑口に一個ずつあるに過ぎなかった。本件トンネル内の消火栓の口径は四〇ミリメートルで消防隊のホースの口径六五ミリメートルには全く合わず使いものにならなかった。そのため、本件火災に対する消火活動に重大な支障を来し、本件延焼火災の原因となった。

カ 消火水量に関する瑕疵

昭和四七年に制定された被告の設置要領によれば、消火水量は、消火栓で毎分一三〇リットルを三個、給水栓で毎分四〇〇リットルを二個及び水噴霧装置で路面一平方メートルにつき毎分六リットルで五〇メートルの長さを同時放水して四〇分間放水できる量(合計一五二トン)に二〇パーセントのゆとりをもたせた一八二・四トンが必要とされていた。日本坂トンネルでは、水噴霧装置は、一区画三六メートルで二区画同時放水する仕組みであったから、これをも勘案すると日本坂トンネルの消火水量は二三七トン貯えておく必要があったが、本件事故当時は現実には一七〇トンの消火水量しか貯えていなかった。

(3) 非常警報に関する瑕疵

ア 可変標示板に関する瑕疵

(ア) 本件トンネルの警報設備として本件可変標示板が一個設置されていた。本件可変標示板の設置位置は、本件トンネルの東坑口から東京寄り五三五メートルの地点で、その間に小坂トンネルがあり、同トンネルの東坑口からさらに東京寄り二一〇メートルの地点、本件追突事故現場からは約二一六〇メートルの地点であった。本件可変標示板は、「小坂トンネル」「長さ270m」と書かれた道路標示の上に設置されており、その上部には赤色と黄色の点滅灯とサイレンが付けられていたが、本件事故以前からサイレンの吹鳴は停止されていた。本件可変標示板への表示は、火災感知器による感知とは連動しておらず、火災感知器の感知によってコントロール室への通報を受けた係員がITVを操作して火災の発生を確認したうえで表示させることになっていた。

右のような本件可変標示板の設置位置及び道路標示は、運転者にとっては小坂トンネル内についての表示と誤解しやすく、不適切なものであった。また、サイレンの吹鳴を停止させていたため、高速度で走行する運転者に対する警告としてどの程度の効果があったか問題があった。さらに、一箇所しか設置されていなかったこと及び次のとおり事故発生から表示されるまでに最低でも二分間以上はかかったことから、本件トンネル内で事故が発生してもその表示がされるまでの間に多数の車両が本件トンネル内に進入してしまう危険性が高かった。

(イ) 本件事故の際、本件車両火災が火災感知器によって感知され、コントロール室のベルが鳴り、同室係員が、これを覚知後ITVを作動させ、カメラを順次移動させて九番カメラで確認し、かつ、本件可変標示板に「進入禁止」「火災」を表示するまでには、本件追突事故から最低でも二分間以上は要したと考えられる。したがって、本件追突事故発生以前に本件可変標示板を通過してしまった車両はもとより、「進入禁止」の表示がされる前に通過してしまった車両は、全く本件可変標示板の情報に接する機会すらなくその前を通過してしまっていたのである。前記のとおり本件トンネルのITVについては、本件事故当時は常時監視体制ではなく、必要に応じてスイッチを入力して画像を出すことになっていただけでなく、火災感知器等の通報設備とは連動していなかったため、手動で順次カメラを切り替えていくことによって事故発生地点を探していかなければならないものであった。そのため、本件可変標示板の表示には右のような時間がかかるのであるから、その時間をできるだけ短縮するためにもITVによる常時監視体制をとり、火災感知器と連動させて火点の位置のカメラに自動的に切り替わるような機能を持たせるべきであった。本件トンネルの水噴霧装置には、コントロール室係員がITVによって火災を確認するまでは作動しないという問題点があった。

(ウ) ところで、本件追突事故現場は、本件可変標示板からその前方約二一六〇メートルの地点であった。当時、走行車両が互いに車両の長さも含めて五〇メートルの間隔で進行していたとすれば、「進入禁止」が表示されるまでに二車線で八〇台以上の車両が可変標示板を通過してしまっていたことになる。その後、時速八〇キロメートルで右同様五〇メートル間隔で連続して後続車両が通過していたとすれば、「進入禁止」の表示が出された二分後までに、一〇六台ないし一〇七台の車両が通過してしまった計算になる(時速八〇キロメートルでは一秒間に二二・二メートル進行することになるから、二分間で二二六四メートル進む。五〇メートル間隔でその間に進入できる車両は五三・二台、二車線で一〇六台ないし一〇七台となる。)。訴外梶浦の供述によれば、本件追突事故後その場所を通過して行った車両は二、三台であったということであるから、結局焼失した車両のすべては進入禁止の表示を見ずに本件可変標示板の横を通過してしまった車両であったのである。

イ 信号機の不存在

本件事故当時本件トンネル東坑口には信号機が設置されてはいなかったが、仮に本件事故当時に本件事故後に設置された信号機と同様なものが設置されていて、本件追突事故発生と同時に赤信号を表示したとしても、時速八〇キロメートルで五〇メートル間隔で走行していたとすれば、六〇台の車は赤信号を見ずに本件トンネル内に進入してしまっていたことになる。しかし、運転者は例外なく信号機の表示に従って停車したはずであり、右のとおり赤信号が表示される前に進入してしまう車両も極端に押さえられ、進入してしまった車両も容易に後退して避難することができたであろうから、延焼車両は皆無にとどめられていたはずである。

ウ トンネル内の警報設備の不存在

信号機を設置していたとしても車両の進入を絶対に阻止することは難しいし、いわんや本件可変標示板では全く困難であったから、進入してしまった車両をいかに速やかにトンネル外に退避させるかが重要となる。退避を的確にするためには、火災についての情報を速やかに運転者に提供し、退避とその方法についての指示を与えることが重要であり、それにはトンネル内にそのための設備を設置することが必要であった。その設備としては、ラジオ強制加入放送設備又はトンネル内にスピーカーを設けての拡声放送設備が考えられていた。ラジオ強制加入放送設備は被告においても本件トンネルに設置を決めていたとされるが、設置する前に本件事故が発生した。この設備があり、速やかに静岡側開口部を開けて上り線に退避させたとすれば、延焼の被害は避けえたか、完全には避けられないとしても、ほとんどの車両が難を免れたはずである。

(4) 退避措置に関する瑕疵

前記のとおり信号機を設置していたとしても車両の進入を絶対に阻止することは難しいし、いわんや本件可変標示板では全く困難であったから、進入してしまった車両をいかに速やかにトンネル外に退避させるかが重要となり、被告の積極的な退避措置が必要となる。本件火災においても、本件トンネル東坑口からトンネル内約五三〇メートルの地点まで進入した車両については焼失することなく退避できた。前記のとおり右退避に関与した森竹隊員は、同日午後六時五三分に本件トンネル東坑口から五三〇メートルトンネル内に進入し、停車車両の避難誘導をした後、同日午後七時一六分本件トンネル東坑口に戻ったが、そのときはまだ同坑口まで煙は出ていなかった。森竹隊員は車両を退避させるため静岡側開口部に永関隊員を向かわせ、同隊員が右開口部を開けて下り線の車両を順次上り線にUターンさせて退避させた。同坑口から右開口部までは歩いて約二〇分とのことであったから、森竹隊員が午後七時一六分に永関隊員に指示していたとしても、上り線への退避開始時間は早くとも午後七時三五分ないし四〇分であった。退避開始時間が本件追突事故の発生から約一時間後であるにもかかわらず、また、同坑口から東京側の車両は渋滞して停車していたにもかかわらず、本件トンネル内約五三〇メートルの範囲を含め一五〇〇メートルないし一六〇〇メートルに及ぶ範囲の車両が退避して難を免れたことになる。右の事実からすれば、被告が常日頃から退避方法についての訓練をつみ、本件事故発生後速やかに、かつ、的確に退避を実行させていたならば、本件延焼火災で焼失した車両のすべては退避ができたはずである。

(5) 換気設備に関する瑕疵

前記のとおり、本件トンネルは、中央部付近から西坑口に向けて二・五パーセントの下り勾配になっていたから、西坑口からみると一種の煙突状をなしていた。そして、同トンネル西坑口には地形上駿河湾から吹く強い西風が一年中まともに吹きつける状態になっていて、本件火災のように西坑口付近で火災が発生した場合には火が強風にあおられて、火災が拡大する危険性をもともと有していた。ところで、日本坂トンネルには東西両換気塔に本件トンネル用としてそれぞれ三台ずつ送風機が設置されていた。通常の状態においてはこの送風機によって外気を吸い込み、本件トンネルの天井ダクトに設けた送風穴から車道へ送風して排気ガスで汚染したトンネル内の空気をトンネル両坑口へ押し出して換気をしているが、トンネル内で火災が発生した時は直ちに送風機を逆転させ、空気の流れを逆転させ、煙を天井ダクトに吸い上げて排風するようになっていた。ところが、この場合の排煙能力は換気能力の五五パーセントということであったから排煙機能としてはほとんど意味をなさず、そればかりかかえって西坑口からトンネル内に吹き込む西風を吸引する結果となり、前記の煙突状のトンネルの形状と相まって火吹き竹の役割を果たすことになり、火災を拡大することになった。

5  国賠法一条一項の責任

請求原因4(三)(1)(通報に関する瑕疵)に指摘した白石係員、小山助役及び梅田係員の本件事故の際の通報におけるミスが管理の瑕疵の概念でとらえられない場合に備えて、原告らは国賠法一条一項の責任を予備的に主張する。白石係員、小山助役及び梅田係員はいずれも被告の職員であり、国賠法一条にいう「公権力の行使に当る公務員」であった。コントロール室の白石係員は、火災感知器の通報等によって火災の発生を知った場合にはITVを操作することによってより正確、迅速に火点と事故状況を把握して、それを速やかに管制室に通報すべき職務上の義務があった。また、管制室の担当者であった小山助役及び梅田係員は、火災の情報を的確に把握し臨機応変に、火災拡大防止のために直ちに火災現場に最も速く到着できる消防署に出動要請するなど、被害の拡大を防止するために適切な処置を講ずべき義務があった。右各義務の発生根拠は、その職務内容のほかにトンネル防災設備に関する前記の各通達及び被告が制定した各設置基準等の趣旨及び目的から導かれるところである。しかるに、右三名は、前記のとおりいずれも右各義務の履行を怠ったものであり、そのため本件延焼火災の発生及びその拡大を防ぐことができなかったものである。

6  損害

(一) 第一事件原告らの損害

第一事件原告らが本件事故によって被った損害は、次のとおりである。

(1) 車両損害

第一事件原告らは、その所有する貨物自動車を本件事故によって焼失したが、その車名、年式、型式及び登録番号は、別紙損害態様一覧表の被害車両の内容欄記載のとおりである。

第一事件原告らが本件延焼火災により被害車両を焼失したことにより被った損害は当該車両の本件事故当時の価格であり、この価格は当該車両と同種・同等・同型式の車両の市場価格と同じと考えるべきである。中古車の市場価格に関しては、財団法人日本自動車査定協会が発行している「中古車価格ガイドブック」(通称シルバーブック)や有限会社オートガイド社が発行している「オートガイド自動車価格月報」(通称レッドブック、以下「レッドブック」という。)という定期出版物がある。前者は乗用車中心であるため、貨物自動車については後者が便宜であるばかりでなく、損害保険会社等の中古車価格査定実務上広く用いられている。

第一事件原告らの車両損害額は、右レッドブックの昭和五四年七月・八月の平均販売価格によった。同価格が別紙損害一覧表〈1〉車両損害額欄記載の金額である。ただし、年式が旧く、レッドブックに登載のない被害車両については、過去の価格の推移から第一事件原告らにおいて減価率を考慮し、それに現実の使用価値を加味して独自に算定したものである。

ところで、第一事件原告らは、すべて道路運送法に基づき、運輸大臣から自動車運送事業者として免許を得た運送業者であり、被害車両は右事業の用に供されていた車両である。運送事業のために貨物自動車を使用する場合には、一般仕様の汎用車をそのまま使用することは極くまれであり、特別の架装を施して使うのが通常である。第一事件原告らの各被害車両もすべて特別の架装を施して使用していた。しかし、本訴請求においては、立証の便宜等から架装あるいは改造費用が高額である例外的場合を除き、それらの請求は差し控えた。

(2) 積荷損害

第一事件原告らは、前記のとおり自動車運送事業者であり、被害車両のほとんどが荷主から運送の委託を受けた荷物を積載していたため、右積荷も本件事故によって焼失した。焼失した積荷の内容は別紙損害態様一覧表の被害をうけた積荷の内容欄記載のとおりであり、その損害額は別紙損害一覧表の〈2〉積荷損害欄記載のとおりである。右損害額は、荷主からの請求された額であるが、荷主に対し、既に支払済みのものと未払いのものの双方がある。

なお、第一事件原告らの一部は、焼失した積荷について運送保険等によりその損害の填補を受けているが、それについては本訴請求から除外した。

(3) 休車損害

原告らは前記のとおり自動車運送事業者であり、被害車両は右事業用に供されていた車両である。したがって、被害車両のいずれもが、本件事故に遇っていなかったとすれば、収益をあげうる稼働をしていたはずである。被害車両があげえたであろう収益は、当該車両毎に過去の実績等から個別に判断することも可能である。しかし、各被害車両があげえたであろう収益は、第一事件原告ら各会社の規模、荷主及び積荷の種類・内容、車両の大小並びに路線貨物自動車運送事業者(以下「路線トラック」という。)と区域貨物自動車運送事業者(以下「区域トラック」という。)の違い等の諸種の事情によって、当然異なってくるものであり、それらを個別的に立証することは極めて繁雑である。したがって、本訴のような集団訴訟においては、信頼すべき統計資料に基づくのであれば、その統計から算出される平均的収益を画一的に請求することが許されると解すべきである。

統計資料としては、運輸省自動車局編の昭和五五年度版「自動車運送事業経営指標」(以下「指標」という。)における昭和五三年度の区域トラックに関する数値を用い、算出方法としては、右数値に基づいて貨物自動車を一台保有して運送事業を行うとどの程度の経費が必要かを計算し、それに車両の再取得かつ再稼働までの所用期間(以下「再取得所用期間」という。)を乗じたものをもって休車損害とした。第一事件原告らは、いずれも運送事業の経営を継続している会社であるから、必要経費以上の収益をあげていることは疑いないが、画一的請求をするために、最低限度の請求にとどめるものである。右指標によれば、昭和五三年度における区域トラック用の貨物自動車一台当たりの実働率は六九・四四パーセント、一日当たりの走行キロは二〇〇キロメートルであるから、一か月当たりの平均走行距離は四一六六キロメートルとなる。また、同様に走行キロ当たり原価のうち人件費は八三・七四円、固定資産償却費は一三・〇七円、保険料は三・五三円、施設使用料は三・五四円、施設賦課税は二・二二円、その他運送費は五九・〇九円、一般管理費は二一・三〇円及び営業外費用六・五九円であるから、走行キロ当たりの必要経費は一九三・〇八円となる。

代替車両の再取得所用期間は、その時の経済情勢等によって均一ではないが、営業用貨物車の場合は架装等に日数を要することもあり、二、三か月を要するのが一般的である。しかしながら、画一的請求をするために、控え目に一か月をもって再取得所用期間とする。

以上から、休車損害は一か月当たりの平均走行距離に四一六六キロメートルに走行キロ当たりの必要経費一九三・〇八円を乗じた八〇万四三七一円となる。

(4) 弁護士費用

第一事件原告らは、弁護士である同原告ら訴訟代理人らに本件訴訟の提起と追行を委任し、着手金として車両損害、積荷損害及び休車損害の合計額を基準にその額が三〇〇万円未満の場合は三パーセント、三〇〇万円以上七〇〇万円未満の場合は二・七パーセント、七〇〇万円以上の場合は二・四パーセント並びに報酬として車両損害、積荷損害及び休車損害の合計額の一〇パーセントの合計である別紙損害一覧表の弁護士費用欄記載の金額をそれぞれ支払うことを約し、相当額の損害を被った。

(二) 第二事件原告の損害

(1) 車両損害 一四八万五一五〇円

第二事件原告は、所有する小型貨物自動車(日産キャブオールクリッパーYC三四〇)を本件事故によって焼失させられ、右相当の損害を被った。右自動車は、昭和五三年一二月に一四八万五一五〇円で購入したものである。

(2) 積荷損害 一八四万三七九二円

右自動車には、第二事件原告が所有する真鍮丸棒、アルミ棒等の金属材料を積載していたが、本件事故によって熔解等したため商品価値を失い、右相当の損害を被った。右金属材料の価格は一八四万三七九二円であった。

7  結論

よって、原告らは被告に対し、主位的に国賠法二条一項に基づき、予備的に同法一条一項に基づき、本件事故により被った損害の賠償として、第一事件原告らについては、別紙損害一覧表の原告名欄記載の各原告に対し、同表の損害総合計欄記載の各金員及び内同表の弁護士費用を除く損害合計欄記載の各金員に対する本件事故の日である昭和五四年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、第二事件原告については三三二万八九四二円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和六一年五月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者)の事実のうち、(一)(原告ら)の事実は不知、(二)(被告)の事実は認める。

2  同2(事故の発生)の事実は認める。

3  同3(事故の状況)について

(一) 同3(一)(本件トンネルの状況)について

同(1)(設置状況)の事実のうち、東名高速道路以外の道路を通って本件トンネルに到ることは容易ではない状況であったこと及び本件トンネルの西坑口では地形上駿河湾から吹く強い西風が一年中まともに吹き付ける状態であったことは不知、その余の事実は認める。

同(2)(防災設備)の事実のうち、火災感知器の通報によって操作卓に表示される感知位置は、上り線用トンネルか本件トンネルか、トンネル中央部より東坑口か西坑口側かの区別のみであったこと、消火栓の放水が消火栓格納箱内上方奥にある起動釦を押さない限り開始されないようになっていたこと、送風機の排煙能力が送風能力の五五パーセントであったことは否認し、その余の事実は認める。

同(3)(防災設備の管理・運用体制)の事実は認める。

なお、防災設備及び防災設備の管理・運用体制に関する原告らの主張は断片的であり、正確な状況は後記被告の主張のとおりである。

(二) 同3(二)(本件事故の状況)について

同(1)(本件追突事故の状況)の事実のうち、昭和五四年七月一一日、本件トンネル内において、大型貨物自動車四台及び普通貨物自動車二台が関係する追突事故が発生したことは認めるが、その余の事実は不知。

同(2)(本件車両火災の状況)の事実のうち、本件追突事故に起因して火災が発生したこと及び右火災が追突事故関係車両六台に引火したことは認めるが、その余の事実は不知。なお、消火栓のホースから水が出なかったのは消火栓のレバーを倒さなかったためである。

同(3)(本件延焼火災の状況)の事実のうち、本件車両火災が停車していた後続車両にも引火し、順次東京寄りの後続車両に引火して行ったこと、本件火災が同月一八日午前一〇時に鎮火するまで燃え続けたこと、その結果七人が死亡し、追突事故関係車両六台及び後続車両一六七台が焼失したことは認めるが、その余の事実は不知。

(三) 同3(三)(被告の対応)について

同(1)(管制室の対応)の事実のうち、同日午後六時四五分に静岡消防が管制室へ「火点の確認はできているか」と問合わせたこと、この問合わせに対し管制室が「八番から入っているから日本坂トンネルの静岡側に近い地点で現在スプリンクラーが作動している。テレビカメラでは火が立っていない」と回答したこと、静岡消防はその旨を出動中の消防隊に無線で一斉通報したこと、同日午後七時一二分に静岡消防が管制室に対して現場は焼津側であることを連絡してインターチェンジの閉鎖と焼津消防への出動要請を依頼したこと、管制室が同一八分焼津消防に対して火災通報と出動要請を行ったことは否認し、その余の事実は認める。

同(2)(コントロール室の対応)及び同(3)(東坑口付近での対応)の各事実は認める。

なお、被告の対応についての原告らの主張は不十分であり、その詳細は後記被告の主張のとおりである。

4  同4(国賠法二条一項の責任)について

(一) 同4(一)(設置・管理義務の内容)について

同(1)(原則)の主張のうち、日本道路公団法一九条一項、道路法二九条、二条に原告らが主張するような規定があること、被告が業務として東名高速道路及び同道路と一体をなしている日本坂トンネルの設置・管理を行っていたことは認め、被告が本件トンネル内における火災の発生及び右火災が後続車両に延焼する危険があることを予見できたこと、本件事故は右予見可能な危険が現実化したものであること、被告があるべき防災設備の設置・運用を怠ったために本件延焼火災を防止することができなかったことは否認し、その余の主張は争う。

同(2)(予見可能性)の事実のうち、ア(交通量)及びイ(事故件数)の各事実は、大型車の増加が事故発生の危険を増大させていた旨の主張を除いて認める。ウ(トンネル火災事故)の事実は不知。エ(まとめ)の主張は争う。

同(3)(設置基準)の事実のうち、ア(法令・行政上の規制)及びイ(被告の設置基準)の事実は認める。ただし、行政上の規制の詳細については後記被告の主張のとおりである。

同(4)(設置すべき防災設備の内容)の主張は争う。予見できた危険に対応するための防災設備としては本件トンネルに設置していた防災設備で十分であった。

同(5)(本件延焼火災の回避可能性)の事実は否認ないし争う。

(二) 同4(二)(設置・管理の瑕疵についての考え方)の主張は争う。

(三) 同4(三)(本件トンネルの瑕疵)について

(1) 同4(三)(1)(通報に関する瑕疵)について

アの主張のうち、道路トンネル内においては、火災その他の事故が発生した場合、いち早く事故の発生をトンネル管理所へ通報し、臨機応変な処置を行わなければ二次的災害が発生する危険があること、その情報を速やかに収集して、的確な指示、処置を行うことが必要であること、本件トンネルの消火設備については消防隊の消火活動とあいまって安全性を確保する設備を設置していたことは認めるが、その余は否認ないし争う。イの主張のうち火災の情報は全て管制室に集中させて適宜処置していたこと、管制室には直接本件トンネル内の状況を把握する設備がなかったこと、コントロール室ではITVにより本件トンネル内の状況を直接把握することができたこと、本件事故当時コントロール室から直接に消防や警察及び内部の各部署への通報連絡は予定されておらず、そのための特別な設備はなかったことは認めるが、その余は否認ないし争う。ウの事実は否認する。エのうち、管制室では、本件火点が焼津側であること、大型貨物車両が関わった事故が原因の火災であることが判ったこと、巡回車静岡二号から、同日午後六時四八分に本件トンネル東坑口の手前約二キロメートルから下り線が渋滞している旨の連絡を、同日午後六時五三分に本件トンネル東坑口から約五三〇メートル以西への進入は不可能である旨の連絡を受けたこと、コントロール室の白石係員が本件火災覚知直後にITVで本件トンネル内の状況を確認したこと、東名高速道路のトンネル部以外には路側帯が設けられていたがトンネル内には路側帯は設けられていなかったことは認めるが、その余は否認ないし争う。オの主張は争う。

(2) 同4(三)(2)(消火に関する瑕疵)について

ア(水噴霧に関する瑕疵)の主張のうち、(ア)の事実は否認する。(イ)の事実は認める。ただし、連動の場合とITVによる確認行為を介在させた場合とでは放水までの時間はさほど変わらない。(ウ)の事実のうち、水噴霧装置により放水される二区画は火災感知器が火災を感知した順に連続した二区画であることは認めるが、その余の事実は否認する。イ(消火栓・消火器に関する瑕疵)の(ア)のうち、本件トンネルの消火栓のホースの長さが三〇メートルであること、消火栓が四八メートル間隔に設置されていたことは認めるが、その余の主張は争う。(イ)の事実は否認する。(ウ)のうち、格納箱内に設置してあった消火器が消火栓とは扉が別であったこと、消火栓側の扉を開けると消火器の扉が隠れてしまう構造であったことは認めるが、その余は否認ないし争う。ウ(制御ケーブルに関する瑕疵)のうち、日本坂トンネルの供用開始後本件事故までの間に耐熱性・耐火性を有するケーブルの開発・実用化があったことは認めるが、その余は否認ないし争う。エ(消火ポンプに関する瑕疵)のうち、消火ポンプが同日午後七時ころ停止し、同四六分ころ東換気塔で手動起動により運転を再開したこと、コントロール室に再起動装置がなかったことは認めるが、その余は争う。オ(給水栓に関する瑕疵)のうち、本件トンネルには消防隊用の給水栓が東西両坑口に一個ずつあったこと、本件トンネル内の消火栓の口径は四〇ミリメートルで消防隊のホースの口径六五ミリメートルとは異なっていたことは認めるが、その余は争う。カ(消火水量に関する瑕疵)のうち、被告の設置要領に原告ら主張の記載があること、日本坂トンネルの主水槽の容量が一七〇トンであったことは認めるが、その余は争う。

(3) 同4(三)(3)(非常警報に関する瑕疵)について

ア(可変標示板に関する瑕疵)の(ア)のうち、前段の設置位置・設置状況については認めるが、後段の主張は争う。(イ)のうち、ITVの運用が本件事故当時は常時監視体制ではなく、必要に応じてスイッチを入力して画像を出すことになっていたこと、火災感知器等の通報設備とは連動していなかったこと、手動で順次カメラを切り替えていくことによって火点を探す必要があったことは認めるが、その余は争う。(ウ)の主張は争う。イ(信号機の不存在)のうち、本件事故当時本件トンネル東坑口に信号機が設置されていなかったことは認めるが、その余は争う。ウ(トンネル内の警報設備の不存在)のうち、本件トンネルにラジオ強制加入放送設備の設置を計画していたことは認めるが、その余は争う。

(4) 同4(三)(4)(退避措置に関する瑕疵)について

右のうち、森竹隊員が同日午後六時五三分に本件トンネル東坑口から五三〇メートルトンネル内に進入して停車車両の避難誘導をしたこと、永関隊員らが静岡側開口部を開けて下り線の車両を順次上り線にUターンさせて退避させたことは認めるが、その余は不知ないし争う。

(5) 同4(三)(5)(換気設備に関する瑕疵)について

右のうち、本件トンネルは中央部付近から西坑口に向けて二・五パーセントの下り勾配になっていたこと、日本坂トンネルには東西両換気塔に本件トンネル用としてそれぞれ三台ずつ送風機が設置されていたこと、通常の状態においてはこの送風機によって外気を吸い込み、天井ダクトに設けた送風穴から車道へ送風して排気ガスで汚染したトンネル内の空気をトンネル両坑口へ押し出して換気をしていたこと、トンネル内で火災が発生した時は直ちに送風機を逆転させて、空気の流れを逆転させ、火煙を天井ダクトに吸い上げて排風するようになっていたことは認めるが、その余は否認ないし争う。排煙能力は六〇パーセント以上であった。

5  同5(国賠法一条の責任)の事実のうち、白石係員、小山助役及び梅田係員がいずれも被告の職員であることは認めるが、その余は否認ないし争う。

6  同6(損害)の各事実は不知、損害算定の方法については争う。

三  被告の主張

1  本件トンネルの状況

(一) 設置状況

日本坂トンネルは、東名高速道路の静岡市大字小坂字崩脇地内から焼津市大字野秋字鬼沢地内までにかけて存し、上り線用のトンネルの長さは二〇〇五メートル、本件トンネルの長さは二〇四五メートルで、その位置図、横断図及び縦断図は、それぞれ別紙図面1、同4及び同5のとおりであった。

本件トンネルは、別紙図面5のとおり、東坑口から約六三三メートルの区間には上り勾配二・三六六パーセントの、そこから西坑口までの一四一二メートルの区間には下り勾配二・五パーセントの各勾配が付されていたが、右各勾配は、道路の構造の基準を定めた道路法三〇条による行政上の規制である「高速自動車国道等の構造基準」(昭和三八年七月二〇日、建設省道路局長通達)一七条に規定する縦断勾配の一般基準、設計速度時速一〇〇キロメートルで三パーセント以下の範囲内であった。右勾配に関する基準は、現行の道路構造令(昭和四五年一〇月二九日、政令三二〇号)二〇条に定められている縦断勾配の基準と同様であった。本件トンネルの前記各勾配は、縦断線形の設計手法上の数値であり、実際のトンネル内道路面の標高差から計算した実質上の平均勾配は、東区間上り勾配約〇・六パーセント、西区間下り勾配約一・六パーセントであった。

また、本件トンネルの内部構造は、別紙図面6のとおりであって、トンネル内部には、同図面で示す位置に、次に述べる防災設備が設置されていた。本件トンネルの内部は、コンクリートで巻き立て、不燃材である石綿セメント板で内装し、天井板も不燃材である軽量発泡コンクリートを使用した不燃構造となっていた。

(二) 防災設備

(1) 火災感知器

火災感知器は、トンネル内で火災が発生したときに、火炎からの赤外域輻射エネルギーを自動的に感知し、火災発生をコントロール室に通報する設備で、両側壁面に一二メートル間隔で三四四個設置されていた。

(2) 手動通報機

手動通報機は、トンネル内で車両火災事故等が発生したときに、事故当事者又は発見者が通報機のフレキシガラスを押し破って押釦を押し、その発生をコントロール室に通報するためのもので、追越車線側壁面の地上一・五メートルに四八メートル間隔で四二個(後に述べる消火栓と同じ場所)設置されていた。

(3) 非常電話

非常電話は、トンネル内で車両火災事故等が発生したときに、事故当事者又は発見者がその発生を管制室に連絡するための専用電話であって、走行車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で一二個設置されていた。

(4) ITV

ITVは、トンネル内の状況を把握するための設備で、追越車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で一〇台のカメラを設置し、コントロール室に三台のモニターを設けていた。

(5) 消火栓

消火栓は、トンネル内で発生した火災を主として事故当事者又は発見者の操作により初期に消火又は制圧するための設備で、追越車線側壁面に四八メートル間隔で四二個設置されていた。この消火栓は、長さ三〇メートルのホースを装備したホースリール式で、一般利用者にも十分使用できる屋内消火栓の規格であり、ホースの口径は内径三二ミリメートル、外径四四・五ミリメートル(消防隊用のホース六五ミリメートルでは水量が多く一般利用者にはコントロールすることができない。)、放水量は毎分一三〇リットル以上、有効射程は一四メートル以上、圧力は一平方センチメートル当たり三キログラム以上であった。また、その使用方法は消火栓のレバーを九〇度倒すことによって通水されるようになっていた。なお、消火栓の設置間隔は四八メートルであったが、ホースの長さ三〇メートル、有効射程距離一四メートル以上であったから、トンネル内で水の届かないところはなかった。

(6) 消火器

消火器は、トンネル内で発生した火災を初期に消火又は制圧する目的で設けられたもので、追越車線側壁面に四八メートル間隔で消火栓と同じ場所に二本ずつ合計八四本設置されていた。その種類は六キログラムABC粉末消火器で、主として事故当事者又は発見者が手動で操作する仕組みであった。

(7) 給水栓

給水栓は、トンネル内で発生した火災を消火又は制圧し、消防活動を強化するための設備で、主として公設消防隊の利用に供するため、東西両坑口にそれぞれ一個設けられていた。給水栓の本体は口径六五ミリメートル(公設消防隊が使用するホースの口径と合致する。)単口地上型であり、その給水能力は、毎分四〇〇リットル以上であった。

(8) 水噴霧装置

水噴霧装置は、水を噴霧状に放射して火勢を抑制又は消火し、あるいは火熱からトンネル施設等を冷却保護し、火災の延焼を防止するための設備で、火災場所の一定の区画三六メートル(必要あるときは二区画の放水可能)内の一斉放水をするものであった。水を放射するスプレーヘッドは、両側壁面ボード部にそれぞれ四メートル間隔で一〇二四個設けられ、一八個(三六メートルの範囲)が同時に放水する仕組みで、その放水能力は毎分九五リットル以上、放水圧は一平方センチメートル当たり三キログラム以上であった。この操作は、コントロール室に火災通報があると火災の状況を確認のうえ行うことになっていた。

(9) 水槽及び消火ポンプ

前述の消火栓、給水栓及び水噴霧装置に加圧送水するため、東換気塔そばのポンプ室に主水槽(容量一七〇立方メートル、別紙図面7においては「貯水槽170立方メートル」と表示されている。)を設け、毎分二五〇〇リットル以上の送水能力を有する消火ポンプで加圧送水していた。さらに、補充用として受水槽(容量五〇立方メートル、同図面において「(貯水槽)50立方メートル」と表示されている。)を設けていた。また、呼水槽(容量三・五立方メートル、同図面において「呼水槽3立方メートル」と表示されている。)を高所に設け給水本管に直結し、平常時給水管に水を充填していた。なお、水槽、ポンプ及び給水管の配管の関係は別紙図面7のとおりであった。

(10) 可変標示板

本件トンネル内で発生した車両火災事故等に際し、走行車に対し速やかに警告して事故の拡大を防止するため、見通しの良い本件トンネル東坑口から東京寄り約五三五メートルの地点(小坂トンネルの東坑口から東京寄り約二一〇メートルの地点)の追越車線側に路面上四・一メートル、縦一・六五メートル、横二・五一メートル、一文字の大きさ縦〇・四五メートル、横〇・三九メートルの電光式標示板(D型)である本件可変標示板を設けていた。この操作は、コントロール室から遠方監視制御で行うようになっていた。

(11) 送風機

トンネル内の換気用として東西両換気塔にそれぞれ六台の送風機が設置されていた。この送風機は、毎秒五二八立方メートル以上の送風能力を有し、平常時は送風用として使用され、トンネル外の空気をトンネル内の天井板の上部空間から天井板に四メートル間隔に設けた送風穴を通して車道に送り出し、トンネル内の空気の清浄を図っていたが、一旦火災が発生するとトンネル内の人命救助と消防活動を容易にするため、送風機を逆転させ車道内の煙を送風穴から吸い取り、天井板上部の空間を通してトンネル外に排出する仕組みになっていた。その排煙能力は送風能力の六〇パーセント以上であった。

(12) 火災受信盤及び遠方監視盤

火災受信盤は、東西両換気塔に設置されており、トンネル内に設置された火災感知器、手動通報機等からの信号を受け、火災が発生した地区の表示灯と火災報知灯を点灯し、ベルを鳴らして火災の警報を発報し、トンネル内水噴霧の自動弁の開放、消火ポンプの起動等の一次信号を供給する(制御表示する)ものであった。なお、東西両換気塔の火災受信盤は、コントロール室の遠方監視盤と連結しており、その操作はコントロール室から遠方監視制御装置により行っていた。

(13) 避難設備(非常通路)

トンネル内で火災等が発生した場合に、トンネル内の人たちを避難させるため、約五〇〇メートル間隔に三箇所上下線の連絡通路を設けていた。なお、連絡通路の位置を表示するため、「非常通路」の内照式表示板をその上部に設けていた。

(三) 防災設備の管理・運用体制

(1) 火災時の機器作動の順序

トンネル内で火災が発生すると、まず、火災感知器が作動し、火災の発生を感知し、東西両換気塔の火災受信盤を経由してコントロール室の遠方監視盤の火災表示灯を点灯させるとともに警報ベルを鳴らして火災の発生を知らせるようになっていた。これとは別に、事故当事者又は発見者がトンネル内の手動通報機で火災の発生をコントロール室に通報することもできるようになっていた。これらの通報を受けると、コントロール室係員は、ITVを作動させて火災の発生及び火災現場を確認し、トンネル入口部可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を出して通行車両の運転者に危険及び進入禁止を知らせ、消火ポンプ及び水噴霧装置を作動させると同時に水噴霧の放水をITVで確認し、一方、トンネル内の人命救助と消防活動を容易にするため、送風機を逆転させて煙等を排出し、さらにトンネル内の照明を全灯にするといった一連の操作を行うとともに、管制室に火災の発生を専用電話で通報することになっている。なお、東西両換気塔の火災受信盤はコントロール室の遠方監視盤と連結しており、右の操作はいずれもコントロール室の遠方監視盤に設けられている操作卓(遠方監視制御装置)ですることになっていた。

(2) 通報体制

トンネル内に火災が発生したとき、被告は、火災に関する情報を管制室に集中したうえで、ここから関係消防機関に通報する体制をとっていた。これは、情報を一元化することによって状況を的確に把握するとともに、通行車両への交通情報の提供等交通対策をも一元的に処理するためであった。

しかして、東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間(日本坂トンネルはこの区間に含まれる。)は、その行政区域が静岡市と焼津市にまたがっている関係上、各々の区域の消防を担当する静岡市及び焼津市は、右区間における消防相互応援に関する協定を締結し、その協定に基づき、両市の各消防本部は、右区間の出場隊について上り線を焼津消防、下り線を静岡消防が担当する(上下線方式)との合意をしており(昭和四四年一月三〇日、東名高速道路内の静岡・焼津インターチェンジ間における消防相互応援に関する協定書、同協定に基づく覚書)、被告にもその旨の通知がなされていたので、被告は、右区間の火災事故や救急を必要とする交通事故について、従来から下り線については静岡消防に通報していた。

なお、前記協定は昭和四四年一月三〇日に締結され、同年二月二日から施行されていたが(同区間が供用開始されたのは昭和四四年二月一日である。)、本件火災の発生当時も継続されていた。また、被告の東京第一管理局が管理する東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジまでの間で、各インターチェンジ間における消防・救急業務についても各市町村間で前記協定の締結に前後して消防相互応援協定が締結されており、各担当区間については、前述したのと同様に上下線方式になっていた。

2  本件延焼火災の状況

本件車両火災は、本件追突事故に関係した大型貨物自動車に積載された松脂、プラスチック等の大量の可燃性物質に引火して、それらが燃焼したため摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度と推定される高温・高熱が発生し、その火勢は午後七時ころピークに達した。その結果本件追突事故現場から約九〇メートル離れて停車していた後続車両に延焼し、その後、一時間あたり約一五〇メートル位の速度で後続車両に順次延焼し、火災発生後約一〇時間で本件トンネル内の約一〇〇〇メートルに及ぶ範囲に延焼したと推定されるのである。

3  被告の対応

(一) 管制室の対応

昭和五四年七月一一日午後六時三九分に、小山助役が、通行者から本件トンネル西坑口からトンネル内五五九メートルの地点に設置してあった九番の非常電話を通じて、大型貨物自動車がトンネル内で事故を起こして火災が発生している旨の通報を受けた。そこで、梅田係員は、直ちに当該区間を担当する静岡消防に対し、右の通話内容を通報して出動を依頼した。また、同消防への通報中に、通行者から本件トンネル西坑口からトンネル外一七九メートルの地点に設置してあった一六九番の非常電話を通じて、本件トンネル内で大型貨物自動車が乗用車と追突して燃えている旨の通報を受け、コントロール室からもITVにより火災を確認した旨の通報を受けたので、その内容も同消防に通報した。

梅田係員は、同日午後六時四八分、事故発生の通報を受け直ちに本件トンネルに向かって出動した巡回車静岡二号の森竹隊員から本件トンネル東坑口手前約二キロメートル付近から渋滞中である旨の連絡を受けたので、同日午後六時五〇分、静岡消防に出動状況を確認したところ、消防車が東名高速道路の下り線の本線上を一台、側道を二台それぞれ事故現場に向かっているとのことであり、同日午後六時五一分静岡料金所から静岡消防の消防車が高速道路に流入した旨の通報があった。

巡回車静岡二号の森竹隊員及び永関隊員は、本件可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示が出ているのを確認し、本件トンネル内に進入したが、本件トンネル内は停滞している車両で混雑しており、本件トンネル東坑口から約五三〇メートル以西への進入が不可能となったので、その場に停車して停車車両を本件トンネル外に誘導することとし、同日午後六時五三分、本件トンネル内の非常電話四番を使用して、その旨を管制室に連絡した。右の通報を受けた梅田係員は、静岡消防が本件火災現場に近づくのは困難であると考え、同日午後六時五六分ころ、焼津消防に連絡して右の事情を話して出動を懇願し、種々の折衝を行った結果、同消防は東名高速道路の下り線を逆行して本件事故現場に向かいたい旨の希望を述べたので、当時、牧之原サービスエリア付近を本件事故現場に向かっていた被告の巡回車静岡三号に対し、焼津インターチェンジで待機して焼津消防の消防車を先導するように指示した。同日午後七時一八分焼津インターチェンジに到着した右静岡三号は、同日午後七時二七分、同インターチェンジに着いた焼津消防の消防車を先導し、東名高速道路上り線を通行して、同日午後七時四一分、本件トンネル西坑口から西方三二二メートルにある上下線の開口部(以下「焼津側開口部」という。)に着いた。焼津消防の消防車は右開口部から下り線に入り、本件トンネル西坑口からトンネル内に進入して消火活動に入った。

(二) コントロール室の対応

同日午後六時三九分、本件トンネル内に設置してあった火災感知器が火災を感知し、コントロール室の監視盤のベルが鳴って、本件トンネル西坑口からトンネル内五〇〇メートルの範囲(本件トンネルを四分し、最も西坑口に近い四分の一の範囲)に設置された火災感知器からの通報であることを表示する火災表示ランプが点滅を始めた。そこで、白石係員は、直ちにITVを操作して確認作業を行ったところ、本件トンネル西坑口からトンネル内五九六メートルの地点に設置してあった九番カメラで火災を視認したので、もう一人の担当者であった井上係員に対し本件可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を出すように指示するとともに、その旨を専用電話で管制室に通報した。井上係員は、直ちに本件可変標示板及び上り線用のトンネルの入口部の可変標示板に「進入禁止」「火災」を表示させる操作をした。それから、白石係員は、消火ポンプの鎖錠を解放し、井上係員に水噴霧装置の西側鎖錠を解放するように指示し、可変標示板の表示灯及び水噴霧放水表示灯の点灯とITVの映像による放水の確認をして、さらに、東西両換気塔の送風機を逆転させ、トンネル内の照明を全灯にした。これら一連の操作が同日午後六時四三分ころ終了した。同日午後七時ころ、コントロール室の機器が異常を示し、モニターの映像が消えてしまった。

ところで、火災事故が発生した場合は、換気塔の防災盤の方がコントロール室の監視盤より詳しい火点が判るうえ、火災事故による防災設備の被害状況を確認する必要があるためコントロール室の係員が火災現場に近い方の換気塔に行く業務の扱いとなっていた。このため、コントロール室の杉山係員は、同日午後六時五〇分ころ、静岡管理事務所の原田博介所長(以下「原田所長」という。)にその旨を告げて、西換気塔へ向けて巡回車静岡三六号で出発した。杉山係員は、同日午後七時一五分ころ、一般道を経由して西換気塔に着き、同換気塔から黒煙が出ていたことから換気設備が正常なのを確認したが、西換気塔内の防災盤の火災表示が異常であり、消火ポンプも停止を示し、防災関係の電源が切れていることが判ったので、東換気塔そばのポンプ室に行き手動操作で消火ポンプを再起動させる必要があると判断し、その旨をコントロール室に報告した後、東換気塔に向かい、同日午後七時四五分にポンプ室に着いた。杉山係員は、ポンプ室に入ったところ消火ポンプが止まっていたので直ちに手動操作にスイッチを切り替えて再起動させた後、主水槽をのぞいて水位が半分であることを確認したが、水が不足すると判断し、消防隊に対し、貯水槽の水補給を依頼した。約二〇分経過した後の同日午後八時五分ころ、渇水のため再び消火ポンプが停止した。杉山係員は、直ちにその旨をコントロール室と西換気塔に連絡し、その後は消防隊の給水作業に協力した。

(三) 東坑口付近での対応

前述のように巡回静岡二号の森竹隊員は、同日午後六時四〇分、管制室から火災発生の通報を受け直ちに右静岡二号で、永関隊員とともに火災現場に向かって出動した。森竹隊員らは、本件トンネル東坑口から本件トンネル内に進入し、停滞している車両の間を東坑口からトンネル内に約五三〇メートル前進したが、車両の混雑のため、それ以上の進行が不可能となったので、下車して警察官と共同で本件トンネル内の東坑口近くに停車している車両をトンネル外に退避させるための誘導作業をしたが、トンネル内に煙が充満してきたので、右静岡二号を放置してトンネル外に脱出した。その後、森竹隊員は、本件トンネル東坑口に来ていた静岡管理事務所の中村助役らとともに、本件トンネル内に車両を放置して退避した運転者らに対し危険物積載の有無等の調査を行い、永関隊員は静岡側開口部を開け、警察官及び被告の職員らとともに右開口部から本件トンネル内にかけて停滞していた車両のうち約二〇〇台を翌一二日午前零時ころまでに上り線を経由して避難させた。

4  国賠法二条一項の責任

(一) トンネル防災設備のあり方

(1) 消防法上の規制

トンネルは、消防法一七条に定める防火対象物に該当しないので(消防法施行令六条、別表第一)、トンネルの設置者である被告は、消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設を設置し、維持すべき消防法上の義務を負担するものではない。また、消防に必要な水利施設に関しても、市町村が設置、維持、管理するものとされており(消防法二〇条二項)、トンネルの設置者である被告が水利施設を設置し、維持すべき義務を負担するものでもない。従って、消防法上、トンネルの設置者は、一般的に国民に課されている火災を発見したときの消防機関に対する通報義務(同法二四条)、火災発生時において消防隊が現場に到着するまでの間における応急消火等の義務(同法二五条一項、二項)及び消防吏員等の情報提供の求めに応ずる義務(同法二五条三項)を負うに過ぎず、特別の規制は受けていないのであって、トンネル内の自動車の火災についても、消防隊が消火を担当することとされているのである(消防組織法六条、消防法二四条以下)。

(2) 道路法上の規制

道路法は、道路の構造は、当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保することができるものでなければならないとして(道路法二九条)、抽象的に道路管理者に安全かつ円滑な交通の確保義務を負担させているが、道路の建設に際しての道路の構造の技術的基準は政令で定めることとされている(同法三〇条)。しかして、日本坂トンネル建設時(昭和四一年三月着工、昭和四三年四月竣工)の政令(昭和三二年八月一日政令二四四号道路構造令)には、トンネルに防災設備を設置しなければならない旨の定めはなかった。また、同令には、高速自動車国道についての規定がなかったため、建設省は、昭和三八年七月二〇日道路局長通達「高速自動車国道等の構造基準」を発し、行政上の指針としており、東名高速道路はこの構造基準によって建設されたものであるが、この基準にもトンネルの防災設備についての定めはなかった。なお、当時トンネルに関する一般的な技術基準として、昭和三七年三月建設省道路局長通達「道路技術基準(トンネル編)」があったが、右基準は、トンネルの調査、設計、施工、換気及び照明についての一般的標準を定めたものであって、防災設備についてはなんらの定めもなかった。その後、昭和四二年三月に発生した鈴鹿トンネル事故を契機として、トンネル防災設備の必要性が唱えられるようになり、建設省は昭和四二年四月一四日局長通達を発したが、これが法令上及び行政上の規制としては最初のものであった。

(3) 被告の調査・研究

被告は、わが国では初めての本格的な高速自動車国道である名神高速道路の建設以来、国内及び外国のトンネル内の車両火災例等を参考にして、トンネル防災設備のあり方について調査・研究を重ねるとともに、財団法人高速道路調査会(以下「高速道路調査会」という。)にトンネル防災設備計画の研究を委託し、高速道路調査会は、道路技術研究部会の道路施設研究小委員会トンネル分科会に右の研究のため学識経験者で構成する専門委員会を設けて研究を行い、昭和四〇年八月その研究結果を被告に報告した。

被告は、自らあるいは高速道路調査会の研究成果に基づいて、その設置するトンネルに防災設備を設置してきたのであるが、昭和四二年四月一四日局長通達が発せられたのに伴い、右通達よりさらに水準の高い「トンネル防災設備設置基準(暫定)」(以下「被告の暫定基準」という。)を定め、高速道路のトンネル建設の指針とした。日本坂トンネルの防災設備は、右暫定基準によったものであるが、わが国初めての高速道路の長大トンネルであったため、当時としては極めて高い水準の設備を施したのであり、その後昭和四九年一一月までに発せられた通達の水準をいずれも超えていたことは後記のとおりである。

(4) トンネル防災設備のあり方と本件トンネルの防災設備

前述の消防法及び道路法による法令上の規制並びに行政上の規制からすれば、トンネルの設置者である被告に課せられた義務は、道路の安全かつ円滑な交通の確保にあるのであって、消防活動を主体的に行う立場にはないのである。

ところで、トンネル内で車両火災が発生した場合、他の通行車両に及ぼす危険が大きく、また、火災による被害が拡大し、災害復旧に長期間を要することとなれば円滑な交通に支障をきたすこととなる。そこで、トンネルの設置者に要請される防災設備は、人命の安全確保を最優先にすること及び火災による車両、トンネル本体等の被害を最小限度とすることを目的として設置すべきであるが、トンネル設置者としての前記の立場からいって、その防災設備は、〈1〉火災の早期発見及び早期通報を図ること(火災感知器、手動通報機、非常電話等)、〈2〉後続車両のトンネル内への進入を阻止すること(可変標示板等)、〈3〉煙等によって避難、救助、消火活動が妨げられないような環境を確保すること(換気設備、避難通路等)、事故当事者等が初期消火活動を行えるようにすること(消火器、消火栓等)を基本とするものであることは当然である。

前述の法令上及び行政上の規制もこのような技術思想に立って定められているものであって、この思想は諸外国でもとられているところであり、社会的に是認されるところである。前述の本件トンネルに設置した防災設備の内容が、法令上及び行政上の規制を充足していることは明らかであり(この点は後述のとおりである。)、社会的に要請される水準を超えているものであるから、本件トンネルの設置に瑕疵がないことはもちろん、その管理についても後述のとおり瑕疵がないのである。

(5) 技術の進歩、設置基準の改訂と防災設備

被告のトンネル防災設備は、昭和三二年関門トンネルに設置されて以来、基本的な設備の内容については大きく変わっていないが、火災感知器、消火栓、水噴霧装置の自動弁、放送設備等の設備機器等については、より精度が高く、より信頼のおけるものへと進歩してきている。被告としても、これらの技術の進歩を踏まえて、防災設備の信頼性をより高めるため、可能な限り設備の改良を実施しているところであるが、多数のトンネルを管理しているうえ、防災設備の改良(このためには、通行禁止の措置も必要となる。)には多額の費用の支弁を必要とするから、基本的には、設備の老朽化に伴う更新と併せて、改良を実施していく方針であった。これは、被告の管理するトンネル延長が二六四キロメートル(昭和六三年七月現在)にも達しており、それに伴うトンネルの維持費も年間約二五〇億円を要していることからも明らかなように、設備の更新、維持には膨大な費用を要することや、工事に起因する交通規制等によって交通が阻害され、公益性が損なわれることを考慮すると、自ずと限界があるからである。したがって、技術の進歩に対応して、その都度更新しなかったからといって、道路が通常有すべき安全性を欠いているとは到底いえないのである。また、同様に設置基準が改訂されたからといって、その都度更新しなければならないわけではなく、建設当時の設置基準に合致してさえいれば足りるはずである。

(6) 本件事故後の復旧工事との関係

被告は、本件事故後、損傷した本件トンネルの復旧をするに当たり、道路建設にかかる学識経験者、警察及び消防の専門家を招致して設置した「日本坂トンネル技術対策検討委員会」の報告、警察・消防当局の要望等を考慮し、その結果、新しい設備として、トンネル内給水栓、ラジオ強制加入放送設備及び信号機を設置し、従来の設備の改良として、トンネル内照明の一部及び自動弁立ち上がり部に耐火ケーブルの使用、可変標示板の増設、水槽容量の増加等を実施した。このように、本件事故後の復旧工事による防災設備は、本件事故の重大性に鑑みて専門的知識のみならず社会の各界の要請に応じて改良されたものであって、改良前の設備が改良後のそれより劣るといっても、改良前の設備に不備があったということはできないのである。そして、それらは設備の更新の時期に併せて、さらに設備水準を高めた結果であって、既存の設備に瑕疵があったというわけではないのである。本件事故時の本件トンネルの防災設備がこれと異なるからといって、瑕疵があるとはいえないのである。

(二) 予見可能性

(1) 交通量

ア 東名高速道路が全線供用開始した昭和四四年から本件事故のあった昭和五四年までの年度別の通行台数は、別表(一)のとおりであるが、東京第一管理局が所管する東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジまでの区間における一日当たりの平均交通量を昭和四五年から昭和五四年までについてみると、別表(二)のとおりであって、同表によると、本件トンネルの所在する静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間においては、供用開始時から昭和四八年までは著しい増加傾向にあったが、同年からはその傾向は弱まり、ほぼ横ばいの状況にあったといえるのである。原告らは、昭和五四年当時においては、設計交通容量を突破して、過密な交通量であったと主張するが、東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間は、四車線で、設計速度毎時一〇〇キロメートル、可能交通容量一時間当たり三一〇〇台(これを一日当たり交通量に換算すると、六万三〇〇〇台となる。)であり、本件トンネルの防災設備は、右の可能な交通量とトンネル延長を勘案して、被告の基準上、最大級の防災設備を設置したのである。原告らの主張する一日当たり四万八〇〇〇台は、通年で渋滞なく、定常走行が可能となる交通容量であって、この数値を超えたからといって、高速道路としての機能を失うものではないのである。

イ 東名高速道路全線における車種別平均交通量を昭和四七年度から昭和五四年度までについてみると、別表(三)のとおりであって、大型車の通行は、微増の傾向にあるものの、それほど増加しているわけではない。

なお、被告が昭和五四年一一月一三日及び一四日に行った調査によると、東名高速道路の大井松田インターチェンジから焼津インターチェンジ間を通行する車両のうち、石油類等の危険物を積載している車両は、全車両の二・四パーセントであった。

(2) 事故件数・事故率

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故件数を昭和四五年から昭和五四年までについてみると、別表(四)のとおりであって、昭和四五年に二五七九件発生し、その後漸増して昭和四八年に三四四七件に達したのをピークとして、その後は減少し、昭和四九年以降は概ね二七〇〇件前後で横ばいの状況を示している。また、同区間の事故率は、別表(五)のとおりであって、昭和四五年に比べると昭和五四年には半減している。さらに、同区間に設置されたトンネル内における事故件数及び事故率は、別表(八)及び(九)のとおりであって、昭和四七年から昭和五四年までの間に増加していないし、事故率は著しい減少傾向にある。

(3) 東名高速道路における車両火災

前記の事故件数のうち、車両火災事故の件数及び原因は、別表(六)及び同(七)のとおりであり、昭和四五年から昭和五四年にかけて年平均三三件である。そのうち追突事故等による車両相互の事故による火災は、昭和四五年から昭和五四年までの間の合計で八件であり、その数は極めて少ない。また、昭和三一年から本件事故までの間に被告が管理する全高速道路のトンネル内で発生した火災は二四件であり、そのうち東名高速道路のトンネル内で発生したものは七件である。さらに、トンネル内車両火災の出火原因についてみると、その多くは車両の整備不良によるエンジン、マフラーの過熱等によるもので、事故等によるものは四件であり、そのうち東名高速道路のトンネル内のものは一件であって、事故車両以外の車両に延焼した事例は全然なかった。また、高速道路トンネル内における火災事故の発生率は、統計上〇・四ないし〇・五件/台億キロメートル(車両一台が一億キロメートル走行した場合に換算して計算した事故の発生件数)であり、著しく低いものである。

(4) 危険物積載車両の通行について

わが国において、危険物等を積載する車両の通行を規制しているのは、水底トンネル及び水底トンネルに類するトンネル(水際にあるトンネルで当該トンネルの路面の高さが水面の高さ以下のもの又は長さ五〇〇〇メートル以上のトンネル)だけであって(道路法四六条三項、道路法施行規則四条の六)、日本坂トンネルについては、なんら規制はなく、道路管理者としては、積載物の種類を予測すべくもないのであり、他方危険物の積載車両については、車両構造、積載方法、運搬方法、消火器の備付け等の規制(道路運送車両の保安基準、昭和二六年七月二八日運輸省令)によって安全を図るべきものとされており、危険物の積載車両の通行が道路交通の危険の可能性を高めるというものではない。

(5) まとめ

以上のように、東名高速道路における車両火災の数は極めて少なく、その火災の規模も車両単独による軽微なものが多く、本件のように高速道路のトンネル内で大型貨物自動車四台を含む六台の車両が追突事故を起こし、これによって車両火災が発生し、大型貨物自動車に積載していた多量の可燃性物質が燃焼して高温・高熱を発した結果、後続車両に延焼するといった火災は、極めて稀有な例であり、道路管理者である被告にとって予見不可能なものであったのである。

(三) 設置基準

(1) 法令・行政上の規制

ア 昭和四二年三月に発生した国道一号線鈴鹿トンネル内の車両火災事故後に、建設省は、次のとおり数次にわたりトンネルにおける非常用施設の設置基準を設けて、これを道路管理者に通達したが、その設置基準は、それ自体から明らかなように、トンネルにおける非常用施設の設置について行政上の取扱いの基準を定めたものである。

イ トンネルにおける非常用施設について行政上の取扱い基準として最初に通達されたものは、昭和四二年四月一四日局長通達であった。この通達では、トンネルを交通量及び延長によってAからDまでの等級に分類し、その等級に応じて備えるべき非常用施設を定めていた。日本坂トンネルはA級トンネルに該当したが、A級トンネルについては、非常用警報装置、通報装置、消火器及び消火栓を設けることとし、また、換気施設を設けるトンネルにあっては、これに火災時の排煙機能を付加するものと定められたが、各設備の仕様等については、定められていなかった。

ウ 昭和四二年四月一七日総理府に置かれた交通対策本部は、「トンネル等における自動車の火災事故防止に関する具体的対策について」を決定したが、そのうちトンネルにおける消火・警報設備等の整備充実の項は、昭和四二年四月一四日局長通達と同様の内容のほかに、トンネルの付近に道路維持用の水槽等の水利を設置する場合においては、これらの水利を消火用水利として活用できるよう配慮するものとするとの項が付加されていた。

エ 右交通対策本部の決定を受けて、建設省道路局長は、昭和四二年四月一八日局長通達を出した。その内容は、〈1〉トンネルに設ける消火・警報設備等は、道路の構造の一部であるから、道路管理者において、その整備充実を図ること、〈2〉トンネル内に設ける消火・警報設備等の設置基準は、昭和四二年四月一四日局長通達によること、〈3〉消火・警報設備等の種類、規格、具体的な設置要領等については、別途指示する予定である、というものであった。

オ 昭和四二年八月四日建設省道路局企画課長は、昭和四二年八月四日課長通達を出した。この通達は、昭和四二年四月一四日局長通達の設置基準に定める非常用施設に関する標準仕様を定めたものであって、その内容の大要は、別紙日本坂トンネル防災設備及び国の基準比較表(以下「別紙比較表」という。)の昭和四二年八月四日課長通達欄記載のとおりであった。なお、右課長通達による非常警報装置の標準仕様は、後述するように昭和四三年一二月七日改訂された(別紙比較表の昭和四二年八月四日課長通達欄記載のうち*を付したものが改訂された項目である)。

カ 昭和四三年一二月七日建設省道路局企画課長は、「道路トンネルにおける非常用施設(警報装置)の標準仕様について」(以下「昭和四三年一二月七日課長通達」という。)を発した。この通達は、昭和四二年八月四日課長通達の標準仕様のうち非常警報装置についての標準仕様を改訂したものであって、その内容の大要は、別紙比較表の昭和四三年一二月七日課長通達欄記載のとおりであった。主な改訂は、昭和四二年八月四日課長通達では非常警報装置のうち音による警報として警鐘(電鐘式)が定められていたのをサイレンとしたほか、警報装置の規格を詳細にしたことであった。

キ 昭和四五年一〇月二九日制定された道路構造令(政令第三二〇号)によって、初めて法令上トンネルの防災設備について規定が設けられた。同令三四条三項は、「トンネルにおける車両の火災その他の事故により交通に危険を及ぼすおそれがある場合においては、必要に応じ、通報施設、警報施設、消火施設その他の非常用施設を設けるものとする。」と規定していたが、その具体的な設置基準等についてはなんら規定されていなかった。

ク 建設省は、昭和四九年一一月二九日都市局長・道路局長通達「道路トンネル技術基準及び自転車道等の設計基準(一部改正)について」(以下「昭和四九年一一月二九日局長通達」という。)を発した。右通達においては、昭和四二年四月一四日局長通達を廃止し、道路トンネルの建設並びに維持管理をするのに必要な技術基準を新たに定めた。この技術基準のうち非常用施設については、その種類として通報装置、非常警報装置、消火設備及びその他の設備(排煙設備、避難設備、誘導設備、非常用電源設備等)とし、トンネルの等級をその延長及び交通量に応じて四段階(A、B、C、D)に区分し、その等級に応じて非常用施設を設けるものとした。日本坂トンネルが該当するA等級のトンネルには、通報装置、非常警報装置、消火器及び消火栓を設けることとしていた。各装置・設備についての大要は、別紙比較表の昭和四九年一一月二九日局長通達欄記載のとおりであった。

(2) 被告の設置基準

ア 被告は、昭和三〇年代に名神高速道路の建設に着手して、陸上の長大トンネルが出現するようになると、当時道路法や道路構造令に防災設備に係る規定がなかったので、これに対処するため独自に防災設備に関する調査・研究を行い、また、各分野の専門家から構成される委員会等を設置するなどして、それらの研究成果や報告等を基にして、防災設備の設置基準を定め、その後も、調査研究を重ね、その成果を踏まえて設置基準の見直しを実施してきた。

イ 日本坂トンネルの建設においては、土木工事が、昭和四一年三月着工され、昭和四三年四月に竣工し、防災設備工事が、昭和四三年五月から昭和四四年一月にかけて行われたものである。その防災設備の概要は前述のとおりである。しかして、右防災設備は、その基本設計時(昭和四一年三月)には、昭和四二年八月四日課長通達を参酌することができなかったが、詳細設計時(昭和四三年二月)には、昭和四二年四月一四日局長通達及び右課長通達を参酌し、被告が先に述べたような経緯で昭和四二年八月に制定した被告の暫定基準に以拠して設置されたものであるが、この防災設備と前述の各通達に定める設備の内容及び仕様を対比すると、別紙比較表のとおりである。

(四) 本件トンネルの瑕疵について

(1) 通報に関する瑕疵

ア 原告らは、火災の状況を直接把握する設備のない管制室から消防署へ通報する体制になっていたため、通報内容の正確性が担保されない危険性があった旨及びITVにより直接本件トンネル内の状況を把握することができたコントロール室から通報する体制をとるべきであった旨を主張する。

しかしながら、非常電話の位置は管制室においてもトンネル外かトンネル内かの判別はつくし、さらに、通報者との通話によって非常電話の位置や火点も具体的に把握できるのであって、原告らが主張するような体制になくても何ら支障はないのであり、消防署への通報についても後述するようにコントロール室における情報収集にはその職務内容からして限界があるので、当然情報収集能力に優れている管制室において、東京・三ヶ日間の東名高速道路の交通に関する情報を一元的に把握したうえ、必要な情報や指令を発することが適切であることはいうまでもない。すなわち、コントロール室は、高速道路のトンネル等の維持管理を行うための機械、電気、通信設備の保守、管理等を遂行する組織であり、火災時の職務は、防災設備を作動させ、それを監視することである。また、火災が発生した場合には、設備担当の職員や保守委託会社の社員を招集することも重要な業務である。さらに、火災時に発生する煙等による視界不良等のため、二〇〇メートル間隔に設置されているITVカメラによる状況把握にも限界があるのであって、コントロール室からの情報を過大視することはできない。一方、管制室は、非常電話による通報者からの通報だけでなく、コントロール室からの連絡、さらには出動した巡回車等からの情報を受けることができる体制にあったから、管制室において情報が不足し、消防署への通報内容の正確性が担保されない危険はなかった。

イ 原告らは、管制室の梅田係員について、火点を正確に確認せず、本件火災状況を具体的に把握しないで不正確な情報を静岡消防に通報し、また、焼津消防へ通報するのが遅れた結果、初期消火を不可能ならしめた旨を主張する。

しかしながら、梅田係員の行動は前述のとおりであり、同係員は、非常電話九番が本件トンネル西坑口から五五九メートル入った地点にあることは熟知しており、これを静岡側と誤ることはない。また、消防署への通報についても、本件火災が東名高速道路下り線の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間で発生したものであったので、静岡市と焼津市の消防相互応援に関する協定等に基づき、下り線を担当する静岡消防にしたのは、当然の措置であり、その後巡回車静岡二号から、渋滞状況等について連絡を受け、静岡消防に出動状況を確認し、同日午後六時五六分に焼津消防に出動依頼した措置は的確であり、何ら非難されることはないのである。

ウ 原告らは、静岡消防及び焼津消防の右各消防活動記録に基づいて、梅田係員が火災通報に際し本件火点が静岡側に近い地点と間違った通報をしたと主張する。しかし、右各消防活動記録の客観性については、なんら立証されていないのである。すなわち、静岡地方裁判所に係属している別件において、同事件の原告代理人は、右各消防活動記録の記載内容の真実性を立証するため、静岡消防と事前に折衝し、同消防の横田孝消防士(以下「横田消防士」という。)を証人として申請したが、横田消防士は静岡消防の消防記録をいつ誰が作成したか知らないと証言しており、その記載内容が真実性を有するかどうか、次の点を考え合わせると非常に疑わしいのである。すなわち、静岡消防へ通報した梅田係員は、本件トンネル内の非常電話九番の位置を熟知しており、この電話の設置場所を間違えるようなことはありえず、また、非常電話による事故発生の通報を受けた管制室係員は、必ず当該非常電話に付記されている番号を通報者から聞き、その通話がどの非常電話からのものであるかを確認するのが通常の業務の取扱であったのである。さらに、横田消防士は静岡消防には東名高速道路の非常電話の所在場所の記載された図面が掲示されていた旨を証言していることも考えると、右各消防活動記録の記載は容易に措信できないのである。

エ 原告らは、本件火点は本件トンネル内の西坑口側であったのであるから、焼津消防へも即時通報すべきであったのに、梅田係員がこれを怠ったと非難するが、前述のように、東名高速道路の消防活動については、上下線方式による援助協定があったのであり、管制室の担当係員も右協定に従って出動要請を行うことは当然であるし、また、所管外の場所への出動要請は容易でないのである。このような場合には、本来は、消防本部間の話し合いによって協定と異なる共助を要請すべきであるが、梅田係員は、前述の森竹隊員の報告により、静岡消防の消防隊が本件トンネル内を前進して本件火点に近づくことが不可能であると判断し、同日午後六時五六分、焼津消防に出動を懇願し、数分余りにわたって種々折衝した結果、下り線を逆行したい旨の同消防の希望に応じ、被告の巡回車に先導させることとして出動を承諾してもらったのである。横田消防士の右証言によって明らかなように、消防記録の受信時分は、通話終了時分を記載することになっていたことからみて、焼津消防の消防活動記録の記載のみによって、梅田係員の出動要請が不当に遅れたということはできないのである。

(2) 消火に関する瑕疵について

ア 水噴霧に関する瑕疵について

(ア) 水噴霧装置は、前記のとおり水を噴霧状に放射して火勢を抑制又は消火し、あるいは火勢からトンネル設備等を冷却保護し、火災の延焼を防止するための設備で、火災地点の一定の区間(必要なときには、二区間の放水可能)三六メートル内で一斉放水するものであり、水を放射するスプレーヘッドは、トンネル内上部側壁に四メートル間隔で設置され、一八個(三六メートルの範囲)が同時に放水する仕組みで、その放水能力は一個当たり毎分九五リットル以上であった。放水区間については、火災発生時にコントロール室で鎖錠を解放すると、火災感知器が火災を感知した区間から自動的に放水されるものであり、コントロール室では放水区画を選択できない構造となっていた。なお、東西両換気塔の防災盤においては、手動により放水区画を選択することができた。

前記のとおり、コントロール室の白石係員が、ITVによって本件火災を確認した後、消火ポンプ及び水噴霧装置の鎖錠を解放して水噴霧装置を稼働させ、監視盤の放水表示を確認したのは、同日午後六時四三分であった。その後、コントロール室にいた白石係員、杉山係員らは、ITVにより水噴霧装置が正常に作動していることを確認し、その後、同室に赴いた原田所長もこれを確認したことは前述のとおりである。ところが、同日午後七時ころ、本件トンネル内の異常な高熱により、配線部分が焼損し、コントロール室の監視盤に異常が発生したと推認されるが、その際消火ポンプが停止し水噴霧装置の放水も止まったと推定される。

一方、防災設備機器の点検、状況把握のため、現地に向かった杉山係員は、同日午後六時四五分に東換気塔に到着して点検をしたところ、消火ポンプが止まっていたので、スイッチを現地操作に切り替えて起動させたが、同日午後八時五分に水槽が渇水し、再び消火ポンプが停止した。また、静岡管理事務所の保守担当の太田係員が、同日午後七時五〇分過ぎに本件トンネル西坑口からトンネル内に進入したところ、本件火点付近で水噴霧装置のスプレーヘッドから水が出ているのを確認していた。このような経緯から、水噴霧装置が稼働したのは、同日午後六時四〇分ころから午後七時ころまでと午後七時四五分から午後八時五分までの合計約四〇分間であると推定される。

原告らは、水噴霧装置が本件火災当時何らかの故障により作動しなかったとして設備に欠陥がある旨を主張するが、前述の時間帯に本件火災現場に放水されたことは明らかであり、また、実際の放水区間が火災現場と異なることは水噴霧装置の機構上ありえないのである。

なお、水噴霧装置が停止したのは、大量の可燃性物質の燃焼に起因する摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度の異常な高熱によって、制御ケーブルが焼損し、消火ポンプが停止したためであり、不可抗力であって、設備自体に瑕疵があったとはいえないのである。

(イ) 原告らは、火災感知から水噴霧の放水までの手順について非能率的であり、ITVを常時点灯させておくだけでなく、火災感知器とITVを連動させておくべきであったと主張するが、そのような仕組みにしたとしても放水開始までの時間についてそれほどの差異がでるものではない。

(ウ) 原告らは、本件トンネルの水噴霧装置に火災の状況に応じて放水区画を集中したり広げたりする機能がなかったと主張するが、前記のとおり東西両換気塔の防災盤においては、手動により放水区画を選択することができた。

イ 消火栓・消火器に関する瑕疵

(ア) トンネル内で発生した火災に対して、事故当事者又は発見者の操作により、初期消火を行うために、消火栓と消火器二本が、トンネル内追越車線側壁面に四八メートル間隔で四二箇所に設置されていた。消火栓は、長さ三〇メートルのホースを有し、放水量は毎分一三〇リットル以上であり、有効射程距離は水平一四メートル以上であるから、トンネル内で水の届かないところはなかった。原告らは、事故の状況によっては、火点に最も近い消火栓を使用できないことがあると主張する。確かに本件火災の際には、訴外大石らは、本件追突現場付近の消火栓ではなく、右消火栓より四八メートル東坑口側に設置されていた消火栓のホースを引き出したようであるが、この場合でもホースの長さは三〇メートルであり、放水能力は水平距離で一四メートル以上であるから、放物線的に放水すれば十分に火源に放水することができたはずである。

(イ) 原告らは、消火栓の水圧が低かったために水が本件火点まで届かなかったと主張する。しかしながら、前記のとおり訴外大石らが消火栓のレバーを倒さなかったために、消火栓からの放水ができなかったのである。前記のとおり消火栓の放水能力は水平距離で一四メートル以上であり、放物線的に放水すればさらに遠くまで放水できるから、水が本件火点まで届かなかったという主張には根拠がない。

(ウ) 原告らは、消火栓の使用方法が複雑で、消火器の設置場所もわかりにくかった旨及び消火栓の使用方法についての広報宣伝活動が不足していた旨を主張する。

しかしながら、消火栓の放水は、コントロール室において消火ポンプの鎖錠を解放し、消火栓格納箱内のレバーを倒せば開始され、消火ポンプの鎖錠が解放されていなくてもレバーを倒すと呼水槽の水圧により一定の放水が可能となる仕組みとなっていたのである。消火栓格納箱内には起動釦が設置されていたが、レバーも起動スイッチの役割を兼ねており、レバーを倒しさえすれば起動釦を押していなかったとしても放水が開始されるようになっていたから、消火栓の使用方法が複雑という非難は当たらない。また、消火栓の使用方法は、扉の内側等に掲示し分かりやすく説明してあったし、レバーは目立つように赤色に塗装され、容易に倒すことができるものであったので、消火栓の使用方法がわかりにくいなどということはなかった。消火器は、各消火栓の横に設けられている消火器格納庫のなかに格納されており、消火栓の扉を左右に開けると消火器格納庫の表面を覆うようになっていたが、消火栓と消火器の各格納庫の表面には、それぞれ「消火栓」及び「消火器」と大きく表示されており、また、消火器の格納庫の上部には、赤色灯が常時点灯していたのであるから、消火器の設置に気付かないということはない。

なお、被告は、一般の利用者が火災現場において、消火栓・消火器を容易に扱えるようにするため、サービスエリア等にその使用方法を記したパンフレットを置いたり、消火栓を展示することなどによって、初期消火が支障なく行えるように広報宣伝活動にも努力していた。

ウ 制御ケーブルに関する瑕疵について

本件火災当時、本件トンネルの水噴霧装置の制御ケーブルに使用されていたものは、ポリエチレンで被覆された電線をさらにポリエチレン又はビニールで被覆したケーブルであり、これを管路に収納し、不燃材である石綿セメント製の内装板又は不燃材である軽量気泡コンクリート製の天井板によって保護されるような形で配線していた。右ケーブルの耐火温度は、摂氏三四六度位であり、通常の車両火災では、焼損することはありえないものであった。原告ら主張の耐熱・耐火ケーブルについては、それが実用化されたのは、前者が昭和四八年二月、後者が昭和五三年一〇月であって、仮に、これらのケーブルを使用したとしても、前記のとおり急激に摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度の高熱・高温が発生した本件火災に耐えることは、その規格(耐熱ケーブルについては、徐々に加熱して一〇分間摂氏三八〇度に耐えるものとされ、耐火ケーブルについては、徐々に加熱して三〇分間摂氏八〇〇度に耐えるものとされていた。)からして困難であった。したがって、耐熱あるいは耐火ケーブルの開発時期からみて、それを使用しなかったことをもって本件トンネルの設置・管理に瑕疵があったということができないのみならず、その不使用と本件損害との間には因果関係はないといわなければならない。

エ 消火ポンプに関する瑕疵について

消火ポンプの再起動は、東換気塔そばのポンプ室において手動でできるようになっており、前記のとおり火災発生の際にはコントロール室の係員が換気塔に行くことになっていたから、問題はなかった。

オ 給水栓に関する瑕疵について

公設消防隊が使用するホースの口径と合致する口径六五ミリメートルの給水栓は、本件トンネル東西両坑口にそれぞれ一個設置しただけで本件トンネル内には設置していなかった。しかしながら、消火栓については、事故関係者や発見者だけでなく、消防隊の隊員が使用することも予定していたのであり、本件トンネル内に給水栓がなかったからといって直ちに公設消防隊の消火活動ができないというわけではなかった。

カ 消火水量に関する瑕疵について

消火水量に関する本件トンネル防災設備の設計時の考え方は、消火栓三個、給水栓二個及び水噴霧装置一区画から同時に放水し、四〇分間放水できる量に二〇パーセント以上の余裕をもたせて、一七〇トンの水槽を設けたのであって、高速道路上における通常の車両火災に対する初期消火の水量としては十分であり、瑕疵は存在しない。なお、本件事故後の改修においては、消防等の要請により、トンネル内に給水栓を設けたり、水噴霧装置の同時放水を三区画としたため、水槽を拡張したが、前述のトンネル内防災設備のあり方から考えると、本件事故前の貯水量が少な過ぎたということはないのである。

(3) 非常警報に関する瑕疵について

ア 可変標示板に関する瑕疵について

(ア) 高速道路に可変標示板を設置する場合のトンネルとの位置関係は、被告の標準仕様に示されているとおり、標示板は、運転者が表示を視認した後の車の制動停止距離を一六〇メートル、坑口までの停止余裕距離を三〇メートルとして、その合計が一九〇メートルとなることから、トンネル坑口から約二〇〇メートル手前の位置を標準としていた。日本坂トンネルと小坂トンネルのように二つのトンネルの間が五七メートル間隔で連続しているような場合、標示板の視認距離が最低でも八三メートル必要であり、両トンネルの間に設置しても視認できないので、両トンネルを一体と考えて、下り線について小坂トンネル東坑口を起点として二一〇メートル手前の見通しのよい追越車線側に次の仕様の本件可変標示板を設置したのである。すなわち、路面上四・一メートル、縦一・六五メートル、横二・五一メートル、一文字の大きさ、縦〇・四五メートル、横〇・三九メートルの電光式標示板(光源白熱灯二六V、二六W)であり、「進入禁止」の表示がされると、標示板上部に設けられていた赤色灯二個が点滅することとなっていた。この設置位置及び構造は、適切であり、何ら瑕疵はない。また、本件トンネル内又は小坂トンネル内に可変標示板を設置することは、建築限界や維持管理の問題が生じるので、現在でも実施していないところである。なお、本件可変標示板については、「進入禁止」の表示と連動し、音源から二〇メートルの地点で九〇ホン以上の音を発生する電子式サイレン(吹鳴時間は一〇分以内で任意に設定することができ、使用中は三分間に設定してあった。)を設置していたが、音量が大きいため近隣の住民より騒音公害であるとの苦情があって、昭和五四年二月ころから使用を停止していた。

(イ) 原告らは、火災感知から可変標示板の表示までの手順について非能率的であり、ITVを常時監視体制で運用するだけでなく、火災感知器とITVを連動させておくべきであったと主張するが、そのような仕組みにしたとしても「進入禁止」が表示されるまでの時間についてそれほどの差異がでるものではない。

(ウ) 前述のように、コントロール室の白石係員は、同日午後六時三九分火災感知器による火災の通報を受け、直ちにITVによって本件火点を確認した後、すぐさま井上係員に指示して、本件可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を点灯させ、これと連動する同標示板上部の赤色灯を点滅させた。

ところで、本件トンネル東坑口の手前三〇メートルに設置してあったトラフィックカウンターが計測したところによれば、同日午後六時四〇分から同五〇分までの一〇分間に二〇八台の車両が右トラフィックカウンター上を通過して行ったのであるが、この通過車両の大部分は、本件可変標示板の「進入禁止」表示の点灯、赤色灯の点滅後にこれを無視して進入していったものと推定されるのである。本件事故直後の新聞紙上等に報道されたところによると、右標示板の表示をみて本件トンネル東坑口の手前で停車した運転者の一人は、多くの後続車両が本件トンネル内に進入していったことを目撃談として語っているところである。

この点、原告らは、本件追突事故発生時には、追突事故現場から本件可変標示板までに約八〇台の車両が存在し、さらに、火災発生時から本件可変標示板の点灯まで少なくとも二分間以上を要し、その間約一〇七台の車両が進入し、合計一八〇台以上の車両が可変標示板の表示をみることなく進入したと主張するけれども、本件追突事故現場は、追越車線側であって、走行車線側は、大型車はともかくとしても走行が可能であって、本件追突事故関係車両の後続車両のすべてがトンネル内に停滞したとは考えられないところであり、現に同日午後六時四〇分ころ、本件追突事故現場を通過したと考えられる車両の運転者から本件トンネル西坑口から一七九メートルの地点に設置してあった非常電話一六九番を使って本件事故の通報があったのである。なお、本件火災発生後本件可変標示板が「進入禁止」を表示するまで、少なくとも二分間以上が経過したという主張は客観的な根拠に乏しいのである。

このように、本件可変標示板の「進入禁止」「火災」の表示及び赤色灯の点滅の警告を無視して多数の車両が本件トンネルに進入したことが、消防隊の進入を妨げ、また、トンネル内に停滞した車両の退避を困難にした結果、被害の拡大を招いたものである。

イ 信号機の不存在について

信号機の設置権限は被告にはなく、公安委員会が設置するものであるから、仮にその不存在によりなんらかの問題が生じたとしても、それを被告の責任に帰せしめることはできない。

ウ トンネル内警報設備の不存在について

日本坂トンネルの建設時には、トンネル内の情報伝達装置については、法令・行政上の規制及び被告の設置基準に明確な規定はなかった。これは、制限速度を守って十分な車間距離をとり、標示板の表示に従って走行すれば、事故等が起きても、現場に接近する車両は僅かであり、それらの車両は後退させることなどによって退避可能であり、交通管理上問題はないと考えたからである。仮に、可変標示板の表示を見ずにトンネル内に入った車両があっても、非常時に消火ポンプの鎖錠を解放すれば、トンネル内の消火器格納庫に設置されている赤色灯が全て点滅するので、それによって、運転者は非常事態の発生を知ることができるのである。

原告らが本件事故当時本件トンネル内に設置されていなかったとするラジオ強制加入放送設備については、日本坂トンネル建設時には実用化されておらず、昭和四七年に都夫良野トンネルにおいて利用客に対するサービスとしてトンネル内でもラジオの受信ができるよう再放送設備を設置して、その再放送設備に割込機能を持たせたものが最初の設置例であった。試験的に設置したこの割込機能設備は、走行中の車両の受信中のラジオに割込放送をするシステムであって、トンネル内を走行中の全車両が受信できるものではなく、また、提供する緊急時の情報に関する収集の方法やその提供の仕方について課題が残されていたのであって、その効果については、確定的なものとはなっておらず、これがなかったからといって直ちに瑕疵があるとはいえないのである。

(4) 退避に関する瑕疵について

前記のとおり巡回車静岡二号の森竹隊員及び永関隊員並びに被告の職員等の退避誘導作業の結果、本件トンネル東坑口からトンネル内五三〇メートル付近までの車両はほぼ退避することができたのであるから、退避に関して瑕疵はない。

(5) 換気設備に関する瑕疵について

前記のとおり本件トンネルの換気のために設置した送風機の排煙能力は送風能力の六〇パーセント以上であり、本件事故の際にも有効に機能したのであって瑕疵はない。

(五) むすび

被告は、これまで述べたように、道路管理者として要求されるトンネル防災設備について、その設置目的に適合するに十分な設備を本件トンネルに設置し、本件トンネルの保守等に関しても定期的に点検を行っており、職員に対しても防災設備の機構・機能等について熟知させ、また、事故に備えてマニュアルを定め、日頃から職員に対し事故等における行動について教育し、防災訓練を実施して、事故対策に遺漏のないように努めてきたところである。

しかしながら、本件事故においては不幸にして予測を超える大火災の発生によって、多数の車両が延焼する結果となった。しかして、国賠法二条一項は、結果責任を追求するものでないことは明らかであって、本件においては、客観的にみて、その設置及び管理について通常有すべき安全性を欠くという瑕疵の有無が問題であり、この問題の解明のためには、被告が高速道路の管理者としてどのような防災設備を設置すべきであるのかという観点のみならず、交通上の通行者の利便、設備投資による通行料金等への影響等幅広い観点から、本件トンネルに瑕疵があったかどうか、慎重に判断されるべきであると思料する。

5  国賠法一条一項の責任

(一) 梅田係員及び小山助役について

梅田係員がした静岡消防及び焼津消防への通報はいずれも的確であり、その行動になんら問題はなく、小山助役についても同様である。この点は前述のとおりである。

(二) 白石係員について

原告らは、コントロール室の白石係員が、本件火点を本件トンネル内の静岡側と誤認してその旨管制室に誤報し、また、ITVを操作することにより本件トンネル内が後続車両で渋滞しているため、消防隊が容易に東名高速道路下り線を走行して本件火点に接近できないことを認識しながら、これを管制室に伝えなかったことから、消防隊の現地到着を著しく遅らせたと主張するようであるが、白石係員の行動については前述のとおりであり、その対応と処置は適切であり、何ら問題はない。白石係員は、本件車両火災を本件トンネル西坑口からトンネル内五九六メートルの位置にある九番カメラで確認をしており、これを静岡側と誤ることはありえないところであって、同係員が誤報したことを認める証拠は全然存しない。もともと、コントロール室は、高速道路のトンネル等の維持管理を行うための機械、電気、通信設備の保守、管理等を遂行する組織であり、火災時の職務は、防災設備を作動させ、それを監視することである。したがって、火災等が発生した場合には、設備担当の職員や保守委託会社の社員を招集することも重要な業務である。白石係員は、前述の防災機器の作動後は、モニターを監視しながら、これらの職員等の呼出業務に従事していたのである。一方、管制室は、既に火災発生の情報を入手し、出動した巡回車等から刻々交通情報を受けていたのであるから、管制室において情報が不足していたことはない。なお、火災時に発生する煙等による視界不良等のため、二〇〇メートル間隔に設置されているITVカメラによる状況把握には限界があるのであって、コントロール室からの情報を過大視することはできない。

6  損害について

(一) 第一事件原告らの損害

(1) 車両損害

第一事件原告らは、被害車両の損害について、レッドブックの平均販売価格を基に算定しているが、この平均販売価格は、過去の販売実績を基に予測された価格であって、実際には同じ車種でも車両の走行距離、程度等により差異が生じ、価格が変動することなども考えれば、昭和五四年七月から八月にかけての実際の被害車両の再取得価格などといえるものではない。

(2) 積荷損害

第一事件原告らは、積荷についても損害があったとして、その賠償を請求している。しかし、損害を請求している積荷が被害車両に積載されていたということが不明確なものがあり、その損害の立証のために提出された書証は、事故後長期間経過した本訴提起後の昭和五八年に作成されたものが多く、その記載内容も不明確であって、信用性に乏しいと言わざるをえない。なお、第一原告山野運輸倉庫については、積荷に係る書証も提出されておらず、この点の立証はない。

(3) 休車損害

第一事件原告らは、休車損害について、本来各原告の被害車両毎に立証すべきであると自認しながら、それが繁雑であるとして画一的に算定し、請求している。

しかし、同原告ら各会社の収益には大きな差があることは当然であるうえ、営業所の所在地が各々異なることからその差はなおさらである。個別の休車損害額の算定が可能であるにもかかわらず、それが繁雑であるという理由で画一的に算定すべきではなく、各被害車両毎に収益をあげたであろう具体的な根拠を示して休車損害額を算定すべきである。

また、同原告らは、貨物自動車を一台保有して運送事業を行う場合、どの程度の経費が必要かを算定し、それに貨物自動車を再取得するために要する日数を乗じたものを休車損害額としているが、それがその間の実際の営業利益とどの程度整合するかは疑問であり、その算定方法は適切でない。仮に、指標の数値を用いるとしても、規模別の数値を用いて算定すべきである。

(二) 第二事件原告の損害

第二事件原告は、その所有していた車両の新車価格を請求している。しかし、本件事故時には、その車両は、半年以上使用していたものであり、新車時と同じ価値があったとは到底認められない。

四  被告の主張に対する原告らの認否

1  被告の主張1(本件トンネルの状況)について

(一) 同1(一)(設置状況)の事実のうち、日本坂トンネルが東名高速道路の静岡市大字小坂字崩脇地内から焼津市大字野秋字鬼沢地図内までにかけて存し、上り線用のトンネルの長さが二〇〇五メートル、本件トンネルの長さが二〇四五メートルであったこと及び本件トンネルの西区間に下り勾配二・五パーセントの勾配が付されていたことは認めるが、その余の事実は不知。

(二) 同1(二)(防災設備)の事実のうち、被告の主張する各防災設備が設置されていたこと、その設置場所及び設置個数、手動通報機の使用方法、火災感知器による通報先がコントロール室であったこと、非常電話による通話先が管制室であったこと、消火栓が長さ三〇メートルのホースを装備したホースリール式であったこと、主水槽の容量が一七〇立方メートルであったことは認めるが、その余の事実は不知。

(三) 同1(三)(防災設備の管理・運用体制)の(1)(火災時の機器作動の順序)は不知。同(2)(通報体制)の事実のうち、火災に関する情報は管制室に集中し、管制室から関係消防機関に通報する体制をとっていたことは認めるが、その余の事実は不知。

2  同2(本件延焼火災の状況)の事実は不知。

3  同3(被告の対応)について

(一) 同3(一)(管制室の対応)の事実のうち、通行者から一六九番の非常電話を通じて、本件トンネル内で大型貨物自動車が乗用車と追突して燃えている旨の通報が管制室にあったこと、梅田係員が静岡消防に通報したことは認めるが、同係員が同日午後六時五六分ころ焼津消防に連絡して出動を懇願したことは否認し、その余の事実は不知。

(二) 同3(二)(コントロール室の対応)の事実は不知。

(三) 同3(三)(東坑口付近での対応)の事実は不知。

4  同4(国賠法二条一項の責任)について

(一) 同4(一)(トンネル防災設備のあり方)について

同4(一)の(1)(消防法の規制)及び(2)(道路法上の規制)のうち、被告主張の法令・通達の存在及びその内容は認めるが、その主張は争う。同(3)(被告の調査・研究)の事実は不知、その主張は争う。同(4)(トンネル防災のあり方と本件トンネルの防災設備)は不知ないし争う。同(5)(技術の進歩、設置基準の改訂と防災設備)は不知ないし争う。同(6)(本件事故後の復旧工事との関係)のうち、本件事故後に行った復旧工事の内容は認め、その余は不知ないし争う。

(二) 同4(二)(予見可能性)の事実のうち、(4)(危険物積載車両の通行について)の法令の記載は認めるが、その余は不知ないし争う。

(三) 同4(三)(設置基準)の(1)(法令・行政上の規制)の事実のうち、道路構造令が制定されたが具体的な設置基準は規定していなかったこと、被告主張の各通達が出されたことは認めるが、その余の事実は不知。(2)(被告の設置基準)の事実のうち、内部的な設置基準があったことは認めるが、その内容は不知。

(四) 同4(四)(本件トンネルの瑕疵について)の各主張はいずれも否認ないし争う。

(五) 同4(五)(むすび)の主張は争う。

5  同5(国賠法一条一項の責任)は否認ないし争う。

6  同6(損害)の主張は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  当事者について

1  原告ら

弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、第一事件原告らはいずれも道路運送法に基づき一般自動車運送事業の免許を受けて貨物運送業を営む会社であり、第二事件原告は金属材料の販売等を業とする会社であったことが認められる。本件事故により原告ら各所有の車両がいずれも焼毀したことは後記認定のとおりである。

2  被告

被告が、日本道路公団法により設立され、その通行又は利用について料金を徴収することができる道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を行うこと等の業務を行う国賠法二条一項所定の公共団体であり、右業務として本件事故当時東名高速道路及び同道路と一体をなしている本件トンネルを設置し管理していたことは、当事者間に争いがない。

二  事故の発生について

昭和五四年七月一一日、本件トンネル内において、大型貨物自動車四台及び普通乗用自動車二台が関係する追突事故が発生し、車両火災となって右の車両六台が焼毀したほか、さらに、本件トンネル内に停車していた後続車両一六七台が焼毀したことは、当事者間に争いがない。

三  事故の状況について

1  本件トンネルの状況

(一)  設置状況

東名高速道路が、東京都世田谷区を起点(以下「東京起点」という。)とし、神奈川県及び静岡県の両県を経て愛知県小牧市において名神高速道路と接続する全長三四六・七キロメートルの高速道路であること、昭和四三年四月二五日に部分的に供用が開始され、昭和四四年五月二六日に全線の供用が開始されたこと、日本坂トンネルが昭和四四年に東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間の静岡市大字小坂字崩脇地内と焼津市大字野秋字鬼沢地内との間にかけて設置された上下線分離方式のトンネルであったこと、上り線用のトンネルの長さが二〇〇五メートルで、本件トンネルの長さが二〇四五メートルであったこと、本件トンネル東坑口から約六三三メートルの区間が上り勾配で、そこから西坑口まで約一四一二メートルの区間が二・五パーセントの下り勾配になっていたこと、本件トンネル内の道路が幅員各三・六メートルの走行車線及び追越車線と路肩から構成された幅員七・九五メートルの道路であったこと、本件トンネルの通行に関して危険物積載禁止等の通行規制がなかったことは、当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、本件トンネルの位置図、横断図及び縦断図がそれぞれ別紙図面1ないし5のとおりであったこと、静岡インターチェンジが東名高速道路の一六二キロポスト(キロポストとは東名高速道路の東京起点からの距離を示す表示である。)付近にあったこと、同インターチェンジから焼津インターチェンジまでの間が約一一・八キロメートルあったこと、東名高速道路下り線の右区間内には下り線小坂トンネル、本件トンネル及び日本坂パーキングエリアが設置されていたこと、静岡インターチェンジから下り線小坂トンネルの入口(以下「小坂トンネル東坑口」という。)までの間が約五三五〇メートルあったこと、同トンネルの長さが二六八メートルであったこと、同トンネルの出口(以下「小坂トンネル西坑口」という。)から本件トンネルの東坑口までの間が約五七メートルであったこと、本件トンネル西坑口から焼津インターチェンジまでの間が約四〇八〇メートルであったこと、その間に日本坂パーキングエリアが設置されていたこと、東名高速道路の設計速度が区間によって異なっていたこと、本件トンネルを含む静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間の区間の設計速度は時速一〇〇キロメートルであったこと、本件トンネルには別紙図面5のとおり東坑口から約六三三メートルの区間に上り勾配二・三六六パーセント、そこから西坑口までの約一四一二メートルの区間に下り勾配二・五パーセントの勾配が付されていたこと、右各勾配は道路の構造の基準を定めた道路法三〇条による行政上の規制である高速自動車国道等の構造基準(昭和三八年七月二〇日、建設省道路局長通達)一七条に規定する設計速度時速一〇〇キロメートルで三パーセント以下という縦断勾配の一般基準の範囲内であったこと、右基準は道路構造令(昭和四五年一〇月二九日、政令三二〇号)二〇条に定められている縦断勾配の基準と同様であったこと、本件トンネルの前記各勾配は、縦断線形の設計手法上の数値であり、実際のトンネル内道路面の標高差から計算した実質上の平均勾配は上り勾配約〇・六パーセントで下り勾配約一・六パーセントであったこと、本件トンネルの内部構造は、別紙図面4及び6のとおりであって、コンクリートで巻き立て、不燃材である石綿セメント板で内装し、天井板も不燃材である軽量発泡コンクリートを使用した不燃構造となっていたことが認められる。

(二)  防災設備

被告は、トンネル内における火災事故等に対応するため、以下に認定するとおりの防災設備を別紙図面6のとおり本件トンネルに設置していた。

(1) 火災感知器(火災検知器ともいう。)

火災感知器が本件トンネル内の両側壁面に一二メートル間隔で向い合わせにそれぞれ一七二個合計三四四個設置されていたこと、火災感知器は、発生した火災を自動的に感知し、その位置をコントロール室に通報するためのものであったこと、火災感知器で感知された情報は、コントロール室の操作卓に表示され、ベルが鳴って火災の発生を知らせるようになっていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、本件トンネル内に設置された火災感知器は、能美防災工業株式会社(以下「能美工業」という。)のFDA23-SN(定輻射式)輻射形感知器で、火災が発生したときに火災からの赤外域輻射エネルギーを自動的に感知するもので、電源定格交流二四ボルト、使用温度範囲摂氏零下一〇度ないし五〇度、監視範囲は受光部の正面より左右各々角度六〇度、幅六メートルかつ半径一〇メートルの範囲内であり、右監視範囲内において一メートル四方の火皿に四リットル以上のガソリンを入れて燃焼させた場合(ただし、燃焼時の風速は毎秒八メートル以下とする。)に相当する火災を三〇秒以内に発見する感度を有していたこと、しかしながら車両の下部で発火した場合のように火災が遮られた状態では感知しなかったこと、トンネル出入口部には太陽光、自然光等の影響により誤動作又は失報しないようにFDF23-SN(ちらつき式)輻射形感知器を設置していたことが認められる。

(2) 手動通報機

手動通報機が追越車線側壁面の地上一・五メートルに四八メートル間隔で消火栓と同じ場所に四二個設置されていたこと、手動通報機は、トンネル内で車両火災事故等が発生したときに、事故当事者又は発見者が通報機のフレキシガラスを押し破って押釦を押し、その発生をコントロール室に通報するためのものであることは当事者間に争いがない。

(3) 非常電話

非常電話が走行車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で一二個設置されていたこと、非常電話は、トンネル内で車両火災事故等が発生したときに、事故当事者又は発見者がその発生を管制室に連絡するための専用電話であることは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、非常電話は、「非常電話」と書かれた表示灯とともに設けられていたこと、東坑口に最も近い位置の非常電話を一番とし西坑口に向けて順次一二番までの番号が付されて特定されていたこと、各非常電話には例えば「日本坂1」というようにその設置位置を特定するための表示がされていたこと、受話器を取り上げると管制室と通話できる仕組みとなっていたことが認められる。

(4) ITV

日本坂トンネルには、トンネル内の状況を監視するため、追越車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で設置された一〇台のテレビカメラとコントロール室に設置された三台のモニターテレビによって構成されているITVが設置されていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、テレビカメラは、本件トンネル東坑口に進入する車両の状況を監視するために本件トンネル外に設置されたテレビカメラを一番とし、西坑口に向けて順次一一番までの番号が付されて特定されていたこと、コントロール室に設置された三台のモニターテレビは白黒画面で、上り線及び下り線の専用モニターテレビが各一台ずつあり、残り一台は上下線のどちらにも切り換えられるようになっていたこと、トンネル内に設置されたテレビカメラは東京芝浦電気株式会社のTL-4B型で、全シリコントランジスタを使用し、自動化されかつ低照度用として設計されたものであること、その仕様の主要なものは、〈1〉被写体照度は標準一〇ルクスないし一〇万ルクス、〈2〉自動感度調整は一〇〇〇対一以上(照度比)、〈3〉走査方式はランダムインターレース又はインターレース、〈4〉走査周波数は水平一万五七五〇サイクル又は一万五六二五サイクル、垂直五〇/六〇サイクル電源同期又は非同期、〈5〉水平解像力は低照度用のとき四〇〇本以上、高照度用のとき五〇〇本以上、〈6〉使用レンズは焦点距離五〇ミリメートルでF一・四であったこと、〈7〉モニターテレビが余熱方式ではなかったためスイッチを入れてから画像がでるまでには約四〇秒かかったこと(この点につき証人白石尚夫は約二〇秒と証言しているが、同証言は、日本坂トンネルの防災設備の保守担当者であって、実験結果に基づいて約四〇秒要した旨の証人杉山洋太郎の証言と対比して採用できない。)が認められる。なお、ITVの運用状況は後記認定のとおり、常に画像を出して監視する常時監視ではなく、事故等の通報を受けてからスイッチを入れるという方法をとっていた。

(5) 消火栓

消火栓が追越車線側壁面に四八メートル間隔で四二個設置されていたこと、消火栓は、トンネル内で発生した火災を主として事故当事者又は発見者の操作により初期消火又は制圧するための設備で、長さ三〇メートルのホースを装備したホースリール式であったことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、放水のためには消火ポンプを起動させる操作及び消火栓の開閉弁を開く操作(格納箱の内部の右上に設置されているハンドルを手前に倒す。なお、この操作方法は格納箱の観音扉の右側の扉の裏とハンドルのところにも表示されている。)が必要であったが、消火ポンプの起動操作は、格納箱の内部にあるポンプ起動・停止押釦の起動釦を押す方法だけでなく、消火栓の開閉弁を開く操作によりハンドルに連結されていたリミットスイッチの働きで消火ポンプが起動するようになっていたから、〈1〉起動釦を押してからハンドルを手前に倒す方法のみならず、〈2〉単にハンドルを手前に倒す方法によっても放水が開始されたこと、ホースの口径は内径三二ミリメートル、外径四四・五ミリメートルであったこと、ノズルからの放水はノズルの先端を左又は右に回すことにより棒状又は噴霧状で行うことができ、放水量はいずれも毎分一三〇リットル以上で、圧力は一平方センチメートル当たり三キログラム以上であったこと、有効射程は棒状で水平一四メートル以上、噴霧状の放水の展開角度は四五度以上であったこと、ホースはゴムホースでリールに巻いてあったため、放水しながら自由に火元に近づいて消火することができたことが認められる。

(6) 消火器

消火器が追越車線側壁面に四八メートル間隔で消火栓と同じ場所に二本ずつ合計八四本設置されていたこと、消火器はトンネル内で発生した火災を主として事故当事者又は発見者の操作により初期消火又は制圧する目的で設けられたものであることは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、消火器は消火栓と同一の格納箱であるがこれとは別の部分に格納されていること、消火器の種類は国家検定に合格した六キログラムABC粉末消火器であること、その機能は、〈1〉初期先端到達距離は一〇メートル、〈2〉有効放射距離四メートルないし八メートル、〈3〉薬剤撒布幅は約三メートル、〈4〉有効放射時間は約二〇秒、〈5〉耐圧は一平方センチメートル当たり三〇キログラムであったことが認められる。

(7) 給水栓

給水栓が東西両坑口にそれぞれ一個設けられていたこと、給水栓は、トンネル内で発生した火災を消火又は制圧し消防活動を強化するための設備であり、主として公設消防隊の利用に供するためのものであったことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、給水栓の本体は口径六五ミリメートルの単口地上型であり、右口径は公設消防隊が使用するホースの口径と合致するものであったこと、その給水能力は毎分四〇〇リットル以上であったことが認められる。

(8) 水噴霧装置

水噴霧装置が設置されていたこと、水噴霧装置は、水を噴霧状に放射して火勢を抑制又は消火しあるいは火熱からトンネル施設等を冷却保護し火災の延焼を防止するための設備で、火点の一定の区画三六メートルの範囲で一斉放水をする仕組みであったこと、放水範囲は二区画の放水が可能であったこと、水を放射するスプレーヘッドが両側壁面ボード部に四メートル間隔で一〇二四個設けられ、一区画一八個(追越車線側壁面及び走行車線側壁面に各九個)で構成されていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、放水範囲は火災感知器の感知位置を含む区画が機械的に選択されたこと、コントロール室において放水範囲を選択することはできなかったが、後記認定の日本坂トンネルの東西両坑口に設置されている東換気塔及び西換気塔の火災受信盤では手動操作により放水範囲を選択できたこと、その放射能力は毎分九五リットル以上、放水圧は一平方センチメートル当たり三キログラム以上であったこと、放水の開始操作はコントロール室の係員がITVによって火災発生を確認した後に行っていたことが認められる。

(9) 水槽及びポンプ

消火栓、屋外給水栓及び水噴霧装置に加圧送水するため、東坑口付近に容量一七〇立方メートルの主水槽及び加圧給水するための消火ポンプが設置されていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、容量一七〇立方メートルの主水槽の他に補充用として容量五〇立方メートルの受水槽を、平常時給水管に水を充填しておくための容量三・五立方メートルの呼水槽をそれぞれ設けていたこと、主水槽用として消火ポンプ、受水槽用として取水ポンプ、呼水槽用として呼水ポンプがそれぞれ設置されていたこと、消火ポンプは消火栓、屋外給水栓、水噴霧装置及びファン冷却設備に加圧給水するためのもので送水能力は毎分二五〇〇リットルであったこと、水槽及びポンプの配置・配管が別紙図面7のとおりであったことが認められる。

(10) 可変標示板

トンネル内で発生した車両火災事故等に際し、走行車に対し速やかに警告して事故の拡大を防止するため、本件トンネルの東坑口から東京寄り約五三五メートルの地点(小坂トンネル東坑口から東京寄り約二一〇メートルの地点)の追越車線側に本件可変標示板が設置されていたこと、本件可変標示板にはサイレンが併置されていたが、本件事故当時は吹鳴しないようにされていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、本件可変標示板は縦一・六五メートル、横二・五一メートルの標示板が二本の支柱により路面からその下端が二・〇〇メートルの位置に設置されていたこと、標示部は一文字の大きさが縦〇・四五メートル、横〇・三九メートルのものが標示板の上段に横に四個、下段に横に二個配置されていたこと、標示部には電光式の文字を表示できたこと、火災の際には上段に「進入禁止」、下段に「火災」と表示するようになっていたこと、この表示操作はコントロール室の係員がITVによって火災の確認をしてから遠方監視制御で行っていたこと、本件可変標示板の上部には縦〇・四五メートル、横一・三〇メートルの中に直径〇・三〇メートルの点滅灯が三個配置されていたこと、三個の点滅灯のうち両側の二個は赤色で中央の一個が黄色であったこと、進入禁止の表示が点灯されると同時に両側の赤色灯が点滅したこと、同標示板の上部、点滅灯の左側にサイレンが設置されていたこと、同標示板の下部にこれと連続してトンネル名及びその長さを表示するために「小坂トンネル」「長さ268m」と記載された表示板が付けられていたことが認められる。

(11) 換気設備

トンネル内の換気用として東換気塔及び西換気塔にそれぞれ六台の送風機が設置されていたこと、そのうち各三台が本件トンネル用のものであったこと、右送風機は平常時は送風用として使用され、トンネル外の空気をトンネル内の天井板の上部空間から天井板に四メートル間隔に設けた送風穴を通して車道に送りだし、車道内の空気の浄化を図っていたこと、一旦火災が発生すると、送風機を逆転させて車道内の煙を送風穴から吸い取り、天井板上部の空間を通してトンネル外に排煙するようになっていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、この送風機の送風能力は毎秒五二八立方メートル以上であり、排煙能力は送風能力の六〇パーセント以上であったことが認められる。

(12) 非常通路

トンネル内で発生した火災等に際し、トンネル内の人たちを避難させるため約五〇〇メートル間隔に三箇所上下線の連絡通路が設けられていたことは当事者間に争いがない。〈証拠〉によれば、連絡通路の位置を表示するため、「非常通路」の内照式表示板をその上部に設けていたことが認められる。

(三)  防災設備の管理・運用体制

防災設備の管理・運用体制について判断する。

(1) 管制室

管制室が神奈川県川崎市にある被告の東京第一管理局内にあることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

ア 管制室の担当職務

管制室は、東名高速道路の東京起点から三ヶ日インターチェンジまでの約二五一・七キロメートルの範囲を管轄し、担当職務は、右範囲内の非常電話、指令電話、業務電話(消防用電話)、移動無線及び一般加入電話により交通事故、火災事故及び車両故障等(以下「事故等」という。)の交通に影響を及ぼす情報を収集し、必要な処置がなされるようにその情報を警察署、消防署、管理事務所及びインターチェンジの料金所等に提供し、また、交通情報として一般利用者に提供することであった。これは車両が高速度で走行するという高速道路の特殊性のため、一旦事故等が発生すると交通に影響を及ぼす範囲が広く、広範囲でかつ統一的な対応策が要求されることから、事故等の情報を一箇所に集めてその状況を的確に把握して、関係諸機関の協力を得て効果的な対応策をとろうとする目的によるものであった。なお、右のような情報の一元化という考え方は、警察も採用するところであって、管制室に警察官を交替勤務で常駐させ(以下「管理室」という。)、被告が受信した非常電話の転送を受けたり、自ら収集した情報に基づいて必要な指示・指令等を発していた。

イ 物的設備

管制室には、右の職務を遂行するため、〈1〉東名高速道路上に平場(トンネル外の場所)は約一キロメートル毎に、トンネル内は約二〇〇メートル毎に設置された非常電話からの通報を受けるための非常電話が二台(ただし、一台に四回線を組み込んでいた。)、〈2〉管轄内の警察、管理事務所、料金所等の関係事務所との間の直通電話である指令電話が四台、〈3〉管轄内の一八の消防本部へ通報するための専用電話である業務電話(消防用電話)が一台、〈4〉道路管理用の巡回車等と通信するための四〇〇メガヘルツの無線である移動無線が四台、〈5〉一般加入電話の回線及び被告専用の回線を組み込んだ電話(以下「一般加入電話」という。)が二台、〈6〉非常電話の通話内容を通話者以外の人でも聞くことができる非常電話モニター、〈7〉通報された非常電話の位置を表示するためのグラフィックパネル及びその操作卓等が設置されていた。なお、管理室には転送された非常電話を受け取るための受付電話及び警察無線が設置されていたほか、管理室の警察官は前記指令電話及び移動無線の各二台を使用することがあった。

ウ 人的配置

管制室の室員は、室長一名、助役六名、通信管理長五名、通信員五名及び事務員二名であり、午前八時五〇分から午後五時二〇分までの日勤と午後五時五分から翌日の午前九時五分までの夜勤との二交代制で勤務し、二四時間対応していた。日勤の場合は四名ないし五名が勤務し、夜勤の場合は助役、通信管理長及び通信員の各一名が一組になって勤務していた。なお、管理室には三名の警察官が交替で勤務していた。

エ 非常電話通報の処理

通行者等が事故等の発生を非常電話で通報する場合、受話器をあげると管制室内の非常電話の呼出音がなり、一キロポスト毎にブロック表示されかつ上下線に区別されたグラフィックパネルの当該ブロックに乳白色の照明が点灯し、通話が開始されると右照明が点滅するようになっていた。また、平場とトンネル内とは回路が異なっていたため、平場の非常電話をあげた場合には二個、トンネル内の非常電話をあげた場合には一個それぞれ小さな赤い照明が乳白色の照明の中に点灯するようになっていた。そして、係員がグラフィックパネル操作卓のスイッチを押すと当該ブロックに赤い照明が点灯した。右のような仕組みになっていたため、平場の場合には通報に使用している非常電話の位置を通報者に聞かなくとも特定することができたが、トンネル内の場合には非常電話が約二〇〇メートル毎に設置されていたため、どの範囲内の非常電話を使用しているかは特定できても、どの非常電話を使用しているかは通報者に聞かないとわからなかった。

通報を受信した係員は、通報者からまず当該非常電話の番号を、次いで事故等の内容を聞き取ることになっていたが、その内容が交通事故又は火災事故等のように警察の関与が必要な場合には、概略等を聞き取ってすぐに管理室の受付電話に転送していた。転送した場合でも非常電話モニターのスイッチを押しておけば、その通話内容を管制室係員も聞くことができた。火災事故又は救急事故の場合には、係員が当該事故地点を管轄する消防署へ業務電話で通報し、消防車又は救急車の出動を要請していた。さらに、火災事故の場合には、料金所に連絡して情報板の点灯を依頼し、管理事務所に連絡し、関係する管理事務所には現場へ臨場するように要請していた。これに対して、警察の関与が必要とされない場合には、係員がその処理を担当する機関に連絡していた。

オ 火災・救急事故の通報先

東京第一管理局が管理する東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジまでの間においては、各インターチェンジの行政区域が複数にまたがる関係で、消防・救急業務について関係する各市町村間で東名高速道路の供用開始に前後して消防相互応援協定が締結された。これらの協定は、行政区域とは関係なく、上り線については一方の消防本部が、下り線については他方の消防本部が担当するという上下線方式を採用していた。静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間についても、その行政区域が静岡市と焼津市にまたがっている関係上、各々の区域の消防を担当する静岡市及び焼津市は右区間における消防相互応援に関する協定を昭和四四年一月三〇日に締結し、同日付けの右協定に基づく覚書を両市の消防長間で交換し、同年二月二日から実施したが、右協定及び覚書によると、消防の出場隊の担当区域について上り線を焼津消防、下り線を静岡消防が担当するのを原則とするが、事故の状況により相互に応援しあうものとし、担当区域外の事故を覚知し出場したときは、直ちにその状況を相互に通報するものとされていた。右協定は被告に通知されていたから、管制室の係員は、右区間の火災・救急事故について、本件事故前から下り線で発生した場合には静岡消防に通報していた。

(2) 換気塔及びポンプ室

前記三1(一)及び(二)で認定した事実、〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。

ア 物的設備

上り線日本坂トンネル東坑口に東換気塔が、本件トンネル西坑口と上り線日本坂トンネル西坑口との間に西換気塔が設置され、その位置関係は別紙図面3のとおりであった。東西両換気塔に火災受信盤が設置されていたことは当事者間に争いがなく、送風機が設置されていたことは前記認定のとおりである。火災受信盤は、トンネル内に設置された火災感知器、手動通報機塔からの信号を受け、火災が発生した地区の表示灯と火災報知灯を点灯し、ベルを鳴らして火災の警報を発報し、水噴霧装置の自動弁の解放、消火ポンプの起動等の一次信号を供給(制御表示)するものであった。日本坂トンネルの東側部分については東換気塔の、西側部分については西換気塔の火災受信盤がそれぞれ制御表示するようになっていた。本件トンネルについては、東換気塔で制御表示していたのはそれぞれ五七区画あった火災感知器及び水噴霧装置のうちの二六区画、四二箇所あった手動通報機及び消火栓のうち二〇箇所であり、残りは西換気塔で制御表示していた。

ポンプ室は、別紙図面3のとおり東換気塔に隣接した位置にあり、消火ポンプ制御盤及び消火栓ポンプ制御盤が設置されていた。右各制御盤は起動したポンプが何らかの原因で停止した場合には手動操作で再起動できるようになっていた。

イ 人的配置

東西両換気塔及びポンプ室には係員は常駐していなかった。火災事故が発生した場合にはコントロール室の係員が火点の位置により東換気塔又は西換気塔に行き、手動操作の必要性等に対処することになっていた。

(3) コントロール室

前記三1(二)で認定した事実、〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。

ア コントロール室の担当職務

コントロール室は、別紙図面2記載のとおり日本坂トンネルの東坑口から約五・六キロメートル東の静岡管理事務所にあり、遠方監視制御システムにより同事務所管内の東名高速道路清水インターチェンジと菊川インターチェンジとの間(約五四・〇五キロメートル)における情報収集及び情報提供を機械的に行うとともに、その間に設置された小坂トンネル及び日本坂トンネルのトンネル防災設備を遠隔操作によって作動させる等の業務を行っていた。

イ 物的設備

右の業務を行うために、コントロール室にはグラフィックパネル及び遠方監視制御装置の操作卓が設置されていた。グラフィックパネルの状況は次のようなものであった。グラフィックパネルの中央部に左右にかけて東名高速道路の静岡インターチェンジ手前から菊川インターチェンジの先までの路線図があり、右路線図に対応して右から順に静岡インターチェンジ、小坂トンネル、日本坂トンネル(東)、日本坂トンネル(西)、焼津インターチェンジ、吉田インターチェンジ、牧の原サービスエリア及び菊川インターチェンジという順番で各種計器及び表示灯が区分され、かつ、各種表示灯については上り線については路線図の上部に、下り線については路線図の下部に設置されていた。このため、表示灯が点灯すると、上り線と下り線の別及びそのおおよその位置が一目でわかるように工夫されていた。また、グラフィックパネルの最も右側にITVモニターが三台縦に配置されており、上から順に上り線日本坂トンネル専用、同線及び本件トンネル共用、本件トンネル専用であった。操作卓は、グラフィックパネルに対応して操作スイッチが配置されており、右からITV、静岡インターチェンジ、小坂トンネル、日本坂トンネル(東)、日本坂トンネル(西)、焼津インターチェンジ、吉田インターチェンジ、牧の原サービスエリア及び菊川インターチェンジについての操作スイッチ及び表示灯が区画されて配置されていた。なお、東西換気塔の火災受信盤は、コントロール室の遠方監視盤と連結しており、トンネル防災設備の作動操作はコントロール室から遠方監視制御装置の操作卓によって行っていた。

ウ 人的配置

コントロール室の室員は合計九名おり、午前八時五〇分から午後五時二〇分までの日勤と午後五時五分から翌日の午前九時五分までの夜勤との二交代制で、常時二名が勤務して二四時間管理を行っていた。

エ 火災発生時に係員が行う操作状況

日本坂トンネル内で火災が発生した場合、トンネル内の火災感知器が火災を感知すると、その信号は、換気塔に設置してある火災受信盤を経由し、伝送装置を経てコントロール室に送られ、グラフィックパネルの火災表示灯を点滅させるとともに警報ベルを鳴らすようになっていたが、右通報を受けたコントロール室の係員は、〈1〉ITVによる火災発生の確認、〈2〉可変標示板への表示、〈3〉ポンプ運転の起動、〈4〉水噴霧装置の放水、〈5〉送風機の逆転、〈6〉全照明の点灯という順序で操作卓の操作を行うことになっていた。その操作の状況は次のとおりであった。〈1〉火災表示灯が点滅し、警報ベルが鳴ると、コントロール室の係員は、操作卓のITVスイッチを入れ、カメラを切り替えてモニターで火災発生の確認作業をする。〈2〉火災発生を確認すると、操作卓のスイッチを操作して可変標示板に「進入禁止」「火災」を表示し、赤色燈を点滅させ、その表示及び点滅があったことをグラフィックパネルで確認する。〈3〉次に、操作卓のポンプの鎖錠を解いてポンプ運転を開始させると、ポンプ室からポンプ運転信号が返ってきてグラフィックパネル内のポンプ運転表示を点灯させるようになっていたので、その点灯を確認する。なお、ポンプ運転が開始されるとトンネル内の消火器格納箱上部に設置されている赤色灯が一斉に点滅し、放水が可能な状態になる。〈4〉それから、操作卓の水噴霧装置の鎖錠を解いて自動弁を解放させ、水噴霧装置による放水を開始させる。放水が開始されると、換気塔の火災受信盤を経てグラフィックパネル内の水噴霧表示灯を点灯させるから、その点灯を確認する。〈5〉さらに、操作卓の操作により東西両換気塔の送風機を逆転させ、逆転したことをグラフィックパネルの逆転の表示の点灯により確認する。〈6〉最後に、操作卓の操作によりトンネル内の全照明を点灯させ、点灯したことをグラフィックパネルにより確認する。なお、これらの一連の操作をするとともに管制室に火災の発生を業務電話で通報することになっていた。

2  本件事故の状況

(一)  本件追突事故の状況

前記二で認定した事実、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

昭和五四年七月一一日(以下、同日の時刻については時刻のみで表示する。)午後六時三七分三〇秒ころ、本件トンネルの西坑口から東京寄り約四二〇メートルの地点において、追越車線を走行していた大型貨物自動車である梶浦車が停止したところに大型貨物自動車である小谷車が追突し、さらに、普通乗用自動車である藤崎車、普通乗用自動車である栗原車、大型貨物自動車である中村車及び同じく大型貨物自動車である橋本車が順次前車に追突した。右各追突後の位置関係は別紙図面8の(1)のとおりであり、梶浦車を先頭に合計六台の車両が順次接着した状態で停止していた。各車両の停止状況及び損傷状況(ただし、後記認定の本件車両火災による損傷も含む。)は次のとおりであった。梶浦車は別紙図面8の(1)のとおり追越車線から走行車線にかけて進行方向に向い左に約一五度の角度で停止していた。損傷状況は、キャビン前部、前バンパー等の一部に塗装が残存していた他は全焼し、荷台左側バタ板は前部から後方約三メートルにわたり焼失欠損し、右側バタ板は燃焼痕が認められ穴があき、キャビンのガラス窓は全て欠損し、キャビン右前部角の地上高約一・〇五メートルの位置に衝突痕が認められ、キャビン右前部が後方に押され、キャビン左側面角及び左前フェンダー等に衝突痕が認められ、左前輪タイヤの後部が炭化し、左側面が亀裂し、後輪二軸の左前輪が一部炭化していたほか、他のタイヤは異常なかった。燃料タンクはキャビンのすぐ後方に二個ついていたが、二個とも蓋が飛び燃料がなくなっていた。荷台では積載のガラスコップが溶け、飴状となって未燃焼の板についていた。小谷車は、別紙図面8の(1)のとおり左前部を梶浦車の右後部に衝突したままの状態で停止し、衝突部分の深さは約〇・六メートル、幅は約〇・七メートルであった。損傷状況は、キャビン右前部・荷台右側面部にうす青色の塗装が残存し、前部ナンバープレートの緑色塗膜が残存していたほか、車体全体が全焼し、キャビン前部は大破してキャビン全体が後方に圧縮されシャーシ及びエンジン部分が露出していた。キャビン前後の長さは左側面ドア下部付近で約〇・九八メートルであった。左右前輪タイヤは正常であったが後輪は全て焼失していた。荷台下方に燃料タンクが二個ついていたが、いずれも蓋が飛んでいた。藤崎車は、別紙図面8の(1)のとおり小谷車の後部荷台下にほぼ九〇度の角度で潜り込んだ状態で停止していた。同車は原形をとどめない程に大破し全焼していた。車両後部は追突の衝撃により後方から押し上げられた状態で曲折していた。燃料タンクは押されたことにより変形し、右後方が四センチメートル×一・二センチメートル、右前方が八・五センチメートル×一・〇センチメートルの大きさに亀裂していた。タイヤは四本とも全部焼失し、アルミホイールは右側の前後輪が全部溶けていたが、左側の前後輪は一部残っていた。栗原車は別紙図面8の(1)のとおり小谷車の左後部側面に右側面を接して停止し、後部トランク部分に中村車が上からのしかかるように喰い込んでいた。喰い込みの深さは約一・二メートルであった。車両の損傷状況は、全焼していたが、正面中央部に衝突痕が認められ、ボンネットが上方に浮き上がり、後部トランクが押しつぶされ、後部座席が前方に押され、右側面フェンダー及び右側前後ドアが凹損していた。タイヤは四輪とも焼失しホイールのみ残存していた。中村車は、別紙図面8の(1)のとおり、左前部を栗原車の後部に喰い込ませ、右前部を小谷車の後部に接して停止していた。車体は全焼しており、キャビン右前部上方に凹損部分が認められ、キャビン前面の下部が大破し、前部バンパーが凹損し、ラジエターの一部が欠損し、キャビンが後方に押され、シャーシー部が露出していた。荷台部分は下方に下り、左右バタ板は外側及び下方に弯曲していた。荷台には積載物の約三ミリメートルの粒状プラスチックが焼けただれ、また、粒状のままで乗っていたが、後部は溶け固まった塊となり、この上とその周囲にコンクリート片等が堆積していた。後部バタ板の左端止金具のところには橋本車の荷台に乗っていたドラム缶と同様のドラム缶が突き刺さっており、この脇の荷台上にも同様のドラム缶が転がっていた。これらのドラム缶はいずれも原形をとどめていなかった。荷台部分は原形をとどめておらず、左後部には、橋本車が喰い込んでいた。橋本車は、別紙図面8の(1)のとおり右前部を中村車の左後部に接して停止していた。接触部分の深さは約一・四メートルで、幅は約〇・三メートルであった。車体は全焼しており、キャビン、屋根及び荷台にトンネル天井板のコンクリート及びその破片が落下しており、キャビン右前部が下方に押しつぶされていた。左右及び後部バタ板は荷台からはずれ、荷台は原形をとどめていなかった。荷台にはコンクリート片のほか、前部につぶれたドラム缶八本が認められた。

(二)  本件車両火災の状況

前記三2(一)で認定した事実、〈証拠〉を総合すれば、本件車両火災の状況は以下のとおりであったと認められる。

まず、本件追突事故の衝撃で藤崎車の燃料タンクが押しつぶされて亀裂が生じて同車後部下の路面にガソリンが流出した。右路面に流出したガソリンに追突の衝撃による火花又は藤崎車、栗原車若しくは中村車の電装関係の配線等がショートして出た火花が引火して藤崎車の下部付近、本件トンネル西坑口から約四三〇メートルの地点で火災が発生した(以下これを「火災の第一段階」という。)。この火災は、しばらくは藤崎車、小谷車及び栗原車の車体で遮られるような形で火炎も右各車両の車体下部にとどまりそれほど大きくならなかったが、同三九分三〇秒ころに栗原車の燃料タンク内のガソリンに引火して火炎が同車を包み込むような形で炎上し(以下「火災の第二段階」という。)、さらに小谷車の燃料タンク内の燃料に引火して大きく炎上した(以下これを「火災の第三段階」という。)。

このため、火災は前方の梶浦車及び後方の中村車及び橋本車に延焼し、それぞれの燃料タンクの燃料に引火したり、中村車に積載されていた可燃性物質であるポリエチレン及び橋本車に積載されていたドラム缶約五〇本に入った松脂に引火して、午後七時二分ないし四分、爆発的に炎上する状況となった(以下これを「火災の第四段階」という。)。このため、摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度の高温が発生し、火災感知器、手動通報機、水噴霧装置の自動弁及び非常電話を制御するケーブル及び照明関係の電気系統の配線が高熱で機能を失い、本件トンネル内に設置されていた右各防災設備は制御することができなくなった。

(三)  通行者等による救助・消火活動の状況

〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。後続車両の運転者である訴外澤入は、走行車線を走行していたが、衝突音が聞こえ前車の白い乗用車が突然停車したので自車を中村車の横付近に停車したところ、栗原車の後部タイヤ付近から小さな火炎(火災の第一段階)が見えたので降車して栗原車の側まで行った。すると、車内に人がいたので、乗員を救出しようとしてドアを開けようとしたが開かなかったため、自車までジャッキを取りに行き、ジャッキで栗原車の窓ガラスを割ろうとしたが、窓ガラスを破ることができないうちに火炎が少し大きくなってきた。そうしているうちに、栗原車の全体を包み込むような状態で火炎が上がったため(火災の第二段階)、訴外澤入は救出作業を諦めて自車に戻り避難するため後退した。

同じく後続車両の運転者である訴外大石及び同新居らは、消火活動を行おうとして、本件トンネル西坑口から約四九〇メートルに設置されていた消火栓からホースを引き出し、追越車線の壁面に沿ってホースを引っ張って行ったが、橋本車の後部付近までしか届かず、かつ、水がでなかったため、消火活動を諦めてそれぞれ避難した。

(四)  通行者からの通報の状況

〈証拠〉によれば、午後六時三九分に日本坂トンネルの下り九番の非常電話を使い通行者から「大型貨物自動車がトンネル内で事故火災、詳細は不明」という通報がされた、同四〇分に下り一六九番の非常電話を使い通行者から「乗用車が燃えている、大型貨物自動車と追突」という通報がされ、また、本件トンネル内の非常電話九番は西坑口から約五五九メートルの位置に設置されたものであり、下り一六九番は西坑口から焼津インターチェンジ寄り一七九メートルの位置に設置されたものであったことが認められる。したがって、本件火点からの距離は、非常電話九番が約一三〇メートル、非常電話一六九番が約六一〇メートルであった。右九番電話による通報は右の通報状況からすると後続車両の乗員によるものであったと認められるが、その通報者の車両がどの地点に停車したかは本件全証拠をもってしても認定できない。しかしながら、前記認定の本件追突事故の状況からすれば、後続車両からみると藤崎車及び栗原車の後方に大型貨物自動車である中村車及び橋本車が連続しかつ中央線をまたぐような形で停車したため、火災の第一段階の状況を見て通報するためには、少なくとも中村車付近までは近づく必要があり、そこで状況を観察して非常電話九番に行くまでには少なくとも一五〇メートルは徒歩で移動しなければならないはずであり、その間を時速九キロメートルで行ったとしても、六〇秒はかかったことになる。また、〈証拠〉によれば、下り一六九番の非常電話による通報は本件追突事故発生時に事故現場付近に停車した車両の運転者によるものであったことが認められる。そうすると、通報するまでに本件車両火災発生の確認、再出発、停車、降車、通報という過程をとったことになり、相当の時間を要したと認められる。

(五)  車両の通行台数の変化

〈証拠〉(ただし、右書証の記載のうち上欄の「5分間」の記載は「10分間」の誤記であると認められる。)によれば、午後六時から六時一〇分まで、同一〇分から同二〇分まで、同二〇分から同三〇分まで、同三〇分から同四〇分まで、同四〇分から同五〇分まで、同五〇分から午後七時までの各一〇分間に小坂トンネルと日本坂トンネルとの間に設置されたトラフィックカウンターを通過した車両の数は、四三五台、四四〇台、四九七台、四六〇台、二〇八台、一八台であったことが認められる。右の通行車両の台数の変化からすると、本件追突事故の発生時間は午後六時三〇分から四〇分の間でかつ四〇分に比較的近い時間帯であったと考えられる。

(六)  本件追突事故及び本件車両火災の発生時間

本件追突事故及び本件車両火災の発生時間については、これを直接に示す証拠はないから、関連の事実から推認するほかはないところ、前認定の火災感知器が感知に要する時間、非常電話による通報の時間及び通報位置の関係、車両の通行台数の変化のほか、後記認定のとおりの水噴霧装置の放水の時間と事故現場で消火活動をした通行者の供述との関係等からすると、本件追突事故が発生したのは午後六時三七分三〇秒前後であったこと、藤崎車が中村車に追突されて小谷車の下部に潜り込んだ後間もなくして本件車両火災が発生したこと、右火災が第二段階に達したのは同三九分三〇秒ころであったこと、第四段階に達したのは午後七時二分ないし四分であったことと推認されることは前示認定のとおりである。

(七)  本件延焼火災の状況

〈証拠〉によれば、本件追突事故関係車両の後続車両は避難しようとしてそれぞれ後退したため、後退した車両のうち先頭車両であった澤入車と本件火点との間は約九〇メートルの距離があったことが認められる。しかしながら、前認定のとおりポリエチレン及び松脂という燃焼する際に高温を発生する物質が積荷として積載され、これに引火して爆発的に炎上して摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度という高熱を発したため(火災の第四段階)、本件トンネル内が高温となり、いわゆるフラッシュオーバー現象が生じて、後退していた後続車両にも引火し、順次東京寄りの後続車両に引火して行ったものと推認するのが相当である。

〈証拠〉によれば、本件トンネル内における後続車両の停止位置は別紙図面8の(1)及び(2)のとおりであったことが認められる。そして、〈証拠〉によれば、午後七時四分ころ先頭の澤入車に引火し、引火してしばらくは時速一五〇メートル程度の速度で次々と東京寄りの車両に引火して行き、その後引火する速度は遅くなったが、同月一二日午前四時ころまでには西坑口から一四七〇メートル付近に停車していた別紙図面8の(2)に示す車両番号一六六番の車両に引火したことが認められる。

(八)  消防隊の活動状況

〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。静岡消防は、後記認定のとおりの通報を管制室から受けて消防隊及び救急隊を出動させた。そのうち用宗隊が東名高速道路の側道を迂回して、午後六時四八分に東換気塔前に到着し、隊員が徒歩で本件トンネル内に入りトンネル内約五二〇メートル地点まで進入したが、濃煙のために火点を確認することができないまま退避した。その後、東換気塔に着いた杉山係員の依頼でポンプ車二台の中継で主水槽へ水を補給する作業をした。静岡消防の消防隊が放水を開始したのは午後一一時以降に焼津消防の消防隊と合同で消火活動を開始したときであり、放水場所は西坑口側の避難通路からであった。焼津消防も、後記認定のとおりの通報を管制室から受けて消防隊及び救急隊を出動させた。そのうち本署二号車隊が東名高速道路の上り線を進行し焼津側開口部を経由して本件トンネル内に進入し、午後七時四〇分本件追突事故現場付近に到着し、同四一分本件トンネル西坑口の給水栓を使用した放水、タンク車からの放水、化学消火を行った。その結果本件車両火災の火勢をほぼ鎮圧し、午後一一時ころから澤入車を先頭とする後続車両の火災現場に対して放水作業を開始した。その後、静岡消防及び焼津消防は消火作業について協議し、共同で消火活動を開始した。このような消火活動にもかかわらず、本件トンネル内が高温となっていたため、火勢を鎮圧することが容易にできず、結局同月一八日午前一〇時に鎮火するまで燃え続けた。

(九)  本件事故の結果

本件事故の結果、七人が死亡し、追突事故関係車両六台及び原告らの車両を含む後続車両一六七台が焼毀したことは当事者間に争いがない。前認定のように焼毀した車両の位置関係は別紙図面8の(1)及び(2)のとおりであり、そのうち、原告らの車両は以下に車両番号で示すとおりであった。車両番号二番が第一事件原告南勢運輸、同六番が同今津陸運、同一四番が同松茂運輸、同二一番が同峯岸運送、同二三番が同宝海運、同二四番が同大川陸運、同三〇番が同中部運輸、同三一番が同日本運送、同三九番が同小碇運輸、同四三番が同日発運輸、同四五番が同豊田陸運の登録番号三河一一う五六三五、同四六番が同山野運輸倉庫、同四七番が同豊田陸運の登録番号三河一一う六三〇四、同四八番が同丸松運送、同六四番が同丸水運輸の登録番号神戸八八か二三二五、同六六番が同富士中央運送、同七〇番が同山陽自動車運送の登録番号大阪一一い一一三九、同八二番が同山陽自動車運送の登録番号大阪一一あ六四一三、同八六番が同曽爾運送、同九一番が同高知通運、同九六番が同和気運輸、同一〇〇番が同日急、同一〇一番が同丸水運輸の登録番号神戸一一か七〇〇九、同一〇三番が同柴田自動車、同一〇四番が同日本運送の登録番号三一一か五〇一二、同一〇六番が同ポッカライン、同一一一番が同大阪梅田運送、同一一七番が同北勢運送、同一一八番が同山一運送、同一二〇番が同浜北トランスポート、同一二八番が同浜松輸送センター、同一二九番が同愛知陸運の登録番号沼津一一く一三三三、同一三〇番が同やよい運送、同一三二番が同墨田川運送、同一三四番が同刈谷通運の登録番号三河一一う五一〇〇、同一三七番が同五十嵐運輸、同一三九番が同刈谷通運の登録番号三河か五〇八二、同一四八番が同東礪運輸、同一五六番が同幸伸運輸倉庫、同一六一番が同東洋陸運、同一六四番が同司運輸の登録番号北九州一一か五四三八、同一六五番が同愛知陸運の登録番号名古屋一一き五二九五の、同一六六番が同司運輸の登録番号北九州一一か五四五七、の各車両であった。

3  被告の対応について

(一)  管制室の対応

〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。

本件追突事故発生当時、管制室は夜勤体制で小山助役、梅田係員、天野係員の三人で担当し、本件事故発生から午後七時三〇分ころまでは小山助役が非常電話、梅田係員が業務電話、天野係員が指令電話を担当していた。管制室では非常電話を受信する度毎にその受信内容の概略を非常電話受信表に記載していたが、指令電話、業務電話及び移動無線等による交信についてはその内容を記載する取扱ではなかった。ただし、事故等が発生した場合にはそれに関する交信内容を緊急通信処理表として事後的にまとめる取扱になっていたため、各担当者が個人的なメモ書を作成する場合もあった。なお、本件においても非常電話受信表及び緊急通信処理表が書証として提出されているが、個人的なメモ書は提出されていない。

非常電話受信表の記載によれば、管制室は、昭和五四年七月一一日午後六時三九分通行者から日本坂下り九番電話を使って大型貨物がトンネル内で事故を起こし火災となっているという通報を受け、管理室に転送したこと、同四〇分通行者から下り一六九番電話を使って大型貨物自動車と追突して乗用車が燃えている旨の連絡を受けたこと、同四三分通行者から日本坂下り七番電話を使って渋滞の問い合わせを受けたこと、同四五分通行者から下り一七六番電話を使って本件トンネル内で大型自動車の事故があり通れない旨の通報があって管理室に転送したこと、同四六分通行者から日本坂下り三番を使って渋滞問い合わせがあったこと、同四九分通行者から日本坂下り七番電話を使って事故の通報を受けたこと、同五〇分事故関係者又は通行者から下り一六九番電話を使って炎上している旨の通報を受けて管理室に転送したこと、同五三分静岡二号の乗務員(森竹隊員又は永関隊員)から日本坂下り四番電話を使ってトンネル内の煙がひどくトンネル内の人を誘導してトンネル外に出している旨の連絡を受けたこと、同五五分警察官から本件トンネル内の非常電話(番号は特定できない)を使って換気を最大にして欲しい旨の連路があったこと、同五六分警察官から日本坂下り五番電話を使って乗用車二台、大型貨物自動車一台合計三台が燃えている旨の連絡を受けて静岡警察に転送したこと、同五九分静岡二号の森竹隊員又は永関隊員から日本坂下り四番電話を使って消防車が到着したこと及び西坑口から四〇〇メートル位のところに事故車があるらしい旨の連絡を受けたこと、同午後七時七分通行者から日本坂下り三番電話を使って問い合わせがあったこと、同七分通行者から日本坂下り四番電話を使って問い合わせがあったこと、同九分警察官から日本坂下り三番電話を使って電気が焼けて消えた旨の連絡があったこと、同一〇分通行者から日本坂上り五番電話を使って上りトンネルに煙が流れてきて通行できない旨の連絡があったこと、同一六分森竹隊員又は永関隊員から日本坂下り二番電話を使ってトンネルの奥が通れないようである旨及び静岡二号を置いたまま避難してきた旨の連絡があったこと、同二〇分警察官から日本坂下り一一番電話を使って三台位燃えた旨の連絡があって静岡警察に転送したこと、午後八時四分静岡二一号の乗員から小坂下り一番電話を使って下り線の車両を静岡側開口部から上り線に反転させる旨の連絡があったこと、同三八分森竹隊員又は永関隊員から小坂下り一番電話を使って停滞車両排除中である旨及び現在小坂トンネル内である旨の連絡があったこと、同五六分森竹隊員又は永関隊員から小坂下り一番電話を使ってまだ小坂トンネル内の車両を排除中であることの連絡を受けたこと、午後九時二〇分静岡二一号の乗員から小坂下り二番電話を使って日本坂二番電話付近までの車両の排除を完了した旨の連絡があったことが認められる。

ところで、緊急通信処理表の記載によると、午後六時三九分管制室から業務電話を使って静岡消防に消防車の出動を依頼したこと、同五〇分に業務電話を使って静岡消防に消防車の出動状況を問い合わせたところ消防車一台が本線、二台が側道を通って現場に向かっているとの回答を得たこと、同五一分静岡料金所から指令電話を使って消防車一台が東名高速道路の本線に流入した旨の連絡を受けたこと、同五六分管制室から業務電話を使って焼津消防に出動を依頼したこと、午後七時一五分焼津料金所から指令電話を使って消防車が東名高速道路の本線に流入した旨の連絡を受けたこと、同二七分静岡三号の乗員から移動無線を使って焼津インターチェンジに到着したことの連絡を受けたこと、同二七分焼津料金所から指令電話を使って消防車及び救急車が東名高速道路の本線に流入した旨の連絡を受けたこと、同二七分静岡三号の乗員から移動無線を使って消防車及び救急車の先導を開始する旨の連絡を受けたことになっている。しかしながら、これに対応する静岡消防の交信記録、焼津消防の活動記録及び静岡三号の道路巡回等記録簿によれば、午後六時四二分管制室から静岡消防に火災発生の通報があったこと、同四五分静岡消防から管制室に火点の位置を問い合わせたところ、八番電話から入っているから静岡側であること、スプリンクラーが作動中であること及びテレビカメラでは火が立っていないことの回答を得たこと、午後七時管制室から移動無線を使って静岡三号に車両火災のため焼津インターチェンジに待機するように指示があったこと、同八分救急隊から静岡消防にトンネルの中央部から先へは消防車も進入できない旨の連絡があったこと、同一二分静岡消防から管制室に火災現場が焼津側のようだから焼津消防へも出動を要請して欲しい旨の依頼があったこと、同一八分に管制室から焼津消防に出動の依頼があったこと、同一八分静岡三号から管制室に上り線の焼津インターチェンジに到着したことの連絡をしたところ管制室から焼津消防の消防車を先導するように指示されたこと、同二三分に静岡消防から管制室に火点の問い合わせをしたところ焼津側であり焼津消防が五分前に出動していることの回答があったこと、同二七分静岡三号の乗員が焼津消防の消防車及び救急車が焼津インターチェンジに到着したことを確認したことが認められる。

右のとおり、緊急通信処理表の記載とそれに対応する静岡消防、焼津消防及び静岡三号の各記録とでは、第一に本件火災発生の初期の段階で静岡消防に対して火点の位置をどことして連絡したか、第二に焼津消防へ出動を要請した時間が大きく異なることになる。

この点について、まず火点の位置についての静岡消防の記録の記載については、次の理由で採用できない。すなわち、本件事故以前管制室と静岡消防との間の消防車又は救急車の出動要請は非常電話の番号で事故発生地点を特定して行われていたこと、静岡消防の通信統制室には非常電話の位置を記載した地図が貼ってあったことが認められるから、仮に日本坂下り八番で静岡側という通報であったとしても通報を受けた時点で当然疑問に思い通報者に確認したであろうと考えられるからである。

次に、焼津消防へ通報した時間については、焼津消防の活動記録と出動した焼津消防の最初の消防車を先導した静岡三号の記録の記載とがほぼ一致しており、それに関する緊急通信処理表の記載を採用することはできない。午後七時一二分静岡消防から管制室に火災現場が焼津側のようだから焼津消防へも出動を要請して欲しい旨を依頼したとする静岡消防の記録及び前記認定の同一六分森竹隊員又は永関隊員から日本坂下り二番電話を使ってトンネルの奥が通れないようである旨及び静岡二号を置いたまま避難してきた旨の連絡があったことの非常電話受信表の記載からすると、管制室から焼津消防への出動依頼は午後七時一八分ころに行われたと認めるのが相当である。

(二)  コントロール室の対応

前記三1及び2で認定の事実、〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。本件追突事故発生当時コントロール室は白石係員と井上係員とが前記所掌事務を担当していた。同日午後六時三九分三〇秒ないし同四〇分、本件トンネル内に設置されていた火災感知器が火災を感知し、コントロール室の監視盤のベルが鳴って、本件トンネル西区間のうち西坑口側(西坑口から約五〇〇メートルの範囲)に設置された火災感知器が火災を感知したことを示す火災表示ランプが点滅を始めた。これにより、白石係員は、前記火災発生の際の処理要領に従い、まずITVのスイッチを入れて、画像がでる約四〇秒の間にITVカメラを七番(本件トンネルの中央部に設置され、西坑口から約一〇〇〇メートルないし八〇〇メートルの範囲を監視するためのもの)に切り換え、出た画像を確認したが、火災を発見することができなかったので、八番カメラ(西坑口から約八〇〇メートルないし六〇〇メートルの範囲を監視するために西坑口から約八〇〇メートルの地点に設置されたもの)に切り換えて確認したが火災を発見できなかった。そこで西坑口から五九六メートルの地点に設置してあった九番カメラ(西坑口から約六〇〇メートルないし四〇〇メートルの範囲を監視するためのもの)に切り換えたところ、画面の右上の方に追越車線の方の車両から天井に届くような大きな火炎が上がっているのが映った。そこで、白石係員は、井上係員に対し可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を出すように指示し、火災発生を指令電話で管制室に通報した。井上係員は、操作卓の日本坂トンネル東区間の受電発電(八ブロック)の押釦のうち「進入禁止」の釦及び「火災」の釦を押して本件可変標示板に「進入禁止」「火災」を表示させ、表示が出たことをグラフィックパネルによって確認した。白石係員は、続いて西区間の受電(五ブロック)の押釦により同様に上り線用の入口部可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を出し、東区間の換気防災(九ブロック)に移動し、ポンプ鎖錠釦を押して操作スイッチにより鎖錠を解いてポンプ運転の指示を出しポンプを起動させた。次に井上係員に指示して、西区間の換気防災(六ブロック)の水噴霧鎖錠釦を押させて操作スイッチにより鎖錠を解き、グラフィックパネル上に水噴霧装置の放水が開始された表示が出たことを確認した。その際、ITVモニターで見ると放水によって煙の状況が変わった。次に白石係員は右九ブロックの操作により東の水噴霧装置の鎖錠を解く操作をした。次に、井上係員に西区間の換気を逆転させるように指示し、同係員は右六ブロックの逆転鎖錠の釦を押し操作スイッチで鎖錠を解いた。白石係員は同様に右九ブロックで同様な操作をして東区間の換気を逆転させた。次に井上係員と分担してトンネル内の照明を全部点灯させた。以上の操作は同日午後六時四三分ころ終了した。本件車両火災現場を映していたのは三台のうち中央の共用のモニターであったが、右の操作終了後右モニターの画面は煙のため霧がかかったように白くなっていて火炎自体は見えなくなっていた。同四五分ないし四六分、白石係員が一番下の本件トンネル専用モニターを使いカメラを切り換えて一番カメラから順に本件トンネル内の様子を見たところ、停車車両は大体二列に停止し、車のドアを開けている人や何人かが東坑口に向って歩いている姿が映し出された。その後、他のコントロール室係員や静岡管理事務所の職員等を招集する連絡を行った。午後七時二分ないし四分、まず本件トンネルの照明が軽故障であることを示すブザーが鳴り始め、故障箇所の表示灯が点滅した。その後右ブザー、重故障を示すベルが鳴り始め、複数の表示灯が点滅しだした。また、ITVモニターの画像も消えてしまった。そこで、点滅停止、表示復帰釦を押してみたが直らず、完全な故障状態であり、コントロール室では対処できないことがわかった。

ところで、前記三1(三)で認定のとおり火災事故が発生した場合は、コントロール室の係員が火災発生地点により東換気塔又は西換気塔に行く業務の扱いとなっていた。本件事故当日残業していた杉山係員と依田係員は、午後六時五〇分ころ、西換気塔へ向けて被告の維持作業車の静岡三六号で出発し、一般道を経由して午後七時一五分ころ西換気塔に着いた。その際同換気塔から黒煙が出ていた。西換気塔内の火災受信盤をみると火災表示灯が消えており、水噴霧装置の作動箇所を示す表示灯が四箇所(四二、四四ないし四六)点灯し、ポンプ運転灯の赤いランプも消えていた。そこで、杉山係員は、手動操作に切り換えて操作してみたが変化がなく、徒歩で本件トンネル内に六〇メートルないし七〇メートル入ってみると、照明が消えていて、煙が大量に出ていた。同係員は、再び西換気塔にもどり、コントロール室の指示で依田係員を残して、午後七時三〇分ないし三五分に東換気塔に向かって出発し、同四〇分ないし四五分に東換気塔に着き、ポンプ室に入ってみるとポンプが止まっていたが、水位が中間であることを示す表示がついていたので、遠隔操作から現場操作に切り換えて、同四五分ころポンプを再起動させ、その旨をコントロール室と西換気塔に連絡した。起動後水槽の蓋をとって中の様子を見ると半分位水があることがわかった。また、静岡消防の消防隊に水の補給を依頼したところ、同消防隊は約三〇〇メートル離れた小坂川から中継して補給作業をした。しかしながら、午後八時五分ころ、水がなくなったため、ポンプが停止した。その後ある程度水が補給されるとポンプ運転を開始させ、なくなると停止させるという作業を二、三回繰り返した。

(三)  東坑口付近での対応

前記認定の事実、〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。静岡管理事務所内に待機していた交通管理隊の森竹隊員は、午後六時四〇分、管制室から火災発生の一斉通報を受け同四二分、静岡二号で、永関隊員とともに火災現場に向かって出動した。静岡インターチェンジから下り線の本線を進行すると、本件トンネル東坑口から約二キロメートル手前あたりから渋滞しはじめた。小坂トンネル手前の本件可変標示板には「進入禁止」「火災」の表示が出ていた。森竹隊員らは、本件トンネル東坑口にいた警察のパトロールカーに先導してもらい、停車車両に左右に回避してもらって、本件トンネル内に進入して約五三〇メートル前進したが、車両の混雑のため、それ以上の進行が不可能となったので停車した。その時天井板に白い煙が流れていたので、避難させた方がよいと判断し、同五三分に本件トンネル内の非常電話四番で管制室に連絡してから、トンネル外に避難するように車のマイクで放送した。四分間ないし五分間右の避難誘導活動をし、同五九分ころ管制室に消防車が到着したことと煙が多いのでガスマスクが必要である旨の連絡をした。そうしているうちに煙がひどくなってきたため、退避しようとして静岡二号にもどり方向転換をしたが、煙が非常に濃くなって視界がきかず運転ができなくなったので、車両からおりて徒歩でトンネル外に避難した。午後七時一六分、避難する途中本件トンネル内の非常電話二番で管制室にその旨を連絡した。右方向転換を開始したころ照明の基本灯が消えた。東坑口の入口部の常灯は点灯していた。森竹隊員は、東坑口に戻ると、警察及び消防と今後の対応を協議し、危険物の積載車両の調査をし、永関隊員に対して静岡側開口部に行き同部を開けて車両を上り線に迂回させるように指示した。森竹隊員は、約一時間右調査等を東坑口付近で行い、その後右開口部に行って、永関隊員、警察官及び被告の職員等と協力して車両のUターン作業をし、同月一二日の午前零時前後までに右開口部から本件トンネル内にかけて停滞していた車両のうち約二〇〇台を上り線を経由して避難させて右作業を終了した。

四  国賠法二条の責任について

1  設置又は管理の瑕疵

国賠法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠如していることをいうが、右の安全性の欠如とは、当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的欠陥ないし不備によって他人の生命、身体又は財産に対し危害を生じせしめる危険性がある場合のみならず、その営造物の設置・管理者の不適切な管理行為によって右の危害を生じせしめる危険性がある場合も含むものと解すべきである。

そして、当該営造物が有料高速道路上のトンネルであり、そのトンネル内において車両の衝突事故等に起因して生じた火災が後続の車両に延焼した場合に、後続車両の損害との関係において右トンネルが安全性を欠如していたかどうかの判断は、トンネルの構造(長さ、幅員、内部構造等)、右事故当時における当該トンネルの交通量、交通形態(一方交通又は対面交通のいずれか)、通行する車両の種類、その積載物の種類ごとに易燃物等危険物の輸送の状況、過去の事故の態様・原因、長大トンネル一般における事故の発生の態様・原因等に照らし、右トンネル内において発生することの予見される危険に対処するための物的設備・人的配備及びこれらの運営体制、消防署及び警察署等の他の機関に対する通知及びこれらの機関との協力体制並びに高速道路の利用者に対する当該危険が発生したことの通知・警告についての物的設備・人的配備等(以下、これらをまとめて「トンネルの安全体制」という。)が、右危険を回避するために合理的かつ妥当なものであったかどうかに基づいてするのが相当であると解すべきである。そして、右合理性及び妥当性を判断するに当たっては、当該トンネルが設置された当時におけるトンネルの安全体制についての技術水準及び技術的実施可能性のみに基づいて判断すべきものではなく、設置後当該事故時までにおけるトンネルの安全体制についての技術水準及び技術的実施可能性をも考慮して判断することを要するものと解すべきであり、これらを考慮して判断すべき場合においては、高速道路上のトンネル内において車両の衝突事故等によって生じた火災による危険は、自然災害によるものではなく、現代社会の技術によって生じた技術的危険というべきものであることに鑑みると、トンネルの安全体制を構成する物的設備に関する技術の進歩向上によりこれを改修ないしは更新することによって当該危険の回避がより一層確実に可能となることが明らかであるときには、右改修ないしは更新をすることが必要であるというべきであって、そのために当該トンネルの設置者において負担することが必要となる費用あるいはその予算上の制約のあること等によって左右されるものではないというべきである(最高裁判所昭和四五年八月二〇日第一小法廷判決・民集二四巻九号一二六八頁参照、なお、最高裁判所昭和五九年一月二六日第一小法廷判決・民集三八巻二号五三頁は本件と事案を異にして適切でない。)。

以下、この観点に立って、本件トンネルの瑕疵の有無について判断することとするが、まず、本件トンネルの設置状況、交通量、事故数及び過去に発生したトンネル火災事故等を検討して、本件トンネルにおいてどのような危険を予見することができたか、本件事故は右予見可能な危険の現実化といえたかを検討し、次に本件事故が予見可能な事故といえるとすると右予見可能な危険に対応するためどのようなトンネルの安全体制を設置・運用すべきであったか、現実に設置・運用されていたときには本件延焼火災を防止することができたかどうかを判断することとする。

2  予見可能性

〈証拠〉によれば、以下の事実(但し、当事者間に争いのない後記(一)及び(二)の各(1)の事実、(七)(3)の事実を除く。)を認めることができる。

(一)  交通量

(1) 東名高速道路の道路総幅員は六車線三二・六メートルのところと四車線二五・五メートルのところとがあり、神奈川県厚木市と愛知県小牧市との間三一一・七キロメートルは四車線であったこと、四車線区間での交通容量は一日当たり四万八〇〇〇台とされていたこと、年間交通台数は、全線供用開始の昭和四四年で四一四八万七五二三台であったところ、本件事故が発生した昭和五四年では九四三〇万三〇一三台であり、二・二七倍強の通行量の増加を示していたこと、日本坂トンネルのある静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間の一日当たりの平均交通量は昭和四五年の三万一四一一台に対し昭和五四年には四万九一九五台と一・五六倍を超える増加を示していたことは当事者間に争いがない。

(2) 東名高速道路が全線供用開始の昭和四四年から本件事故のあった昭和五四年までの年度別の通行台数は別表(一)のとおりであり、同表によると昭和四四年から昭和五四年までの間、昭和五〇年及び昭和五四年を除いていずれの年も前年より通行量が増加し、昭和五三年には九七二三万七五〇九台に達し、前記のとおり昭和四四年と五四年とを比較すると二・二七倍強の通行量の増加を示していた。なお、昭和五〇年の減少はいわゆるオイル・ショックの影響によるものであり、昭和五四年の減少は本件事故による通行止めの影響によるものと考えられる。被告の東京第一管理局が所管する東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジまでの区間における一日当たりの平均交通量を昭和四五年から昭和五四年までについてみると別表(二)のとおりであり、同表によると日本坂トンネルの所在する静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間においては、東名高速道路の全体の交通量と同様昭和四五年から昭和五四年までの間、昭和五〇年及び昭和五四年を除いていずれの年も前年より通行量が増加し、昭和五三年には五万五八一七台に達し、前記のとおり昭和四四年と五四年とを比較すると一・五六倍を超える通行量の増加を示していた。なお、前記設計交通容量四万八〇〇〇台という数字は通年で渋滞なく定常走行が可能となる台数であって、四車線で設計速度時速一〇〇キロメートルの場合には、可能交通容量が一時間当たり三一〇〇台、一日当たり六万三〇〇〇台であるから、設計交通容量を超えていたからとしても直ちに高速道路としての機能を失ったり、安全性に支障がでるわけではなかった。

(二)  車種別交通量

(1) 車種別の交通量が、昭和四七年には全線平均で普通車が七七・二パーセント、大型車が二〇・二パーセント、特大車が二・六パーセントの割合であったこと、昭和五四年には普通車が七〇・五パーセント、大型車が二六・二パーセント、特大車が三・三パーセントであったことは当事者間に争いがない。

(2) 東名高速道路全線における車種別平均交通量を昭和四七年度から昭和五四年度までにみると、別表(三)のとおりであって、同表によると同期間においては普通車の比率が毎年低下し、大型車及び特大車の比率が少しずつではあるが、上昇していた。被告が昭和五四年一一月一三日及び一四日に行った調査によると、東名高速道路の大井松田インターチェンジから焼津インターチェンジ間に通行する車両のうち、石油類等の危険物を積載している車両は、全車両の二・四パーセントであった。

(三)  事故件数

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故件数を昭和四五年から昭和五四年までについてみると、別表(四)のとおりであって、昭和四五年に二五七九件発生し、その後漸増して昭和四八年に三四四七件に達したのをピークとして、その後は二四七三件ないし二七〇六件の間を推移し、昭和五四年には二三五四件であった。静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間についても同様の傾向であり、昭和四五年に一二一件発生し、その後漸増して昭和四八年に二一一件に達したのをピークとして、その後は一五〇件ないし一六四件の間を推移し、昭和五四年には一二一件であった。

(四)  事故率

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故率(車両一台が一億キロメートル走行した場合に換算して計算した事故の発生件数、以下同じ。)を昭和四五年から昭和五四年までについてみると、別表(五)のとおりであって、昭和四五年に九七・七件と最高の発生率を示したが、その後は昭和四六年に九四・一件、昭和四七年に九一・三件、昭和四八年に七八・八件、昭和四九年に六三・二件、昭和五〇年に六〇・八件、昭和五一年に六二・五件、昭和五二年に五九・八件、昭和五三年に五四・八件、昭和五四年に四七・八件と昭和五一年を除いては一貫して低下し、昭和四五年と昭和五四年とを比較すると発生率は半減した。しかしながら、静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間については全体の傾向とは異なり、昭和四五年に八九・四件、昭和四六年に八三・三件、昭和四七年に八二・七件、昭和四八年に九二・八件、昭和四九年に六八・七件、昭和五〇年に七〇・三件、昭和五一年に七四・七件、昭和五二年に六九・一件、昭和五三年に六四・九件、昭和五四年に五七・一件であり、昭和四八年に最高値を示してからは昭和五三年まで六四・九件ないし七四・七件の間を推移し、昭和五四年に初めて五七・一件と六〇件を切る発生率となったが、昭和四八年以降は毎年全体の発生率を上回り、昭和五〇年以降については約一〇件の開きがあった。

(五)  車両火災事故

前述の事故件数のうち、車両火災の件数及び原因は、別表(六)及び(七)のとおりであり、昭和四五年から昭和五四年の間の合計は三三〇件、年平均三三件であり、昭和四五年には五五件であったものがほぼ減少傾向をたどり昭和五〇年には一三件まで減少したが、その後再び増加傾向となり昭和五四年には二九件であった。静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間では合計一八件発生したが特徴的な傾向はみられず、発生しない年もあり、最高でも昭和四八年の五件であった。また、前記三三〇件のうち追突事故等の車両相互の事故を原因とするものは合計八件であり、九割以上の三〇二件が車両の整備不良によるエンジン・マフラーの過熱等によるものであった。

(六)  トンネル内の事故件数・事故率

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間には合計九のトンネルがあったが、そのうち二〇〇〇メートルを超えるのは日本坂トンネルの上下線のみであり、一〇〇〇メートルを超えるのは都夫良野トンネル上下線であった。右九のトンネル内で昭和四七年から昭和五四年までに発生した事故件数は別表(八)のとおり合計九三八件であり、年別では八八件ないし一四三件の間を推移していた。日本坂トンネルについては合計二九三件、年別では二七件ないし四七件の間を推移していたが、右二九三件のうち上り線トンネル内で発生したものが一一四件であるのに対し、本件トンネル内で発生したものが一七九件と多かったのが特徴的であった。本件トンネル内で発生した事故のうち、車両相互の事故は昭和五一年に二五件、昭和五二年に一五件、昭和五三年に二四件、昭和五四年に一三件であった。また、右九のトンネル内の事故率は別表(九)のとおりであり、本件トンネルについては昭和四七年に四七件、昭和四八年には一五七件、昭和四九年に一六七件、昭和五〇年に七七件、昭和五一年に一七六件、昭和五二年に九四件、昭和五三年に一二二件、昭和五四年に八二件と昭和四七年を除いてはいずれの年も前記認定の東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故率及び静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間における事故率を上回っており、昭和五一年のように二倍を超えることもあった。

(七)  トンネル内車両火災

(1) トンネル内車両火災の概要

被告が管理するトンネル内で発生した車両火災のうち、昭和三八年九月から本件事故までに発生したものの火災の概要は別表(一〇)の番号1から番号24までである。同表によれば、車両相互間の事故が出火原因となったものは、後記の関門トンネル事故(同表中では番号5)、昭和四六年八月一一日に発生した東名高速道路下り線興津トンネルの事故(同表中では番号12番)及び昭和五二年一二月八日に発生した名神高速道路下り線の梶原トンネルの事故(同表中では19)の三件であった。なお、高速道路トンネル内の火災の発生率は、統計上〇・四ないし〇・五件であって、事故率と比較するときわめて低い発生率であった。

(2) トンネル内延焼火災の具体例

日本坂トンネルの設置までに、次のようなトンネル内における延焼火災事故がわが国の内外で発生していた。

ア ホランドトンネル事故

昭和二四年五月一三日、アメリカ合衆国のニューヨークとニュージャージー間のハドソン川の河底トンネルであるホランドトンネル南トンネル(延長二七八三メートル、二車線の一方通行トンネル)で火災事故が発生した。この火災は、ニュージャージー坑口から八八〇メートル入った地点で、二硫化炭素を詰めたドラム缶八〇本を満載した大型トレーラートラックのドラム缶が爆発したことにより発生した。ドラム缶の爆発を知った運転手は直ちに高速車線側に寄せて停止したが、ドラム缶から吹き出す火炎のため後続のトラックは事故車の横を通過できず、四台のトラックが火点に集中し、計五台のトラックが炎上した。さらに、約一〇〇メートル後方に停止した五台の車両にも火が移り、計一〇台の車両が燃えた。この火災により死者は出なかったが、負傷者は六六名で大半はガス中毒であった。このホランドトンネル事故は、危険物輸送車が起こした事故であり、トンネルの防火対策に大きな影響を与えた有名な火災であった。

イ 鈴鹿トンネル事故

昭和四二年三月六日、国道一号線の滋賀県と三重県境に設けられた長さ二四五メートルの鈴鹿トンネルの三重県側坑口から三一メートル進入した地点で車両火災が発生し、右火災は対向車線に停車していた車両に引火してその後続車両に次々に燃え移り、出火原因車を含め合計一三台の貨物自動車が焼毀した。この火災の出火原因は車両間の事故からではなくエンジン部からの出火であり、出火原因車の積荷は合成樹脂のアイスクリーム容器であった。出火原因車の運転手が他の車両の運転手から消火器を借りて消火しようとしたが、消火器の使用方法がわからず役立たなかった。出火から火勢が弱まるまで一七時間余りを要した。

ウ 関門トンネル事故

昭和四二年八月一一日、長さ三四六一メートルの関門国道トンネルの上り線門司側坑口から一五〇〇メートルの地点で衝突事故が発生し、燃料タンクが破損してガソリンが流出して発火する事故が発生した。直ちに運転手と現場にいた交通管理員が消火器によって消火作業を行った結果、右火災は六分後に鎮火し、事故関係車両の普通貨物自動車一台の半焼にとどまり、他車への延焼は免れた。

(3) 危険物積載車両の通行について

わが国において、危険物等を積載する車両の通行を規制しているのは、水底トンネル及び水底トンネルに類するトンネル(水際にあるトンネルで当該トンネルの路面の高さが水面の高さ以下のもの又は長さ五〇〇〇メートル以上のトンネル)だけであって(道路法四六条三項、道路法施行規則四条の六)、日本坂トンネルについてはなんら規制はなかったこと、危険物の積載車両については、車両構造、積載方法、運搬方法、消火器の備付け等の規制(道路運送車両の保安基準、昭和二六年七月二八日運輸省令)がされていたことは当事者間に争いがない。

(八)  まとめ

以上認定した交通量、事故件数ごとに東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間における事故率が高いこと、車両火災事故も少なからずあったこと、高速道路内の火災の発生率は事故率と比較すればかなり低いものであったが、過去にトンネルで火災が発生して後続車両に現実に延焼し又は延焼する危険が発生したことがあること、本件トンネルについては危険物積載車両の通行が制限されていなかったこと、後記認定のとおりトンネルの設置基準の重要な目的は火災発生の防止及び発生した火災の延焼阻止であったこと等からすると、被告は、本件トンネル内で事故が発生して車両火災となることのありうること、一たび車両火災が発生したときにはこれを初期の段階で消火し、また、後続車両等に対し迅速かつ的確な情報を提供する等の対応策を講じないと、トンネル内の他の後続車両に延焼し、その乗員等の生命、身体又は財産を急激にかつ決定的に侵害する危険性のあることを予見していたか又は容易に予見することができたものと認められる。そして、前認定の本件事故の状況からすると、本件事故は、右予見していたか又は容易に予見することができた危険が現実化したものであるということができ、異常な結果であって予見不可能であった旨の被告の主張は到底採用することができない。

3  設置基準

トンネルについては、以下に認定するようにその特殊性から通常の道路と比較すると事故の発生防止及び発生した事故の拡大防止について法令及び行政上特段の配慮がされていたのであり、被告もそれに対応して独自の基準を設置していた。

(一)  法令・行政上の規制

〈証拠〉によれば、トンネルにおける非常用施設の設置基準に関する法令及び行政上の規制として以下に示すような事実が認められる。

(1) 昭和四二年四月一四日局長通達

トンネルにおける非常用施設について行政上の取扱い基準として最初に通達されたものは、昭和四二年四月一四日局長通達であった。この通達は、トンネルを交通量及び延長によってAからDまでの等級に分類し、その等級に応じて備えるべき非常用施設を定めていた。日本坂トンネルはA級トンネルに該当したが、A級トンネルについては、非常用警報装置、通報装置、消火器及び消火栓を設けることとし、また、換気施設を設けるトンネルにあっては、これに火災時の排煙機能を付加するものと定められたが、各設備の仕様等については、定められていなかった。

(2) 昭和四二年四月一八日局長通達

昭和四二年四月一七日総理府に置かれた交通対策本部は、「トンネル等における自動車の火災事故防止に関する具体的対策について」を決定したが、そのうちトンネルにおける消火・警報設備等の設備充実の項は、昭和四二年四月一四日局長通達と同様の内容のほかに、トンネルの付近に道路維持用の水槽等の水利を設置する場合においては、これらの水利を消火用水利として活用できるよう配慮するものとするとの項が付加された。右交通対策本部の決定を受けて、建設省道路局長は、同月一八日に昭和四二年四月一八日局長通達を発したが、その内容は、〈1〉トンネルに設ける消火・警報設備等は、道路の構造の一部であるから、道路管理者において、その整備充実を図ること、〈2〉トンネル内に設ける消火・警報設備等の設備基準は、昭和四二年四月一四日局長通達によること、〈3〉消火・警報設備等の種類、規格、具体的な設置要領等については、別途指示する予定である、というものであった。

(3) 昭和四二年八月四日課長通達

昭和四二年八月四日建設省道路局企画課長は、被告の担当部長に宛てて昭和四二年八月四日課長通達を発したが、この通達は、昭和四二年四月一四日局長通達の設置基準に定める非常用施設に関する標準仕様を定めたものであって、その内容の大要は、別紙比較表の昭和四二年八月四日課長通達欄記載のとおりであった。なお、右課長通達による非常警報装置の標準仕様のうち、別紙比較表に*を付けたものは、昭和四三年一二月七日課長通達によって改訂された。

(4) 昭和四三年一二月七日課長通達

昭和四三年一二月七日建設省道路局企画課長は、被告の担当部長に宛てて昭和四三年一二月七日課長通達を発したが、この通達は、昭和四二年八月四日課長通達の標準仕様のうち非常警報装置についての標準仕様を改訂したものであって、その内容の大要は、別紙比較表の昭和四三年一二月七日課長通達欄記載のとおりであった。主な改訂は、昭和四二年八月四日課長通達では非常警報装置のうち音による警報として警鐘(電鐘式)が定められていたのをサイレンとしたほか、警報装置の規格をより詳細にしたことであった。

(5) 道路構造令の制定

昭和四五年一〇月二九日制定された道路構造令(政令第三二〇号)によって、初めて法令上トンネルの防災設備について規定が設けられた。同令三四条三項は、「トンネルにおける車両の火災その他の事故により交通に危険を及ぼすおそれがある場合においては、必要に応じ、通報施設、警報施設、消火施設その他の非常用施設を設けるものとする。」と規定していたが、その具体的な設置基準等についてはなんら規定するところがなかった。

(6) 昭和四九年一一月二九日局長通達

昭和四九年一一月二九日建設省都市局長・道路局長は、被告の総裁に宛てて昭和四九年一一月二九日局長通達を発した。右通達は、昭和四二年四月一四日局長通達を廃止し、道路トンネルの建設並びに維持管理をするのに必要な技術基準を新たに定めた。この技術基準のうち非常用施設については、その種類として通報装置、非常警報装置、消火設備及びその他の設備(排煙設備、避難設備、誘導設備、非常用電源設備等)とし、トンネルの等級をその延長及び交通量に応じて四段階(A、B、C、D)に区分し、その等級に応じて非常用施設を設けるものとした。日本坂トンネルが該当するA等級のトンネルには、通報装置、非常警報装置及び消火設備(消火器及び消火栓)を設けることとしていた。各装置・設備についての大要は、別紙比較表の昭和四九年一一月二九日局長通達欄記載のとおりであった。

(二)  被告の基準

(1) 暫定基準

日本坂トンネルの建設においては、土木工事が昭和四一年三月着工され、昭和四三年四月に竣工したが、防災設備工事は昭和四三年五月から昭和四四年一月に行われた。本件事故当時の本件トンネルの防災設備の内容は前記三1(二)及び(三)認定のとおりである。右防災設備は、被告が、昭和四二年四月一四日局長通達及び昭和四二年八月四日課長通達を参酌し、同年八月、「道路トンネル内の自動車火災事故等非常時における交通の安全をはかるため、トンネルに設置する消火、警報設備等の防災設備の計画、設計を行なうに必要な一般的、技術的基準を定めることを目的」として設定した被告の暫定基準に従って定められたものであった。その内容の概略は、以下のとおりであった。

ア 警報設備

警報設備はトンネルの両側坑門附近において視覚及び聴覚により後続車に非常警報等を発する機能を有し、通報設備と連動して作動することを原則とするとされていた。警報設備としては次のものが考えられる。

(ア) 電光標示板

トンネル内の状況(火災発生、事故発生、作業中等)及びこれに対する適切な指示(進入禁止、徐行等)を電光表示によって通行車両に与える装置で、信号灯、サイレン、ブザー等との組合せが考えられるとされていた。その設置場所は、高速道路等にあってはトンネルの手前一五〇メートルの地点とする。

(イ) 内部照明式標示板

トンネル内の状況(火災発生、事故発生、作業中等)及びこれに対する適切な指示(進入禁止、徐行等)を内部照明式の標示板によって通行車両に与える装置で、信号灯、サイレン、ブザー等との組合せが考えられる。

イ 通報設備

通報設備は火災その他非常の際に、その原因者あるいは発見者が、又は自動的に、トンネル管理所(道路管理所)、消防署、警察署等必要な個所に連絡する機能を有するもので、警報設備と連動させることが望ましいとされていた。通報設備として次のものが考えられる。

(ア) 手動通報設備

手動通報設備は手動通報機(押しボタン式通報機、電話等)及び受信機(盤)で構成され、火災その他非常の際に、原因者あるいは発見者が手動通報機を操作し、トンネル内での非常事態発生、並びに必要があれば、その位置を受信機(盤)によって報知し、警報指令を行う装置とされていた。また、手動通報機の取付個所には標示灯又は表示板を設けることを原則とする。

(イ) 自動通報設備

自動通報設備は火災感知器と受信機(盤)で構成され、火災を自動的に感知し、火災の発生並びにその位置を受信機(盤)によって報知し、警報指令を行う装置で、必要があれば、換気ファンの切換え、水噴霧設備の起動等の制御を行うことが出来る機能を有するものが望ましいとされていた。また、火災感知器は誤動作の恐れのない、適正な感度のものを合理的に取り付けるものとする。

(ウ) 受信機(盤)

受信機(盤)の設置場所はトンネル管理所又は道路管理事務所(道路維持事務所)等、人が常駐して受信、監視、処理、保守を行うに便利な場所とする。

ウ 消火栓設備

消火栓は、消火器同様、初期消火及び火災の拡大を防ぐために使用するもので、トンネル内では、開閉弁及びホース接続口に連結したホース、筒先が消火栓ボックス内に格納され、使用時開閉弁を開くと直ちに放水できる状態になければならないとされていた。また、必要があれば、トンネル外の坑口附近に消防車用屋外消火栓設備を設置することが望ましい。

なお、本件トンネルが設置された当時の防災設備と昭和四二年八月四日課長通達、昭和四三年一二月七日課長通達及び昭和四九年一一月二九日局長通達の各通達に定める設備の内容及び仕様を対比すると、別紙比較表のとおりであった。

(2) 標準仕様

被告は昭和四三年四月に被告の標準仕様を定めた。これは、被告が高速道路調査会に対して「トンネル防災設備に関する研究」の委託をし、道路技術研究会トンネル研究小委員会のトンネル防災分科会に専門委員会を設けて行った調査研究の結果をとりまとめたものであるが、当時前記鈴鹿トンネル事故を契機に各方面において検討されていたトンネル火災事故に対する対策、被告が受けていた昭和四二年四月一四日局長通達及び昭和四二年八月四日課長通達並びに被告の暫定基準等を踏まえて、トンネル内の火災事故を主な対象とし、トンネル防災設備の集大成としてまとめられたものである。

被告の標準仕様の内容で、被告の暫定基準と異なる点ないしは明確にされた点の主要なものの概略は、以下のとおりであった。

ア トンネルには、自動車火災事故その他非常の際における危険を防止するため、トンネルの等級に応じ、次の事項に関して必要な防災設備を設け、適切な運用、管理を行わねばならないとされ、その事項として、〈1〉事故発生等の情報を迅速かつ的確に把握しうること(通報設備)、〈2〉事故発生の際通行車に対する警報その他適切な指示を行いうること(非常警報設備)、〈3〉事故の拡大を防ぎ、事態を速やかに収拾しうる用意のあること(消火設備、退避設備、排煙設備)があげられていた。

イ 具体的な設備について

(ア) 火災検知器

火災検知器はふく射式検知器又は熱式検知器を用いることを原則とする。ふく射式検知器は、その警戒範囲内において一メートル四方の火皿で自動車用ガソリンを燃焼した場合、点火後三〇秒以内に作動するものであり、かつ、検知器取付位置の環境光、又は走行車両のヘッドライト、緊急自動車の警戒灯等によって非火災報を発したり、作動不能の状態にならないことが必要である。また、火災検知器の動作によりトンネル内水噴霧装置及び非常警報装置等を連動で制御する場合等トンネルの特殊性を考えると、火災警報に対する信頼性が非常に高く要求される。したがって火災検知器が二つ以上同時に動作したときに警報を出すようにする等、管理所の受信機で検知器の機能を容易に試験出来る等の確認方式を考慮することが望ましい。検知器の故障、電路の故障等により誤報を出さないように受信機に於てペア回路を構造する等信頼性を高める配慮をしておくことが好ましい。また、特にトンネル内水噴霧装置と連動する場合には走行中の車両に対して注水し、そのために事故を起こすことのないよう、充分な配慮が必要である。

(イ) 非常警報設備

非常警報設備は、トンネルにおける自動車火災事故等の発生を後続車等に報知、警報し、それに伴う二次災害を軽減することを目的として、運転者の視覚及び聴覚に警報を与える固定設備である。多くのトンネルは、辺ぴな山間部や自動車専用道路にあり、一般に自動車の停車を要求されることがないと考えがちであるので、単に視覚による警報表示だけでなく音信号発生装置による聴覚信号を併用することが望ましい。非常警報設備は、事故発生と同時に作動すべきものであるので、通報設備と直接連動させることを原則とするが、管理所等で適切な処置をとり得る場合は間接的に人を介して作動させることも出来る。

(ウ) 音信号発生装置

音信号発生装置は警報表示板とともに動作し、運転者に非常警報を与えるもので、サイレン、電鐘等が考えられ、前方二〇メートルの位置において一一〇ないし一二〇ホンの大きさを有し、指向角は三〇度以上とすること、同装置は原則として警報表示板の前方に設けること。

(エ) 消火設備

消火設備はトンネルにおける自動車火災を迅速有効に消火し、又は火災の拡大を防ぐために設けるものであり、これらには、消火器、消火栓設備及び水噴霧設備等がある。

(オ) 消火栓

消火栓設備は、貯水槽、消火ポンプ、給水管、消火栓(開閉弁、ホース接続口)、ホース及び筒先により構成される。各消火栓から直ちにどの地点へも到達出来るよう、三〇メートルのホースをホース接続口に連結して消火栓箱に格納し、火災の際、ホースを容易に引き伸ばして、開閉弁を開けば直ちに放水出来る状態にしておかなければならない。

(カ) 水噴霧設備

水噴霧設備は、給水本管より分岐した枝管に水噴霧ヘッドを固定し、水を噴霧状に放射して火災を抑圧もしくは消火又は火熱からトンネル施設を冷却保護してその延焼を防止するためのもので、通常の防水ノズルの水粒に比して粒径が小さく、水を経済的効果的に利用できる。しかし、水噴霧により引火点の高い絶縁油、潤滑油、重油等は消火できるが、ガソリンのような引火点の低い油は水噴霧のみでは完全消火は不可能である。ガソリン火災については、噴霧注水の実験結果から、ガソリン火災一平方メートル毎分六リットルの割合で放水すれば火災の燃焼速度、拡大速度及び発生熱量を抑制することが出来る。水噴霧設備は本来、初期消火の段階で作動すべきものであり、通報設備との連動により、自動的に制御放水されることを原則とし、したがって、制御装置は自動式をたてまえとするが、検知器の信頼性、火点の移動による放水区画の適正選択等を考慮して、手動装置を併置し、管理者等が火災を確認し適切な処置を行いうるよう管理事務所等へ手続装置を設けることが望ましい。貯水量は、一つの放水区画に対して、床面積一平方メートルにつき毎分六リットルの放水量で約四〇分間放水するものとすれば水噴霧用の貯水量は約一〇〇立方メートルが必要となる。

(3) 設置要領

被告は、高速道路調査会が昭和四六年九月に従来の研究成果、設置経験等をもとに作成発表した「トンネル防災設備設置指針」が被告のトンネルの条件を考慮していない点があるためこれを是正する要があり、また、全体の内容を検討するため、トンネル防災設備設置指針検討委員会を設置して検討し、その結果を昭和四七年七月に被告の設置要領としてまとめたが、その内容のうち注目すべき事項の概略は、以下のとおりであった。

ア 高速道路で延長一五〇〇メートル程度以上のトンネル内には水噴霧装置、給水栓等を設けることが望ましい。

イ 水噴霧設備制御方式について詳細な指針が打ち出された。「放水制御方式は自動式と手動式に分類される。自動式とは検知器の動作信号などにより消火ポンプの起動及び火災発生地点の自動弁の「開」を自動的に行うものである。この方式は二個の検知器の動作又は火災時に異常値を示す他の機器との組合せ動作などにより自動的な確認が得られる場合に限定される。手動式とは火災現場で手動弁にて「開」にしたり、あるいは検知器の動作信号、非常通報機及び非常電話などにより火災の発生を知り、ITVなどで確認してから当該放水区間に放水する方式である。手動式放水制御方式は、その系統を火災通報、火災確認、放水指令に分類することができる。火災通報には、火災検知器、非常電話などが考えられる。火災確認には、ITV、非常通報機、非常電話などが考えられる。放水指令には消火ポンプを自動起動させた後、火災検知器などによって放水区画を選定した当該自動弁のロック解除操作をしたり、又は消火ポンプを手動起動させた後、火災受信盤による放水区画選択押ボタンの操作、及び火災発生地点での手動による解放操作などが考えられる。火災検知器→ITV→自動弁ロック解除(管理所)という方式は、火災の発生及び火災現場を検知器の動作によって捕らえ、自動的に消火ポンプを起動し、開放すべき自動弁の選択を完了するが、この時点で管理者が火災を確認してから、ロック装置を解除し、放水開始するものである。したがって、この案は管理者が常駐し、ITVなどによって火災の発生を確認できる場合には、最も信頼性の高いものと考えられる。水噴霧設備は本来、通報施設からの信号を受けて放水区画を自動的に選択し、制御放水すべきであるが、火災地点の移動による放水区画の人為的な切換などを考慮して手動式制御方式を併置することを原則とする。同時に、水噴霧設備を設置するトンネルにあっては、ITVなど、火災の発生を確認すべきものを設けるように計画、配慮すべきであろう。」

ウ 以下のような、ITV設備の規定が設けられた。「トンネル内の交通流監視、交通事故・火災事故の早期発見、火災地点の確認等のためITV設備が設置されることが望まれる。特に水噴霧設備を設けているようなトンネルにあってはITV設備を設けるべきであろう。ITV設備の設置にあたっては以下の点に留意すべきである。ITVカメラは一五〇ないし二〇〇メートルの間隔で設置する。ITVカメラで視認できる範囲はトンネル内部の照度などの条件のほかに、カメラレンズの焦点距離が重要な要素となっている。ITVの画像は点(画素という。)の集合で構成されているため、カメラ中の撮像管上にピントを結んでいる画像がある程度小さくなると画のキメが荒くなるため画像の判別はつかなくなる。このため広い範囲にわたって見ようとすると長焦点のレンズを使わなければならず、また、こうすると画像の重なりや手前が見えなくなるという欠点がでるため、この妥協点としてレンズ焦点距離五〇ないし七〇ミリメートル、カメラ間隔一五〇ないし二〇〇メートルがとられる。一方通行のトンネルでは、カメラの向きは走行車を追う向きとする。カメラ、モニター、伝送線路などは保守負担の軽いものでなければならない。トンネル内は煤煙が多く、光学系が汚れやすいし、電子部品にとっても悪い環境なので、画像の不鮮明や機器障害が多いことを覚悟せねばならない。カメラの掃除、点検、修理をトンネル内で行うことは危険かつ厄介なことなので特に保守ができる限り軽減されるよう計画しなければならない。」

エ 放送設備についても、以下のような規定がおかれた。「本装置は、非常事態の発生を出来る限り広範囲に徹底させるため、音波及び電波により運転者に伝えるものである。音波の場合はトンネル内にスピーカーを設置するのだが音の残響のため明瞭度が落ちやすいのでスピーカー一個当たりの音響出力はある程度しぼり多数のスピーカーを設置しなければならない。スピーカーの設置間隔は最大二〇〇メートル、一個あたりの電気入力は標準一〇ワット位が適当である。電波の場合はトンネル内にケーブルを張り各放送電波をトンネル内に再送信するのだが、トンネル進入以前にどの放送局を聴取していても情報伝達が可能なように附近で通常聴取出来る全ての放送局の周波数を備えておく必要がある。」

(4) 追加設計要領

被告は、昭和五四年六月八日、昭和四四年一二月三日付け被告の設計要領に「(4)トンネル防災設備」を追加し、同日から実施した(被告の追加設計要領)。その内容のうち注目すべき事項の概略は、以下のとおりであった。

ア 「トンネルの防災設備の規模を定めるもととなる条件として、トンネルの延長、線形、設計速度、交通量、幅員構成、換気方式、照明、交通形態及び管理体制などがあげられる。設備計画にあたっては、これらの条件を総合的に検討評価して、そのトンネル火災事故の頻度と規模を求め、これに応じた防災システムを設計するのが望ましいと考えられる。しかし、これらの諸条件を全て対応させて、その規模を定めることは、大へん複雑であり、かつ困難であるから、火災事故と交通事故の両面から検討して設備規模を変化させていくのが妥当と思われる。」

イ トンネルの防災設備の種類は、〈1〉通報設備、〈2〉非常警報設備、〈3〉消火設備、〈4〉その他設備(排煙設備、避難設備、非常駐車帯、誘導設備、非常用電源設備等)とし、非常警報設備として、〈1〉警報標示板、〈2〉点滅灯・警告灯、〈3〉音信号発生装置、消火設備として〈1〉消火器、〈2〉消火栓、〈3〉給水栓、〈4〉水噴霧設備、その他設備として、〈1〉排煙設備、〈2〉避難設備、〈3〉非常駐車帯、〈4〉誘導設備、〈5〉ITV設備、〈6〉非常用照明設備、〈7〉非常用電源設備(自家発電設備、無停電電源設備)とされ、次のように規定された。

(ア) 誘導設備は緊急時にトンネル内の利用者に避難設備、通報設備及び消火設備の場所及び方向を示し、人をそこまで誘導するための設備であり、避難連絡坑の位置を示す表示板と音声で伝達する拡声放送設備やラジオ再放送設備により情報を伝達する方式とがある。

(イ) ITV設備は、通報設備からトンネル内の異常事態発生の知らせを受け、その地点のカメラを駆動し、水噴霧、避難誘導などを行う場合のトンネル内の状況を把握し、適切な処置を行うためのものであり、平常時のトンネル内交通状況の監視にも利用できる。ITV設備について、火災検知器、手動通報機及び非常電話からの信号による自動起動とし、これらからの信号による自動起動は、モニターを含めた全体の電源をONにすると共に、自動的にその地点のカメラを選択し、管理事務所に警報を発するものとし、そのために、カメラは余熱式とする。

(ウ) 水噴霧設備は、トンネル管理者の遠隔操作により火勢の制圧及び延焼防止のために迅速な初期対策がとれる利点があり、消火活動、避難、救助活動を容易にするための設備で、作動させるにはITVでトンネル内状況を確認する必要があり、自動通報機と組み合わせた区間放水を行うのが望ましい。なお、設置にあたっては、過去の実施例や経済性等を十分考慮して決定する必要があるが、防災対策が特に重要と思われる長大トンネルや、特に交通量の多いトンネルなどに設ける必要がある。水噴霧の放水は、火災の発生を火災検知器の動作によって捕え、受信機で自動弁の選択及び消火ポンプを起動させ、管理者がITVにより火災地点を確認してから自動弁のロックを解除し、放水する方式が一般的である。自動弁の開放操作は、管理事務所、トンネル換気所及びトンネル内で行えるようにし、火災地点の移動等にも対処できるようにしておく必要がある。

ウ 設備相互間の関連

防災機器は次の運転機能を有することを原則とする。「(1)非常警報設備の操作は、ITV等の設備を設置する場合には、遠方監視制御設備を介して管理事務所から行い、設置しない場合には、通報設備との自動連動又は非常電話や巡視員からの連絡を受けて管理事務所から遠方操作を行うものとする。(2)トンネル内水噴霧設備の放水区画操作は受信盤では全区画を検知器との自動連動及び手動操作にて行うことができるものとする。ただし、管理事務所からは、原則として、操作は行わないものとする。(3)消火栓設備の加圧ポンプの起動は消火栓箱内に設けた起動スイッチの操作により行う。」また、「非常警報設備の操作はトンネル内の状況を確認の上行うことが望ましいが、監視設備を設置しない場合には、自動又は手動通報機と自動連動として「進入禁止」「火災」又は「進入禁止」「事故」等の表示を行うものとする。ただし、管理事務所から遠方手動操作も行える必要がある。管理事務所から水噴霧設備の放水区画を全て制御できることが望ましいが、遠方監視制御設備が非常に高価になるので、放水区画の操作は検知器と自動連動にて、設定するものとする。ただし、長大トンネル及び海底トンネル等の特殊な場所は、管理事務所から遠方手動にて放水区画の操作を行えることが望ましい。消火栓設備・水噴霧設備及びダクト冷却設備の加圧ポンプは消火栓箱の起動・停止スイッチあるいは自動通報機との連動にて動作する機構とし、管理事務所からの起動操作は原則として行わないものとする。ただし、坑口給水栓等の使用後停止操作を怠った場合のポンプ保護や火災検知器の誤動作による放水を早急に停止できるように管理事務所から遠方にて停止操作ができるものとする。」と規定された。

4  本件トンネルの瑕疵について

(一)  以上認定したところによれば、本件事故より相当以前である昭和四〇年代後半において、東名高速道路は、わが国における重要な産業道路となり、交通量も極めて増大し、通行する車両及びその積載物も多種多様となり、易燃物等の危険物を輸送する車両の数も増大していたのであり、かかる高速道路上に設置され、しかも二〇四五メートルもある長大な本件トンネル内においては、車両の衝突等から火災が発生することはかなり高度な蓋然性で生ずる事態であり、しかもいったん火災が発生するときには、多数の後続車両の乗員等の生命、身体又は財産等を侵害する危険が極めて高いことが明らかであったのであるから、本件トンネルの設置・管理者である被告においては、これらを現に予見し又は容易に予見することができたものというべきである。そして、高速道路が、有料道路であって、一般道からは自由に進入できないようにフェンス等の遮蔽物で区別され、原則としてインターチェンジから進入できるだけであり、高速走行を可能とするために高架あるいはトンネル等の施設を多く用いていることは公知の事実であって、高速道路上ごとに長大なトンネル内において発生する事故等に関する情報については、被告のみが収集することができる立場にあり、高速道路の利用者はもとより消防及び救急の職務権限を有する消防署並びに道路上の交通規制等の職務権限を有する警察署等の機関も被告の収集する情報に依存せざるをえない立場にあることは明らかである。したがって、被告としては、発生する火災を可能な限り初期の段階で消火し、その延焼を防止するために、自ら、合理的かつ妥当な物的設備を設け、人的配備をすることを要するのみでなく、被告の設置しうる消火及び延焼防止の能力には自ずと限界があるのであるから、トンネル内の安全を確保するため、消防署及び警察署等の他の機関の迅速な活動を可能ならしめるように、火点の位置、火災の状況及びトンネル内の交通状況等について、早急に的確な情報を収集し、これを迅速に提供しうる組織を整えるとともに、火災が発生したときには、右トンネル内に進入する可能性のある車両及び既にトンネル内に進入した車両の各運転者等に対し、火災が発生したことや避難の方法についての的確な情報を迅速に提供すると共に、車両が右トンネル内に進入するのを阻止するための強力な警告をするための物的設備を設け、人的配備をする等のトンネルの安全体制を整備することが必要であったものというべきである。そして、前記認定の法令及び行政上のトンネルの設置基準並びに被告の暫定基準、被告の標準仕様及び被告の設備要領が定められた経緯及び弁論の全趣旨によると、これらがそれぞれ定めたトンネルの安全体制は、いずれも昭和四〇年代において技術的に実施可能となっていたものであることが認められるから、右の安全体制は、本件事故当時において少なくとも本件トンネルのような長大なトンネルについては、火災の発生又はその延焼を防止し、右火災及び延焼によって生じる後続車両の乗員等の生命、身体又は財産等を侵害する危険を回避するための合理的かつ妥当なトンネルの安全体制であったものというべきであり、これらを本件トンネルの安全体制が下回るときには、本件トンネルは長大なトンネルが通常具有すべき安全性を欠如することとなり、その設置・管理に瑕疵があることとなるものというべきである。

(二)  通報に関する瑕疵

原告らは、〈1〉管制室の梅田係員が静岡消防に対してした通報の際火点の位置を焼津側であるのに静岡側であると通報したこと、〈2〉焼津消防に対する出動要請が遅すぎたことに基づいて、右二つの問題点は被告の通報体制自体に瑕疵があったからである旨の主張をしている。

しかしながら、前記認定のとおり、管制室の梅田係員が静岡消防に対してした通報の際火点の位置を静岡側であると通報した事実は認められないので、それを前提とする通報体制の瑕疵の主張は理由がない。

次に、焼津消防に対する出動要請の遅れについて検討する。前記認定のとおり管制室が焼津消防に対して出動要請をしたのは午後七時一八分ころであったと認められ、管制室に本件事故発生の通報があった午後六時三九分から約三九分間経過していたことになる。ところで、管制室が静岡消防に通報したのは、静岡市と焼津市との間の協定書及び静岡市消防長と焼津市消防長との間の覚書によって静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間については上り線を焼津消防、下り線を静岡消防が担当するとの取扱があり、被告にもその通知がされていたからであった。ところで、静岡消防の位置は静岡インターチェンジ側、焼津消防は焼津インターチェンジ側にあったから、本線上の車両の通行が確保されている状態を前提にすれば、右取扱は合理的と考えられる。そして、本線上の車両の通行が停滞した場合でも緊急車両は平場については車両の通行が可能な路肩部分がありそこを走行することができたし、トンネル内に右のような路肩は設置されていなかったが、停車車両にそれぞれ壁面側に寄ってもらえればその間を通ることができたから、右取扱をもって不合理なものということはできないし、被告が右取扱に従うことも同様に不合理であるということはできない。しかしながら、右のように路肩又は停車車両の間を通行することができないような状況がある場合には、反対線からでなければ火災現場に早期に到達することができないから、他方の消防に応援を依頼する必要があり、右協定書及び覚書にもいずれか一方から消防業務(消防及び救急業務の実施並びに処理)の要請を受けたとき又は事故を覚知したときは直ちに出場する旨あるいは事故の状況により相互に応援しあうものとする旨の規定が設けられていたのであるから、両消防とも右の必要性が生じることを認識していたものと思われる。そうすると、管制室が、〈1〉一方の消防署に対して他方の消防署の応援を依頼したほうがよいと判断できる程度の情報を提供すれば消防署間で連絡調整したであろうし、〈2〉自らその必要性を示して双方の消防署の出動を依頼すれば、その依頼に応じたものと考えられる。

ところで、本件トンネル内の火災等の事故についての被告の情報の収集は、前記三1(三)(防災設備の管理・運用体制)で認定したとおり、〈1〉管制室が非常電話で通行者等から聴取する方法及び〈2〉コントロール室がITVによって観察する方法の二つがあるが、〈1〉の方法は緊急状態における一般の通行者の言語による情報であるため正確性に問題があるだけでなく、当該通報者の視界に入った範囲内での情報にとどまるという限界があった。これに対して、〈2〉の方法は、情報収集能力に限界があるが、直接火点の状況が観察できるだけでなく、ITVカメラを操作することによって広く本件トンネル内の情報を収集することができ、専任の担当者の観察及び表現による情報であって正確性を期することができるものであるから、消防署への通報についてはその情報を最大限に活用するのが必要であると考えられる。ところが、前記認定のとおり管制室とコントロール室との間は指令電話で迅速に情報の交換をすることができるような物的設備はあったが、火災についてどのような内容の情報を収集してコントロール室から管制室に送るかについての取り決め等はなく、本件事故の際にもコントロール室から管制室への火災発生の第一報の後は火災の状況、後続車両の状況等についてコントロール室の係員が詳細な情報を収集した形跡も、それを管制室に伝えた形跡もない。また、逆に管制室がコントロール室に火点の位置を確認したような状況もない。

以上のような事情並びに前記三3(被告の対応)で認定した管制室と静岡・焼津両消防間の交信の経過及び内容に照らすと、被告が静岡消防に提供した情報は、火点の位置についてはともかく、出動した消防隊が本件トンネルの東坑口から進入して火点の位置まで到着できるかどうかに関する十分な情報を提供したとは認められず、また、自ら焼津消防に出動を依頼したのは前記認定のとおり午後七時一八分ころであったから、消防署に対する情報の提供については、その内容の点においても、迅速性の点においても極めて不十分、不適切であったものというべきである。

そして、〈証拠〉によって認められる事実、すなわち焼津消防が本件追突事故現場における火災について通報を受けてからその消防隊が右事故現場に到着して放水を開始するまでに要した時間が約二二分であったとの事実に照らすと、焼津消防が、静岡消防と同時に火災の通報を受けたか又はこれより多少遅れて通報を受けたとしても、後記のとおり初期消火手段が存在するか又は十分に機能する状態にあったとすれば、本件延焼火災を少なくとも遅らせることができたといえることを考慮すると、本件延焼火災の発生前に消火活動を開始することができ、本件延焼火災の発生を防止しえた可能性があったものと推認することができる。

(三)  消火に関する瑕疵

(1) 水噴霧に関する問題点

原告らは本件事故の際本件車両火災現場で水噴霧装置が作動しなかった旨を主張するが、前記認定を総合すると本件追突事故の発生が午後六時三七分三〇秒ころ、本件車両火災の発生が同三七分三〇秒ないし三八分ころ、火災感知器の感知が同三九分三〇秒ないし四〇分ころ、ITVモニターに本件車両火災現場が映し出されたのが同四〇分三〇秒ないし四一分ころ、水噴霧装置の放水が開始したのが、同四二分ころであると認められる。本件車両火災時に現場にいた訴外澤入、同大石、同新居及び同梶浦らはいずれも水噴霧装置から放水されたことは目撃していなかったが、これは放水が開始される前に避難を開始し、現実に放水が開始したときにはすでに放水区画外に避難してしまったためであると考えられる。

ところで、前記認定の被告の追加設計要領によれば、本件事故当時の設置基準としては、〈1〉余熱式のITV、すなわちスイッチを入れるとすぐに画像がでるような設備と〈2〉火災感知器と連動して自動的に火点を写し出すカメラが選択されるものを規定し、火点の早期発見及び初期消火の目的を実現することとしていた。ところが、本件トンネルのITVは前記認定のとおり、〈1〉余熱式ではなかったため、画像が出るまでに約四〇秒かかり、また、〈2〉火災感知器と連動していなかったためカメラを切り換えて火点を探す必要があった。右のような機器の作動状況の下においては、火点を早期に発見し、初期消火の目的を実現するためには、ITVの画像を常時映し出す状態にしておくことや、グラフィックパネルに表示された火災の発生場所に対応するカメラに速やかに切り換えること等の機器の運用及び係員の訓練が必要であったものというべきである。しかるに、本件事故の当時においては、〈1〉ITVによる常時監視はしていなかったうえ、〈2〉グラフィックパネルの表示によれば本件トンネル内の西坑口から五〇〇メートルの範囲(九番カメラないし一一番カメラで監視できる範囲)内の火災であることが判明していたのであるから、画像がでるまでに九番カメラに切り換えておくことが必要であり、また、そうすることが合理的であったのに、白石係員は、七番カメラに切り換えておき、七番カメラ次いで八番カメラで見ても火災の発生がないことを確認してから、九番カメラに切り換えて初めて本件車両火災を発見したものであり、約一分間の時間的空費が発生するような運用状況にあったものである。

そして、右のような時間的空費があったため、水噴霧装置が作動した時点においては、本件車両火災は第二段階から第三段階に至り、水噴霧装置の放水のみではこれを消火することができず、初期消火の目的を実現することができなくなったものである。

(2) 消火栓・消火器に関する瑕疵

前記のとおり、水噴霧装置は本来ガソリン火災を完全に消火できないものであったから、消防隊が到着する前の段階では、通行者等が消火栓及び消火器を使って消火活動を行うことが期待されていた。

ところが、前記認定のとおり本件トンネルの消火栓は、コントロール室のポンプの鎖錠を解かない限りポンプによって加圧された水は出ないようになっていた。前記被告の標準仕様によれば、消火栓ポンプの起動は消火栓弁の開放又は起動釦によって行うものとされており、本件トンネルのようにコントロール室で火災を確認してポンプ鎖錠を解かない限り放水できないとする運用には合理的理由を見出すことは困難であるのみでなく、右運用は、前記のようにITVによる火災発生の確認には約一分間の時間的空費を伴うものであることからすれば、初期消火を著しく困難ならしめる危険性を有していたといわなければならない。本件火災の際、前記の時間的経過からして訴外澤入、同大石、同新居らが消火・救助活動をしていたときにポンプの起動がされていなかったことは水噴霧装置が作動していなかったことからも明らかである。

次に、消火器は前記認定のとおり消火栓と一緒に格納箱に収納されていたが、その格納箱は消火栓と消火器の格納を区分しそれぞれにつき専用扉が設けられていた。ところで、消火栓の格納部分の扉はいわゆる観音開きであり、この扉を開くと左側の消火器の格納部分が全く覆い隠されるような構造となっていた。したがって、火災の発生の際に最初に格納箱に到着したものが消火栓を使用することを選択して消火栓の格納部分の扉を開けると、次に到着したものが消火器を探してもその発見が困難となり、また、消火栓ホースを追越車線の壁に沿って消火器が格納されている方向に引っ張り出したとすると、消火栓の格納部分の扉がホースに邪魔をされて閉じることが困難となり、したがって消火器を使うことも事実上できなくなるという欠点があった。

さらに本件車両火災の際には、前記認定のように訴外大石、同新居らが消火活動を行おうとして消火栓のホースを引き出したが、同ホースから火点に届くような水は出ず、また、同人らが消火栓を選択してホースを引き出した時には、事実上消火器を選択する余地はなくなり、ポンプも起動していなかったから、その時点からポンプが起動するまでの間について同人らによる消火活動は全くされず、かつ、これをしようとしても事実上できない状態にあったものである。右のように消火栓のホースから水が出なかった原因は消火栓の開閉弁を開く操作がされなかったからなのか、それとも右操作はされたが加圧されていなかったため呼水槽の圧力のみによる水が少し出ただけなのかは明らかではない(この点についての本件事故後の検証の結果は証拠として提出されていない。仮にその結果が消火栓の開閉弁が開かれた状態にあったとしても、いったん開かれた後更に閉じられた可能性もある。)が、客観的には初期消火手段が存在していなかったか、これが機能していなかったものというべきである。

なお、消火栓の作動方法については前記認定のとおりであるが、消火栓弁のほかに起動釦を設ける必要があるのかは疑問があり、緊急の場合に消火栓を使おうとする者に対して無用の混乱を与える可能性が高いと考えられる。

(3) そして、既に認定した事実関係に照らすと、事故原因者又は通行者が利用できる初期消火手段が存在していたか、又は十分に機能していたとすれば、前記認定のように、訴外大石又は同新居ら通行者が消火栓を用いて火災の第一段階又は第二段階の時点において消火活動に従事したのであるから、水噴霧装置を含めてそれぞれ所定の機能を早期に完全に発揮することができていれば、これらの消火能力の相互補完の効果により右の段階で消火することができ、本件延焼火災を防止しえたものと推認することができる。

(四)  可変標示板に関する瑕疵

本件トンネルの警報設備として本件可変標示板が一個設置されていたこと、その設置位置は、本件トンネルの東坑口から東京寄り五三五メートルの地点で、その間の長さ二六八メートルの小坂トンネルがあり、同トンネルの東坑口からさらに東京寄り二一〇メートルの地点で、本件追突事故現場からは約二一六〇メートル東京寄りの地点であったこと、本件可変標示板は「小坂トンネル」「長さ270m」と書かれた道路標識の上に設置されており、その上部には赤色と黄色の点滅灯とサイレンが設置されていたが、本件事故以前からサイレンは吹鳴しないようにされていたこと、本件可変標示板への表示は、火災感知器から火災感知の送信を受けたコントロール室の係員がITVを作動させて火災の発生を確認した後に、表示を出す操作をすることによっていたことは前記認定のとおりである。

右のような本件可変標示板の設置位置及び道路標識からすると、本件可変標示板の表示は、運転者にとっては小坂トンネル内についてのものと誤解され易かったのみではなく、同トンネルの長さが二六八メートルであったため、仮に本件可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示が出ていたため減速・停止をしようとした運転者も同トンネル東坑口からみると同トンネル内に火災が発生しているかどうかがわかるから、同トンネル内に火災が発生していないと認めた運転者は再加速して進行すると考えられる。したがって、本件可変標示板の右表示は、運転者に対し、本件トンネル内において火災が発生したこと及び本件トンネルに進入禁止の措置をとるべき旨の表示としては用をなさないか、又は不適切なものであったというべきである。

次に、本件可変標示板の設置位置の関係では、本件トンネル内で事故等が発生した場合には、〈1〉事故地点と本件可変標示板の表示を高速道路を走行する車両の運転者が認知しうる終点(以下「本件可変標示板認知点」という。この地点は、〈証拠〉によると、本件可変標示板の設置地点から三〇メートル東京寄りの地点であると認められる。)までの間の車両の運転者はその表示を見る機会は全くなく、また、〈2〉実際に表示が出るまでの間に本件可変標示板認知点を通過してしまう車両の運転者もその表示を見る機会はなかった。本件事故の際には、前記のとおり本件追突事故の発生から本件可変標示板の点灯までの間に少なくとも約三分間の時間が経過したから、後続車両の先頭車両である澤入車から本件可変標示板に表示が出るまでに本件可変標示板認知点を通過してしまった車両は、本件トンネル内で追突事故及び車両火災が発生していることを知らずに本件トンネル内に進入してしまったものである。その車両の数を正確に認定することは困難であるが、次のように推認するのが相当である。本件追突事故現場は本件可変標示板認知点からその前方約二一九〇メートルの地点であったから本件追突事故当時、走行車両が互いに車の長さも含めて五〇メートルの間隔で進行していたとすれば、下り線の二車線で既に八〇台以上の車両が本件可変標示板認知点を通過してしまっていたことになる。その後は追突事故現場を先頭にして後続車両が次々に停車しその影響で走行速度が低くなる反面車間距離が短くなるから、時速五〇キロメートルで四〇メートル間隔をとって連続して後続車が通過していたとすれば、本件可変標示板に進入禁止の表示が出された約三分後のうち最初の二分間までに約八三台の計算になるから、本件事故で全焼した一六七台のほとんどすべての車両が本件可変標示板の「進入禁止」「火災」の表示を見ることができなかったものと考えられる。

さらに、運転者に対する表示の効力にも問題がある。高速道路において車両は高速度で走行し、しかも、信号が設置されていないから、通常の場合には運転者は高速道路上で停止が要求されるとは考えていないし、Uターンができないことから運転者の心理としてはより前方に進もうとする意識に支配されているということができるのであるから、運転者に対し、停止措置をとるべきことを期待するためには、強い警告力を有する措置を講じることが必要となることはいうまでもない。

前記認定の被告の標準仕様及び被告の設置要領によれば、トンネルについての非常警報装置としては、高速道路を高速で走行する車両の運転者が視覚に訴える表示の意味・内容を視覚によって認知しうる能力には限界があるから、視覚のみに訴える表示のみでは非常事態発生の警告力としては不十分であるとの認識の下に、運転者の聴覚に対して強制的に右事態の発生を訴えるサイレンの吹鳴又はトンネル内の放送設備による警告の方法が採用されたものであるところ、本件トンネルについては、本件可変標示板による表示のほか、〈1〉赤色灯の点滅と〈2〉サイレンの吹鳴の二つの方法が考えられ、本件可変標示板には右表示のほか〈1〉及び〈2〉の設備が設置され、また、前記認定のように本件トンネル内に四八メートル間隔で設置されていた消火栓の上部に赤色灯が点滅するような設備が設けられ、コントロール室においてポンプ鎖錠が解かれポンプの起動がされると右赤色灯が一斉に点滅するようになっていたが、本件事故当時本件可変標示板の〈2〉の設備は作動しないようにされていたし、また、本件トンネル内には〈2〉の設備も放送設備も設置されていなかった。しかも、本件可変標示板の〈2〉の設備が作動しないようにされるに当たっては、これと同等又はこれを上回る機能を有する機器の設置又は人的配備をする等の合理的な代替的措置が講じられることもなかった。

したがって、本件トンネルに設置運用されていた非常警報装置の警告力は、被告の設定したトンネルの安全体制を下回るものであり、不十分、不適切なものであったというべきである。

そのうえ、本件トンネルにおいて後続車両に情報を提供する方法として現実に機能していたのは、本件可変標示板の表示並びに本件可変標示板及び消火栓上の赤色灯の点滅であり、これによる情報の提供は被告のみがなしうるものであるから、これについても的確性及び迅速性が要請されなければならないが、前記同様主にITVの運用の理由から、右情報の提供は時期的に遅すぎ迅速性に欠けたといわざるをえないことは既に認定した事実関係に照らして明らかである。

そして、既に認定した事実関係に照らせば、本件トンネルの内外において、運転者が、本件可変標示板の表示、赤色灯の点滅のみならず、サイレンの吹鳴又は放送設備による非常事態の発生の警告を受けたときには、本件トンネル内に進入するのを中止し、既に進入していた車両は後退する等して本件トンネル外に出ることも可能となり、したがって、本件延焼火災が発生しなかったものと推認することができる。

(五)  まとめ

以上認定した、〈1〉消防署に対する情報提供の不足及び遅延、〈2〉水噴霧装置の作動開始の遅延及び事故原因者又は通行者による初期消火手段の不存在ないしは機能の不完全、〈3〉後続車両の運転者に対する情報提供の不十分及び遅延並びに警告力の不十分等をきたす状態にあった被告の本件トンネルの安全体制は、この一部を構成するものとして設置されていた機器の機能の一部がそれと同等又はそれを上回る機能を有する代替措置がとられることなく停止されたままとなり、前記認定の法令及び行政上のトンネルの設置基準並びに被告の暫定基準、被告の標準仕様及び被告の設置要領所定のトンネルの安全体制を下回るに至っていたものといわざるをえない。したがって、本件トンネルは、本件事故当時、長大なトンネルが通常具有すべき安全性を欠如していたものというべきであり、この安全性の欠如と本件延焼火災により原告らが被った損害との間には相当因果関係のあることは、既に説示したとおりである。

なお、以上の諸点は、係員の監視、確認、操作及び通報等の行為が介在するため、国賠法一条一項を適用する余地もあるが、前認定のとおり本件トンネルは様々な防災設備及びそれを監視する機器並びに人間の行為が一体となって本件トンネルの安全体制を構成していたものであるから、その管理及び運用体制をも含めて一つの営造物として把握し、それが長大トンネルとして通常具有すべき安全性を欠如するときには、同法二条一項を適用すべきであると解すべきであることは、前記四1において説示したとおりである。

したがって、被告は、国賠法二条一項に基づいて、原告らが被った後記損害を賠償すべき責任があるものというべきである。

五  損害

1  損害算定の方法

本件において第一事件原告らは、統一した算定方法で損害の賠償を求めているので、個別的認定をする前に車両損害及び積荷損害の損害算定の方法について判断する。なお、休車損害及び弁護士費用についての理由は、以下に説示するとおりであって、各原告毎に異ならないので、個別的認定の際には結論のみを示すこととする。

(一)  車両損害

第一事件原告らは、被害車両の損害額についてレッドブックに記載してある当該車両と同一の車種・年式・型の車両の本件事故当時の平均販売価格に基づいて主張しているので、この点について判断する。

(1) 事故により中古車が損傷を受け物理的に修理不能となった場合の損害は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の中古車の中古車市場における取得価額によって定めるべきであるが(最高裁判所昭和四九年四月一五日第二小法廷判決・民集二八巻三号三八五頁)、被害車両の事故による損傷の程度が著しく事故当時の当該車両の使用状態等を現実に観察して評価する方法がとれないときには、右再取得価額はレッドブック等の一般的資料に基づいて算定することも許されるというべきである。本件においては原告らの被害車両は本件事故によって焼毀し本件事故当時の各被害車両の使用状態等を現実に観察して評価する方法がとれないから、右被害車両が焼毀したために被った損害をレッドブック等の一般的資料によって認定することが許されるものというべきである。

(2) なお、第一事件原告らの被害車両の中には、販売店から割賦販売の方法で当該車両を購入し、本件事故当時その代金の全額の支払が完了しておらず、そのため自動車検査証等の所有者欄に販売店の名前が記載され、また、右売買契約において販売店に所有権を留保されていたものがあったことは、後記認定のとおりである。

ところで、自動車が代金完済まで売主にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において、その代金の完済前に、右自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき、右の第三者に対して右自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは、不法行為当時において右自動車の所有権を有していた売主であって、買主ではないものと解すべきである(最高裁判所昭和四一年六月二四日第二小法廷判決・裁判集民事八三号三九頁は、この趣旨の判断を前提とするものと解される。)。しかしながら、右売買の買主は、第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買残代金の支払債務を免れるわけではなく(民法五三四条一項)、また、売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから、右買主は、第三者の不法行為後において売主に対して売買残代金の支払をし、代金を完済するに至ったときには、本来右期待権がその内容のとおり現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから、民法五三六条二項但し書及び三〇四条の類推適用により、売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。

(二)  積荷損害

第一事件原告らが貨物運送業者であることは前記認定のとおりであり、また、本件事故当時右原告らの被害車両に積載されていた積荷がいずれも荷主から委託されて運送中であったことは後記認定のとおりである。

第一事件原告らは、右積荷が本件事故により焼毀させられたため、荷主に対し運送契約上の債務不履行となり、積荷価格相当の損害賠償義務を負うに至り、このことにより被告に対し、右同額の損害賠償請求権を取得したとし、また、荷主に対し、積荷相当の損害賠償をした原告らについては、民法四二二条の規定に基づき荷主が被告に対して取得した損害賠償請求権を代位取得したとして、積荷損害についての賠償を被告に対して請求しているものと解される。

ところで、運送中に運送品の滅失、毀損等の損害が生じた場合、運送人が荷送人に対して、どのような責任要件のもとに、どの範囲の損害を賠償すべきかは、その運送契約において定めるのが通常であるが、本件においては、第一事件原告らと荷送人たる荷主との間の運送契約の具体的内容が明らかにされていないから、商法の規定によって定めるべきものとなるが、同法五七七条の規定によると、運送人は、自己若しくは運送取扱人又はその使用人その他運送のために使用した者が運送品の受取、引渡、保管及び運送につき注意を怠らなかったことを証明したときには、運送品の滅失又は毀損によって生じた損害の賠償責任を免れることができるとされているところ、既に認定した本件延焼火災の原因・状況に関する事実関係に鑑みると、第一事件原告らは、その各被害車両に積載していた積荷が本件延焼火災によって焼毀したため荷主に生じた損害について、右商法の規定する免責を主張して、運送契約上の債務不履行責任を免れることができるものと認められるから、第一事件原告らは、その各被害車両に積載していた積荷が本件延焼火災によって焼毀したため荷主に生じた損害について、運送契約上の債務不履行責任を負ういわれはないものというべきである。もっとも、第一事件原告らのうち、荷主に対し、運送契約上の債務不履行責任を負うに至ったことを前提として、積荷に生じた損害につき既に賠償をした者については、荷主が被告に対して取得した国賠法二条一項に基づく損害賠償請求権を民法四二二条に基づき代位取得することができるものと解するのが相当である。そして、この場合、賠償が積荷に生じた損害の一部についてされたにとどまるときでも、同条に基づき荷主の被告に対する損害賠償請求権を代位取得することができるものというべきであり、また、賠償した第一事件原告らにおいて同条に基づいて代位取得することができる荷主の被告に対する損害賠償請求権及び遅延損害金の範囲は、賠償した限度においてであることはいうまでもないところである。

右説示のところから明らかなとおり、第一事件原告らのうち、その被害車両に積載していた積荷に生じた損害につき、荷主に対して既にその全部又は一部の賠償をした原告らを除くその余の原告らの請求は、いずれも理由がないものというべきである。

(三)  休車損害

いわゆる休車損害は、基本的には車両を稼働させれば取得したであろう利益及び休車している間にも支払を免れることのできなかった経費の合計額であると解すべきであり、当該原告の事故発生の年を含む複数の年度にわたる営業関係資料及び会計帳簿等に基づき具体的に算定すべきであるのが本則であるが、これによって具体的に算定するのは多数の車両のうちの一台ないし二台のみが休車した場合には困難であるが損害がないとはいえないこと、休車損害は比較的短期間に発生するものであり金額も他の損害と比較すれば低額なものであること等を考慮すると、信頼できる統計資料等に基づいて控え目に算定する限り、当該原告の企業規模、営業形態、車両の保有台数の多寡に関わらず、一律な額を休車損害として算定することも許されるものというべきである。

〈証拠〉によれば、第一事件原告らの被害車両は本件事故により焼毀したため代替車を取得するまでの間被害車両相当分についての稼働ができなかったこと、右再取得所用期間は一か月間を下回らなかったこと、昭和五三年度における一般区域貨物自動車運送事業(区域トラック用)の貨物自動車の平均実働率は六九・四四パーセント、平均実車率は六六・七五パーセントであったこと、一日一台当たりの平均走行距離は二〇〇キロメートルであったこと、走行距離一キロメートル当たりでは、営業収益が二二五・〇七円、営業費が二一五・九一円で営業利益が九・一六円であったこと、右営業費の内訳は運送費一九四・六一円及び一般管理費二一・三〇円であり、右運送費の内訳は人件費八三・七四円、燃料費一七・五八円、修繕費一一・八四円、固定資産償却費一三・〇七円、保険料三・五三円、施設使用料三・五四円、施設賦課税二・二二円及びその他運送費五九・〇円であったことを認めることができる。

そして、右認定の統計上の数値を用いて算定すると、車両を稼働させれば取得したであろう利益は右営業利益九・一六円であり、休車している間にも支払を免れることのできなかった経費としては一般管理費二一・三〇円の全額、運送費のうち固定資産償却費一三・〇七円、保険料三・五三円、施設使用料三・五四円及び施設賦課税二・二二円の全額、人件費八三・七四円については貨物自動車の平均実働率が六九・四四パーセントであり相当部分を他に転嫁させることができるはずであるからその半額の四一・八七円、その他運送費五九・〇九円については休車期間中は支払を免れる部分が相当あるはずであるからその約半額の二九・五五円を合計した一一五・〇八円を考え、総合計一二四・二四円に一日当たりの平均走行距離二〇〇キロメートルを乗じ、その三〇日分を算出すると、七四万五四四〇円となる。

しかしながら、右に算出した金額はあくまでも統計上の平均値を用いた観念的なものであって、〈証拠〉によれば車両の保有台数が五〇台未満の場合には前記認定の走行一キロメートル当たりの営業収益、営業費及び営業利益が右算定に用いた金額に達しておらず、また、右算定そのものが各原告の企業規模、営業形態、車両の保有台数の多寡等を一切捨象しているものであるから、右金額の全額を各原告の被害車両一台毎に休車損害として認めるのは相当ではないと考えられるから、休車損害としては前示金額の約六割である四五万円を被害車両一台毎に一律に認めることとする。

(四)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、第一事件原告らは、本件事故に基づく損害賠償請求権につき被告から任意の弁済を受けられなかったため、弁護士である同原告ら訴訟代理人らに本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払いを約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、それぞれ後記記載の額と認めるのが相当である。

2  第一事件原告らの損害

(一)  第一事件原告やよい運送

(1) 車両損害 三九〇万円

大型貨物自動車(練馬一一か三一五〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、第一事件原告やよい運送が同年四月二〇日訴外日産ディーゼル東京販売株式会社から代金七四四万八七九一円、これを同年八月から同五四年一一月まで二四回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三九〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 三九八万六〇〇〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外ライオンサービス株式会社から運送を委託された練歯磨き一〇万本(約一〇トン)を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として訴外ライオンサービス株式会社に対し、昭和五四年八月一日三三万円、同月三一日三三万円、同年九月二九日三三万円、同年一〇月三一日三三万円、同年一一月三〇日三三万円、同年一二月二九日三三万円、同五五年一月三一日三三万円、同年二月二九日三三万円、同年三月三一日三三万円、同年四月三〇日三三万円、同年五月三一日三三万円及び同年六月三〇日三五万六〇〇〇円合計三九八万六〇〇〇円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 八〇万円

(二)  第一事件原告隅田川運送

(1) 車両損害 四五五万円

大型貨物自動車(習志野一一を三四七〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FU一一三Sであったこと、第一事件原告隅田川運送が右自動車を昭和五三年七月代金六五〇万円で買い受けて本件事故当時所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四五五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外井住運送株式会社から運送を委託された黄銅棒四六二本(約一〇・〇一八五トン)を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷につき右訴外会社から合計一二四万二二九四円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 五〇万円

(三)  第一事件原告峯岸運送

(1) 車両損害 二〇〇万円

大型貨物自動車(熊谷一一か一二〇八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五〇年式の日産ディーゼルCD五〇Vであったこと、右自動車と同一車種・年式・型の自動車の本件事故当時の一般的な中古車価格は二五〇万円程度であったこと及び第一事件原告峯岸運送が昭和五三年二月に右自動車を代金二七五万円で買い受けて本件事故当時所有していたことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は二〇〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外アサヒゴム株式会社から運送を委託された自動車部品(約九・五トン)を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと、右積荷の賠償に関して同原告と右訴外会社との間で昭和五四年九月三〇日損害額を合計二〇二万〇二三九円とし、そのうち一二〇万円を同原告が支払い残余は本訴の決着を待って協議する旨の合意がされたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 二〇万円

(四)  第一事件原告日発運輸

(1) 車両損害 三〇〇万円

大型貨物自動車(横浜一一か九六〇九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五一年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、本件事故当時第一事件原告日発運輸が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三〇〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 二二四万九四〇〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外日本発条株式会社から運送を委託された自動車用シートスプリング及びパレットを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五五年一月三一日右訴外会社に対し合計二二四万九四〇〇円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 五五万円

(五)  第一事件原告小碇運輸

(1) 車両損害 二八〇万円

大型貨物自動車(横浜一一か九七八四)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五一年式のいすゞSPM六五〇であったこと、本件事故当時第一事件原告小碇運輸が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二八〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 三〇万円

(六)  第一事件原告五十嵐運輸

(1) 車両損害 一五〇万円

大型貨物自動車(品川一一か五一六一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和四九年式のいすゞSPK七一〇であったこと、本件事故当時第一事件原告五十嵐運輸が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一五〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 三一〇万六二一四円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外日本グッドイヤー株式会社から運送を委託されたタイヤ等を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社に対し昭和五四年九月一七日八〇万円、同年一〇月一六日八〇万円、同年一一月一六日八〇万円及び同年一二月一七日七〇万六二一四円合計三一〇万六二一四円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 五〇万円

(七)  第一事件原告富士中央運送

(1) 車両損害 二五〇万円

大型貨物自動車(沼津一一く二一四)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五〇年式の日産ディーゼルCD五〇Vであったこと、本件事故当時第一事件原告富士中央運送が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二五〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外山川工業株式会社から同山川運送株式会社を通して運送を委託されたガスボンベ八四本を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同山川運送株式会社が同山川工業株式会社に対し合計一七六万四〇〇〇円を支払ったことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 二五万円

(八)  第一事件原告浜北トランスポート

(1) 車両損害 三九〇万円

大型貨物自動車(浜松一一か二〇八三)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、本件事故当時第一事件原告浜北トランスポートが右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三九〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 四〇万円

(九)  第一事件原告幸伸運輸倉庫

(1) 車両損害 六〇〇万円

大型貨物自動車(浜松一一か二八〇〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五四年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時第一事件原告幸伸運輸倉庫が同年三月二〇日訴外静岡日野自動車株式会社から代金六四六万〇五七〇円(うち車両代金五二〇万円)、これを同年五月から同五六年一〇月まで三〇回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと、右代金の他に右自動車の架装費用として一三四万一一七五円を支払ったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は六〇〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 六〇万円

(一〇)  第一事件原告浜松輸送センター

(1) 車両損害 一八五万円

大型貨物自動車(浜松一一き二八六二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日野KL五四五であったこと、本件事故当時第一事件原告浜松輸送センターが右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一八五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 二〇万円

(一一)  第一事件原告日急

(1) 車両損害 一一〇万円

大型貨物自動車(名古屋一一い五四九八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五一年式の日野KL五六〇であったこと、本件事故当時第一事件原告日急が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一一〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 一八三万五九〇〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外東海TRW株式会社から運送を委託された自動車用部品のプラグチャージ約四トンを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年一〇月二二日右訴外会社に対し合計一八三万五九〇〇円を支払ったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 三〇万円

(一二)  第一事件原告豊田陸運

(1) 車両損害 六七〇万円

ア 大型貨物自動車(三河一一う五六三五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時第一事件原告豊田陸運が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三〇〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

イ 大型貨物自動車(三河一一う六三〇四)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三七〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

ア 〈証拠〉によれば、右自動車(三河一一う五六三五)には訴外トヨタ自動車工業株式会社から運送を委託された鉄製空容器三一個を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び右積荷の本件事故当時の価額は一五五万円を下回らなかったことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の右積荷損害についての請求は理由がない。

イ 〈証拠〉によれば、右自動車(三河一一う六三〇四)には右訴外会社から運送を委託された鉄製空容器二一個を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び右積荷の本件事故当時の価額は一〇五万円を下回らなかったことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の右積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 九〇万円

(4) 弁護士費用 七五万円

(一三)  第一事件原告東洋陸運

(1) 車両損害 一七〇万円

大型貨物自動車(足立一一き六五二七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五〇年式の三菱FT一一二Uであったこと、本件事故当時第一事件原告東洋陸運が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一七〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 二一九万五五九七円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外日新製糖株式会社から運送を委託されたグラニュー糖一〇・八トン及びパレットを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社に対し昭和五四年九月二〇日一一八万七三一四円及び同年一〇月二〇日一〇〇万八二八三円合計二一九万五五九七円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 四〇万円

(一四)  第一事件原告東礪運輸

(1) 車両損害 一四五万円

大型貨物自動車(福井一一か八七九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和四九年式の日野KF三六〇であったこと、本件事故当時第一事件原告東礪運輸が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一四五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外東レ株式会社から運送を委託されたポリエステル糸約九四七七キログラムを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二四〇万円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 一五万円

(一五)  第一事件原告愛知陸運

(1) 車両損害 九〇〇万円

ア 大型貨物自動車(沼津一一く一三三三)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五四年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時第一事件原告愛知陸運が右自動車を所有していたこと及び右自動車は訴外愛知日野自動車株式会社から同年三月に五六七万円で購入したことが認められ、本件事故当時の時価は五三〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

イ 大型貨物自動車(名古屋一一き五二九五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三七〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 九〇万円

(3) 弁護士費用 九五万円

(一六)  第一事件原告ポッカライン

(1) 車両損害 四二〇万円

大型貨物自動車(名古屋一一き五八〇七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、本件事故当時第一事件原告ポッカラインが右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四二〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外ポッカレモン株式会社から運送を委託された缶入清涼飲料水約三万三〇〇〇本を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二七〇万六〇〇〇円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 四五万円

(一七)  第一事件原告柴田自動車

(1) 車両損害 七五万円

大型貨物自動車(名古屋一一い三五六五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五〇年式の日野KL三六〇であったこと、本件事故当時第一事件原告柴田自動車が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は七五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 一〇万円

(一八)  第一事件原告刈谷通運

(1) 車両損害 四三〇万円

ア 大型貨物自動車(三河一一う五一〇〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時第一事件原告刈谷通運が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三〇〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

イ 大型貨物自動車(三河一一か五〇八二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日野KL三六〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一三〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 六六万七二九五円

〈証拠〉によれば、右自動車(三河一一か五〇八二)には訴外株式会社三國製作所から運送を委託された自動車部品を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五五年二月二八日右訴外会社に対し合計六六万七二九五円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 九〇万円

(4) 弁護士費用 五五万円

(一九)  第一事件原告中部運輸

(1) 車両損害 四二〇万円

大型貨物自動車(三 一一か五四〇七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日産ディーゼルCD43Vであったこと、第一事件原告中部運輸が同年七月訴外中部日産ディーゼル株式会社から右自動車を含む二台の自動車を代金合計一三三九万六七四五円、これを同五四年七月から同五六年六月まで二四回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四二〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 四五万円

(二〇)  第一事件原告南勢運輸

(1) 車両損害 三六五万円

大型貨物自動車(三 一一か四四八八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日産KF三九一であったこと、第一事件原告南勢運輸が同年七月訴外三重日野自動車株式会社から代金七〇二万七〇〇〇円、これを同年九月から同五四年一一月まで二七回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三六五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 一六四万〇四〇〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外横浜ゴム株式会社から運送を委託された合成ゴム約一万〇九三六キログラムを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五五年五月一〇日右訴外会社に対し合計一六四万〇四〇〇円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 五五万円

(二一)  第一事件原告北勢運送

(1) 車両損害 九〇万円

大型貨物自動車(神戸一一あ八一四六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五〇年式の日野KL五四一であったこと、本件事故当時第一事件原告北勢運送が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は九〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 九〇万四二〇〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外株式会社東洋ベアリング磐田製作所から運送を委託された自動車部品を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年九月二〇日右訴外会社に対し合計九〇万四二〇〇円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 二〇万円

(二二)  第一事件原告日本運送

(1) 車両損害 二八〇万円

ア 大型貨物自動車(名古屋一一か六六二六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和四八年式の三菱T九五一Tであったこと、本件事故当時第一事件原告日本運送が右自動車を所有していたこと及び右自動車の新車価格は四五〇万円であったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は八〇万円を下回らないものであったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

イ 大型貨物自動車(三 一一か五〇一二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FM二一五Jであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二〇〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 一八三万〇六四二円

ア 〈証拠〉によれば、右自動車(名古屋一一か六六二六)には訴外日本理化製紙株式会社から運送を委託されたPE食品用紙約一〇万一八三〇メートルを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年一〇月二五日右訴外会社に対し合計一四三万三七六七円を支払ったことが認められる。

イ 〈証拠〉によれば、右自動車(三 一一か五〇一二)には訴外油化バーディッシェ株式会社から運送を委託されたコンテナ四基を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年一一月三〇日右訴外会社に対し合計三九万六八七五円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 九〇万円

(4) 弁護士費用 五五万円

(二三)  第一事件原告山一運送

(1) 車両損害 五〇万円

大型貨物自動車(神戸一一あ三八〇二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和四八年式の三菱T六五三Eであったこと、本件事故当時第一事件原告山一運送が右自動車を所有していたこと、右自動車の新車価格は一六四万円であったこと及び昭和四九年式の同型車(新車価格二〇一万円)の昭和五三年七月から八月の間の中古価格が八〇万円を下回らなかったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は五〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 五万円

(二四)  第一事件原告丸水運輸

(1) 車両損害 一二三五万円

ア 大型特殊自動車(神戸八八か二三二五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日野KF七八六であったこと、本件事故当時第一事件原告丸水運輸が右自動車を所有していたこと、右自動車と同年式・同型の通常のものの新車価格は六五八万円であったが、右自動車は昭和五三年一〇月に冷凍車用に架装して合計一一〇五万円で購入したことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は一〇〇〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

イ 大型貨物自動車(神戸一一か七〇〇九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五〇年式の日野KF七八二であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二三五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右各自動車には訴外東京魚市場発送株式会社及び同永井株式会社から運送を委託された鮮魚を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと、右積荷の賠償として昭和五四年一二月六日右東京魚市場発送株式会社に対し合計九九三万六六六九円を、右永井株式会社に対し合計一〇四万四二八〇円をそれぞれ支払う旨の示談が成立したことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 九〇万円

(4) 弁護士費用 一三〇万円

(二五)  第一事件原告今津陸運

(1) 車両損害 六三〇万円

大型貨物自動車(神戸一一き一一八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五四年式の日野KF七八六であったこと、本件事故当時第一事件原告今津陸運が右自動車を所有していたこと及び右自動車の新車価格は六五八万円であったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は六三〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 一〇〇万三八〇〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外吉原製油株式会社から運送を委託された豆腐用五徳豆約一〇・五トンを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと、右積荷の賠償として昭和五四年一二月二五日右訴外会社に対し合計一〇〇万三八〇〇円を支払ったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 七五万円

(二六)  第一事件原告大阪梅田運送

(1) 車両損害 三三五万円

大型貨物自動車(大阪一一い四一七六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FT一一二Sであったこと、本件事故当時第一事件原告大阪梅田運送が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三三五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 三五万円

(二七)  第一事件原告山野運輸倉庫

(1) 車両損害 三五五万円

大型貨物自動車(泉一一か五四七八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の三菱FU一一九Pであったこと、本件事故当時第一事件原告山野運輸倉庫が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三五五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

右自動車に〈証拠〉記載の銅屑が積載されており、右銅層が本件事故により焼毀したことを認めるに足りる証拠はない。なお、〈証拠〉に記載の銅屑については、出荷月日が七月二四日、トラック番号が泉一一か四一〇四となっており、本件事故との関連を認めることができない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 四〇万円

(二八)  第一事件原告丸松運送

(1) 積荷損害 一七一万六〇〇〇円

大型貨物自動車(大阪一一あ九七二一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車には訴外東亜ペイント株式会社から運送を委託されたトアクレタイルマウントベース約一〇トン等を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び第一事件原告丸松運送が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二二〇万六〇〇〇円の賠償請求を受けて昭和五四年八月三一日五三万三〇〇〇円、同年九月二九日五〇万円及び同年一〇月三一日六八万三〇〇〇円合計一七一万六〇〇〇円を支払ったことが認められる。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 二〇万円

(二九)  第一事件原告山陽自動車運送

(1) 車両損害 一七〇万円

ア 大型貨物自動車(大阪一一あ六四一三)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和四八年式の日野KF三六〇であったこと、本件事故当時第一事件原告山陽自動車運送が右自動車を所有していたこと、右自動車と同型で昭和四九年式のものの本件事故当時の時価は一四五万円、同五〇年式のものは二〇五万円であったこと、同原告が昭和五四年六月に右自動車に架装費用として三一万七〇五〇円を費やしたことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は一二〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

イ 大型貨物自動車(大阪一い一一三九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和四五年式の日野TC七四〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと、右自動車の新車価格は三六五万円であったこと、右自動車と同型で昭和四九年式のものの本件事故当時の時価は一四五万円であったこと及び同原告が昭和五二年一一月に右自動車に架装費用として六〇万九〇〇〇円を費やしたことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は五〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 九〇万円

(3) 弁護士費用 二五万円

(三〇)  第一事件原告曽爾運送

(1) 車両損害 三一五万円

大型貨物自動車(奈一一か八四六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五一年式の日野KF七八三であったこと、本件事故当時第一事件原告曽爾運送が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三一五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外飛鳥木材株式会社から運送を委託された木材を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二一〇万三〇七〇円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 三五万円

(三一)  第一事件原告松茂運輸

(1) 車両損害 三八〇万円

大型貨物自動車(徳一一か一九七一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、本件事故当時第一事件原告松茂運輸が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は同原告主張の三八〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 六五万〇一三〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外大栄運輸株式会社から運送を委託された段ボール用中芯約一〇トンを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年九月二五日右訴外会社に対し合計六五万〇一三〇円を支払ったことが認められる。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 四五万円

(三二)  第一事件原告宝海運

(1) 車両損害 三八五万円

大型貨物自動車(徳一一か一七二七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日野KF七九七であったこと、本件事故当時第一事件原告宝海運が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三八五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外大塚倉庫株式会社から運送を委託された清涼飲料水用空瓶を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告は右積荷の賠償として右訴外会社から合計七二万円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 四〇万円

(三三)  第一事件原告大川陸運

(1) 車両損害 三九〇万円

大型貨物自動車(香一一か二五七七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、第一事件原告大川陸運が同年一〇月二〇日訴外日産ディーゼル東四国販売株式会社から代金八五五万円、これを同年一二月から同五五年五月まで三〇回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三九〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 積荷損害 〇円

〈証拠〉によれば、右自動車には訴外大石産業株式会社から運送を委託された鶏卵輸送用容器約九一〇〇セットを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計九〇万円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠はないから、既に説示したとおり同原告の積荷損害についての請求は理由がない。

(3) 休車損害 四五万円

(4) 弁護士費用 四〇万円

(三四)  第一事件原告高知通運

(1) 車両損害 四二〇万円

大型貨物自動車(高一一か二六四一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、本件事故当時第一事件原告高知通運が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四二〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 四五万円

(三五)  第一事件原告和気運輸

(1) 車両損害 四三〇万円

大型貨物自動車(岡一一か五九五五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FU一一九Rであったこと、第一事件原告和気運輸が同年五月二〇日訴外岡山三菱ふそう自動車販売株式会社から代金六七六万五八六〇円、これを同年七月から同五五年六月まで二四回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四三〇万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 四五万円

(3) 弁護士費用 四五万円

(三六)  第一事件原告司運輸

(1) 車両損害 七一〇万円

大型貨物自動車(北九州一一か五四三八)及び大型貨物自動車(北九州一一か五八五七)がいずれも本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右各自動車はいずれも昭和五三年式の日産ディーゼルCV四一Vであったこと、本件事故当時第一事件原告司運輸が右各自動車を所有していたこと及び右各自動車の本件事故当時の時価は三五五万円を下回らなかったことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(2) 休車損害 九〇万円

(3) 弁護士費用 八〇万円

3  第二事件原告の損害

(一)  車両損害 一二〇万円

小型貨物自動車(多摩四四ち一八七六)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。〈証拠〉によれば、右自動車は昭和五三年式の日産キャブオールクリッパーYC三四〇であったこと、本件事故当時第二事件原告が右自動車を所有していたこと及び同原告が昭和五三年一二月に代金合計一四八万五一五〇円(うち車両価格一三四万五〇〇〇円)で購入したことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は一二〇万円を下回らなかったと推認するのが相当であり、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(二)  積荷損害 一八四万三七九二円

〈証拠〉によれば、右自動車には、第二事件原告が所有していた真鍮丸棒、アルミ棒等の金属材料を積載していたこと、本件事故によって右金属材料が熔解等したため商品価値を失ったこと、右金属材料の価格は合計一八四万三七九二円であったことが認められる。

六  結論

以上のとおりであるから、(一)第一事件原告の本訴請求は、被告に対し別紙第一事件原告別認容金額一覧表の原告名欄記載の第一事件各原告につき同表の認容金額欄記載の各金員並びに遅延損害金欄記載のとおり車両損害及び休車損害については本件事故の日である昭和五四年七月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、積荷損害については荷主に対して弁済しその被告に対する損害賠償請求権を代位取得した日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、(二)第二事件原告の本訴請求は、被告に対し三〇四万三七九二円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和六一年五月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれを正当として認容するが、第一事件原告ら及び第二事件原告のその余の各請求はいずれも理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用し、仮執行の免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 原田 卓 裁判官 竹野下喜彦)

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